――裁判所のロビーにて、関口が椅子に座って休んでいる。
関口の姿をみつけ国平、連れに断りを入れて駆け寄る。
国平「関口弁護士(せんせい)……」
関口「……(無言で国平に一礼)」
国平「…財前教授がお亡くなりになりました。」
関口「…うかがってます。」
国平「裁判も終わりです。 先日遺族の方にお会いしたら
最高裁には持ち込まないとの意志を示されました。」
関口「病院側は?」
国平「もう、関りたくないようですね。
そんなことよりも浪速大学病院はこれからが大変でしょう。
財前教授のような優秀な医師に亡くなられては
その評判も落ちざるえませんからねぇ。」
関口「確かに…財前さんは優秀な医師でした。
そのことは私も認めていますよ。」
国平「まぁ、済んでしまったことには興味がありません。
…あなたとはまた法廷で出会いたいものです。」
関口「僕は……ゴメンですね。
願わくばもう二度とこのような裁判がおきなければいい。
……そう思ってますよ。」
国平「それは無理な話ですね。」
関口「そうでしょうか?」
国平「病院を訴えるという輩は後を立ちませんからね。
医師がいちいち訴えられては、ひいては医療の発展に大きな支障をきたす。
…そう思われませんか?」
関口「確かに……医師だって人間です。 間違える事だってある。
しかしそれらに真摯に向き合う姿勢を持ち、それを乗り越えて行く。
それは医療の発展に大いに貢献することだと思います。」
国平「(フッ)……またお会いしましょう。 法廷で。(立ち去ろうとする)」
関口「待ってください。 …… 一つだけお聞きかせ願えませんか?」
国平「(振り返る) なんでしょう?」
関口「…佐々木さんのカルテに対して行われた改ざん。
あれは…… 誰が指示したものなんですか?」
国平「いまさらそんなことを聞いてもどうにもなりませんよ?」
関口「私が個人的に聞きたいだけです。国平弁護士(先生)…」
国平「……」
関口「……」
国平「あれは改ざんではありませんよ。 事実の確認です。
…失礼します。」
国平、関口に背をむけて歩き去る。
関口、その後姿をしばらく見つめる。
やがて立ち上がると、国平とは逆方向に向かって歩き出す。