新しいドラマが始まるたびに、この人の顔を見ているような気が
する。どの役も二枚目なのにクセが強く、目に焼き付いて離れない
ものばかりだ。
大ヒットした「HERO」(フジ系)では、同僚と不倫するエリ
ート検事。「昔の男」(TBS系)では、自堕落な母親がいて心にゆ
がみを持つ公認会計士。「トリック」(朝日系)では、マヌケで小
心者の物理学者。これほど二面性を持ったキャラクターが似合う俳
優は少ない。
「そういう"振れ幅"の大きい役は好きですね。複雑なキャラク
ターが成立するのは、物語の本筋がしっかりしているからなんです
よ。締めるところは締めないと作品にならない。」
今回のドラマで演じる有働和明という男も、「弁護士なのに借金
苦」「正義感があるのに毒舌」「人情家なのに嫌われキャラ」と大い
なる矛盾を抱えた人物だ。
「サスペンスとしてもしっかりしているんだけど、そこから離れ
た、余分なやりとりも楽しい。やっぱり振れ幅が大きいんですよ」
意外なことに、民法での単独主演は十三年ぶりだという。「前の
時は、この世界に入ったばっかりで、やらされているっていう感覚
が強かった」。モデル出身の若手俳優としてもてはやされていたこ
ろだ。その後、映画やビデオ、舞台と活躍の場を広げてきた。
「仕事の選択基準なんかないですよ。いろんな役を自分のものに
していくのが喜びだから」。それぞれの役を模索し、試行錯誤しな
がら、「遊んでいる」のだととつとつと語る。
「『トリック』なんて、自分でもくだらねえなあとか、このギャ
グ分かんないだろうなあ、とか思いながらやってるんだけど、それ
を何万人という人が見て、面白がってくれる。うれしいですよね」
これだけ多彩な役柄を演じていても、「できないキャラってたく
さんあるんですよ」とも語る。 「たとえば、コワイ系。ヤクザの
役とか。ああいう存在感が出るには年齢も必要だし、肌質っていう
か、そういう要素も必要なんですよ」「Aという役をやるために、
BやC、Dをやらないと出来ないこともある。出来ないと悔しいし、
納得できるまでやらないと」
ヤクザを演じきる凄みがあれば、それを利用して、全く逆のコ
メディーも出来る。「原田芳雄さんの『寝盗られ宗介』みたいなの、
大好きですよ。原田さん、タンクトップ着て、バット振ってるだけ
で、最高におかしい」
昨年、九八年に出版した著書「アベちゃんの悲劇」を改訂して文庫
版にした。「悲劇は卒業」ということで、悲に×をして「アベちゃ
んの悲(×)喜劇」というタイトルを付けた。
この変化が、彼の今の演技を、そのまま物
語っているようだ。人間の悲劇も喜劇も、正
気も狂気も、善も悪も、みな紙一重。そんな境
界線はまやかしで、誰もが、彼の演じる役柄のように、矛盾の中
に存在しているのではないか。そんなことを考えた。
文・桜井 学
写真・多田貴司
Q 弁護士を描いた映画やドラマはたくさんありますが、何か印象に残っている作品は。
A マドンナとウィレム・デフォーの「BODY」。まねをするということはないけど。
あの法廷シーンは印象に残ってます。もし行き詰まったら、ユースケ(・サンタマリア)さんが
やったやつ(フジ系「花村大介」)とか見てみようかな。
Q 連続ドラマへの出演が相次いで、忙しいのでは。
A 連ドラだから目立つだけで、役者は映画や舞台などいろんなところでいくつもの
キャラクターをやっているから、大変だってことはない。もっとたくさん出ている人も居るんで、
僕なんか大したことないですよ。
Q 視聴率は気にしますか。
A よければ現場は盛り上がるけど、作るときにはあまり気にしません。いいものを作ろう
という意識はありますけど。(全回視聴率30%を超えた)「HERO」の時も、中に入っちゃうと
異常人気は分からない。みんなで視聴率予想はしたけど、毎回それを上回ってましたね。
Q 映画版「トリック」のヒットは予想できましたか。
A ここまで当たるとは思わなかった。ドラマだって最初はあんまり(視聴率が)良くなかった。
じわじわと評判が広まって、DVDが売れたり、関連本が出たり。こういうのが一番いいパターン
なんですよね。