196 :
名無しでGO!:
朝なんとなく目が覚めた。意識が朦朧としている。重苦しい不快感と猛烈な眠気が僕を苛む。いったい何がどうなっているんだとあがいた。
そうだった。昨日は鎌倉から江の島を歩き回ったのだ。
8月の最後の週末、人出で江の島の狭い島内はごった返していた。石段の続く参道は上る人と下る人がひしめき合って明治神宮の初詣なみだった。
早々に江の島を抜け出すと、海岸通りを鎌倉方面に走った。右手に相模灘、左は崖と鉄路。そこを江ノ電がガタゴトと進んでいく姿に、京子は強く引かれたようだった。
「あれ、乗りたいわ」
いったん鎌倉まで行くと鶴が岡八幡宮前の駐車場に入れ、そこから若宮大路を歩いて駅に向かい江ノ電に乗った。窓の外の景色を京子は夢中で眺めていた。
「こっちの海、もっときたないのかって思ってたのに」
思ったよりもきれいで驚いたということだった。確かに京子の住む町の海は海の底まで見える。初めて案内された日に僕はそれがショックだったものだ。
どの海岸もサーフィンをする人だらけであるのも京子には新鮮な感動らしかった。「湘南」のイメージがそのまま目の前にあることが気に入ったのだろう。
終点の藤沢で改札を出てすぐに鎌倉までの切符を買いなおした
藤沢発の電車はすいていたが途中の乗り降りでいつしか座先は埋まり、立っている人が増えていた。そんなときだった。
「アラッ、大変ねぇ」
左手に幼児を腕に抱き右手で折畳んだバギーを支えた若い母親が乗り込んでくると、急に京子がそう声を上げたのだ。他の客が何事かとこちらに注目するほどの唐突で大きな声だった。
「いらっしゃい。こっち、こっち」
まるで自宅にいるように京子は身を乗り出し、手を振って母子を呼び寄せた。
「立ってると危ないわよ。ここにお座りなさいね」
そして肘で僕をグイグイ押しながら
「さあ、ソーイチ、立って席をお譲りなさい」
『エェェッ。。。なんで俺なんだよー。。。』