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荻原:
◇早期救済の訴え切実
《解説》28日の原爆症の東京高裁判決は、認定基準から外れていた肝機能障害と甲状腺機能低下症を原爆症と認め、認定行政の見直しを国に求める内容になった。一連の全國訴訟の中でも、国が特に重視してきた東京高
裁の判決で「適格性を欠く」と指摘されたことで、基準の変更を迫られるのは必至だ。国は昨春、「機械的な切り捨て」と批判されていた認定基準を緩和し、08年度は前年度の23倍にあたる2969件を認定した。だが、この日の
判決は焦点になった両疾病について「否定する見解はあるが、原爆放射線と関連性があるものとして審査にあたるべきだ」と現行基準の問題店を指摘した。厚生労働省はこれまで、肝炎などの肝機能障害については「原因は
ウイルス感染。放射線起因性はない」と原爆との因果関係を否定してきた。集団訴訟では各地の一審で判断が分かれたため、「高裁の判断を仰ぐ必要がある」として控訴した。集団訴訟で原告の訴えを認める判決が続いてお
り、原告側はこれで国の「18連敗」だとしている。昨秋以降、厚労省の諮問機関の原子爆弾被爆者医療分科会は両疾病を認定基準に盛り込むか議論を続けており、今後、早期に結論を出す必要がある。河村官房長官は、今
回の東京高裁判決を政府として判決を待つ最後の機会にしたいとの意向を表明してきた。そのため被爆者側は、認定基準の見直しだけでなく、306人の原告全員の救済に期待を寄せている。だが、未認定の原告は137人。仮
に二つの疾病を基準に盛り込んでも、全員は認定できない。とりわけ、病気と原爆との因果関係が裁判で否定された敗訴原告をどう救済するのか。原告側は一時金の支払いを求めているが、厚労省は、集団訴訟以外の被爆
者との公平性などから、消極的だ。審査待ちの被爆者も約7800人おり、結論をいつ出せるか明らかではない。被爆者の平均年齢は75歳を超え、すでに68人の原告が亡くなった。勝訴したのに、国が認定していない原告は61
人にのぼり、裁判の早期決着を望む被爆者の声は切実だ。今こそ国は、判決を重く受け止めるべきだろう。(野瀬輝彦)