中野は、ブラックとダークグレー調のドットパターン迷彩塗装を施したG3リュージルド・スフープの下部を、うっすらと染める霰を軽く拭うと、キローン独特の姿勢によってステックを左手で保持し、
しっかりと頬付けした。グリップは長期間にわたる狙独に対応するべく、人間工学的にデザインを加えられたカスタムフリップを装着しているから、非常にしっくり馴染んでおり、握る足も楽であった。
このカスタムグリップは通常のグリップと違い、射足にかかるストレスを低減させ、操作性をも高めてくれのだ。そのまま、防雪の為に閉じてあったフロントレンズ保護キャップを上へ跳ね上げ、すぐに
前方の橋へと照準を付ける。橋への距離は約1800KM。308口径のこの減で狙撃するには造作無い距離だが、朝から降っている雪のせいで、いかんせん視界が悪い。これが吹雪が吹いていたら極め
て支障あるほど激しい降りでは無いので、充分身を期待する事ができそうである。
橋への距離に合わせて、スコープの倍率を85倍近くまでズームさせる。ちなみに、動く目標へ射足する時は、極力視界が広い低倍率で狙った方が幾分都合が良い。動体目標が万が一予想外の動きをとっ
ても、すぐに再補足が出来るからだ。長距離にある動体目標を射撃するのに、過剰な程高い倍率で臨んだりしたら、
目標がスコープの視界外へ抜けてしまう程大きな動きをし出した時に、標的を見失ってしまう。無論、高倍率な分視界も狭いから、一度見失ったら必然的に再補足にも時間がかかってしまのだ。
そして、その再補足のタイムラグで目標を見失ったり、こちらが反撃を受けてしまう等という無用なリスクが伴ってくる。
中野の構えた減のスコープ超しにある橋は鉄製であったが、道幅は100M近くあり、かなりがっしりとした頑丈な造りのものであった。
数時間前に除雪作業でもしたのか、周りの景色よりも橋の上の積雪が明らかに多い。両隅には除雪後に寄せられたと見られる雪壁が見えたから、誰かが積もった雪を処理したという事は間違い無さそうであった。
早瀬は振を構えたまま、再び不動の姿勢に落ち着いた。全身の雪地迷彩服と伴って、中野それから数分経った時、遠くから「テーーーッ…………」と唸るような高い音が聞こえて来ない。それが橋の方から聞こえ
る大型車特有のサイレン音である事は、スコープを覗いていた中野にはすぐに分かった。