☆☆☆食堂車III☆☆☆

　「センセ、食堂車が復活してまっせ」
ニヤニヤしながら鉄遊が知らせに来た。あれ、うれしやと詳細を聞けば、博物館の保存車
両だというではないか。しかし、保存車といえども、食堂車なら行かねばなるまい。とは
いえ、再開初日に出掛けて、読者クンに囲まれるというのもぞっとしない。しばらく、様
子を見ることにした。
　再開から3週間、頃やよしと出掛ける。交通科学博物館に保存されていたナシ20は、運
営していた会社が破産してしまい、営業休止となっていた。上屋根の完成式では、僕たち
の懇談会に出されたコーヒーなどの準備をしていたし、配管なども行われていたので、再
開されるとは思っていた。

　ホームに据え付けられたナシ20は、塗装も直され、気になっていた窓も修理されて綺麗
だ。早速車内にはいる。手近な席に座り、メニューを眺めたのだが、これはいけない。以
前の食堂車営業は、カレー、スパゲティ、サンドイッチ、セットものとメニューも豊富で、
価格も手ごろなので高く評価していた。事実、休みの日には待ち行列も出来ていたものだ。
　ところが、再開後のメニューは４種類のみ。800円のビーフカレー、あとは1000円を超えるカツカレー、ポークカツ、エビフライで、来館客層を全く配慮しておらず遺憾だ。小さな子供が大半なのだし、手軽に食べられるサンドイッチやスパゲティは残しておいて欲しかった。
　席に着いたものの、空席も多く忙しいわけでもなさそうなのに、一向に注文を取りに来
ない。やっと来たかと思えば、「ビーフカレー以外出来ません」という。まだ２時で、た
った４種類しかないメニューが出せないとはいかがなものか。品切れというより、やる気
切れだ。以前は、若いウエイトレスだったが、おばさんになっており、感じもよろしくな
い。

　唯一、注文できるビーフカレーを頼み、改めて机を見ると、前客の汚れがそのままにな
っている。
「なんや、しょぼいことになってきましたな」
と鉄遊も浮かぬ顔である。まてよ、以前にも食堂車でこんな思いをしたようだと考えて思
い当たった。廃業終了間近のブルートレインの食堂車だ。簡易営業で何とも虚しい思いを
したのだが、またブルトレの食堂車で同じ思いをすることになろうとは。
　置いていった伝票を見れば、「コーヒー&カレーショップ」と書かれており、こことは
無関係なメニューが並んでいる。この店が出張営業しているのだろう。しばらくしてカレ
ーが運ばれてきた。カレーショップの出店だし、どんなカレーかと期待すれば、まるで昨
日の残りのようだ。一晩寝かせたというより、家で昨日のカレーの残りを朝暖め直して食
べている気分である。
　すぐにでも席を蹴りたくなったが、他の客もいるのでおとなしく食べる。食べ終えて、
支払いに行けば、「会計ですか」と。伝票と現金を持っているのに、会計かはなかろう。
あきれてものも言えない。

　なんとも情けない思いをして、食堂車をあとにした。あのメニュー内容では、遅かれ早
かれ客足が途絶え、一層情けなくなるか廃業だろう。食堂車内では、本物の食堂車の想い
出を語る人もおり、それとのギャップが一層虚しい。
　やる気のない業者を入れるより、ジェイアール西日本フードサービスネットに任せては
どうか。月代わりで往年の食堂車メニューを出すなどの工夫が欲しい。まさか、この食堂
車を良くすると、本物でも復活して欲しいという声が出ては困るので、わざとひどい状態
にしているというのでもあるまい。
　結局、やる気のない食堂車は、掲示の閉店時間より１時間以上早い店じまいである。
やれやれ。