サタデー特報=地方便の活路模索 小型機で増便、自治体と連携 九州 羽田線には熱い視線
九州の空港を発着する航空路線の運休・減便傾向が続いている。昨秋以降の世界的な景気低迷などに伴い、需要は大幅に落ち込んでおり、
不採算路線の見直しは今後も避けられない情勢だ。航空各社は、路線維持を望む地元の支援も得ながら、運航の効率化や路線の再編成に
知恵を絞っている。 (報道センター・田中伸幸、久永健志)
6月4日に開港したばかりの静岡空港。今月23日には熊本、鹿児島線の運航が始まったが、開港と同時に就航した日本航空の福岡線の
搭乗率は60%割れ。「地方−地方」路線の厳しさを、早くも突き付けられている。2009年度の搭乗率が70%を切った場合、静岡県は
1%につき3500万円強を払う保証制度で日航を支援するものの、税金投入には批判も強い。日航は「しっかりとマーケティングをして
搭乗率を向上させたい」とするが、「1日3往復の設定に無理がある」との声が業界内から漏れる。
それでも地元は、地域活性化につながる「翼」を守ろうと懸命だ。7日、県西部で今秋開かれる「浜名湖立体花博」の宣伝に福岡市を訪れた
鈴木康友・浜松市長は「ぜひ福岡から航空機で多く来てもらいたい」と訴えることを忘れなかった。 九州の空港でも、航空会社と地元などの
協力で空の便の利用促進を目指す動きが目立つ。佐賀空港では、同空港の路線を多用する事業所などに、佐賀県などで組織する協議会が航空券
をプレゼントするなど特典付きの運動を展開中。韓国観光公社福岡支社は九州内の6空港の地元と連携し共同キャンペーンを張る。公社の金萬真
(キムマンジン)支社長は「皆で盛り上げないと、地方路線はなくなるだけ」と強調する。
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路線維持と業績改善との両立を目指す各社が今後、取り組みを強化するのが旅客機の小型化だ。全日空は08年4月、1日6便だった福岡−伊丹線
の機材を大型(405人または514人乗り)から中型(270人乗り)に代えるなどする一方で1便増やした。座席数は4分の3に減ったが
利便性向上で乗客は微増。搭乗率は60%から79%に上昇し、燃料費などコストも下がった結果、収益が大幅に改善したという。
今後、米ボーイング社や三菱重工製の中型、小型機を積極導入。福岡支店の浅田康夫販売計画部長は「採算の厳しい地方路線でも、需要に見合った
小型機材を用意できれば運航できるところはある」と断言する。日航はすでに、福岡−小牧線でブラジル製小型ジェット機「エンブラエル170」
(76人乗り)を導入。ただ、旅行業界には「小型機化が進みすぎると、大口の団体客が受け入れられなくなる」との懸念もある。
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空港再拡張で来年、発着枠が増える羽田線の行方にも、業界の熱い視線が注がれる。
北九州−羽田線を持つスターフライヤーは、新たに10往復分の枠を要望し、乗客数が国内2位の福岡−羽田線に参入する意向を表明。8往復を
福岡線に充てたいとする。全日空は福岡以外の地方空港と羽田を結ぶ路線を増やし、羽田経由で直行便のない地方間をつなぐ路線網の編成を描く。
一方、撤退が相次ぐ国際線では、日航福岡支店が「海外へのニーズは地方にも当然ある。細かく対応したい」とチャーター便の投入に積極的だ。
海外の航空会社の中には「アジアでの乗り継ぎが便利、という意識が広がっている」(キャセイパシフィック航空福岡旅客営業支店など)とみて、
九州とアジアの拠点(ハブ)空港を結ぶ路線の充実を目指す動きもある。
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●九州8空港 休止や減便続く ビジネス、観光とも低迷
九州の主要8空港(福岡、北九州、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島)合計の7月現在の定期路線は、国内線74路線と国際線25路線。
過去5年で最多だった2006年の7月と比べると、国内線が6路線、国際線は8路線減少した。
便数も減少基調。7月の国内線は1日379便(往復)で、06年同月に比べ15便減少。国際線は08年まで堅調だったが、今年7月は前年同月から
週13便少ない週174便となっている。路線休止・減便の主因は、世界的な景気低迷による需要の急減だ。企業の出張費抑制に伴うビジネス需要の
減少に加え、個人客の観光需要も大きく減退している。搭乗率の悪化を受け航空各社も昨年から、路線網の見直しに本腰を入れている。路線見直しの
ターゲットになったのが、地方空港同士を結ぶ国内線と地方空港発着の国際線だ。
国内線では、ビジネス、観光ともに需要が大きい羽田線は過去5年間便数にほとんど変化はないが、ビジネス需要が期待できない「地方−地方」で
運休が加速。今年に入り鹿児島−神戸が休止、11月には長崎−宮崎も休止の予定。新型インフルエンザの流行も重なり、4−6月の国内線利用客数が
過去最大の下落率になった全日空は、関西空港発着の福岡、鹿児島便をそれぞれ減便、廃止する検討を進めている。
国際線では、今年になって鹿児島−香港が休止となったほか、夏季限定の北九州−ウラジオストクも今年は運航取りやめが決定している。
福岡−ケアンズ、クアラルンプール、デンパサールなど各線の運休が相次いだ06年以降の退潮傾向に歯止めがかかっていない。
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▼羽田枠拡大へ
羽田空港が2010年10月に再拡張されるのに伴い、国内線の発着枠として新たに37往復分が航空会社に配分される。国土交通省は配分の
基本方針として、新規参入の航空会社に対する優遇枠のほか、地方路線枠や座席数100席以下の小型機枠を設定。大手には、福岡−羽田など乗客の
多い幹線路線での増便が認められないなどの制約がある。同省によると、すでに設定枠を上回る希望が各社から上がっており、枠の配分を検討する
懇談会が秋にも決定する。
2009.07.25 朝刊 12頁 西日本新聞社