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87田中ミッキー
5,ブラジルの秘密兵器『パイプ』

スパイクの基本はオープン

 今回は、現在のバレーボール戦術に絶対欠かせない、バックアタックについて書いてみたい。
 この攻撃法は、1960年代後半から使われだし、ミュンヘン五輪(1972年)のあと、ポーランドが積極的に取り入れ、完成の域にまで高めた。この戦法をチームの中軸として切り回したのが、トーマス・ヴォイトビチという選手だった。
 ポーランドは、1974年のメキシコ世界選手権、1976年モントリオール五輪に優勝して一時代を築いた。
 その後、バックアタックは特殊な技術ではなく、ごくあたりまえに使われるようになり、二人制サーブレシーブの定着とともに(バックアタック絡みの)コンビの種類が飛躍的に増えた。
 最近では、ブラジルがパイプという中央攻撃を開発し、その結果、多方向のバックアタックシステムともいうべき戦法が生まれ、注目されている。パイプに関しては後述するが、バックアタックの戦術に触れる前に、私自身のスパイクについての考え方を簡単に記しておく。
88田中ミッキー:2001/08/07(火) 00:39
 スパイクの基本は、あくまでもオープントスを打つことにある、と私は考えている。オープントスが打てるようになれば、クイックはすぐにでもこなせる。
 しかし、オープントスをしっかり打てるようになるのはそう簡単ではないし、時間もかかってしまう。人問はともすれば易きに流されてしまう。華やかでかっこいいクイックの練習ばかりして、オープントスの練習を怠る指導者や選手のなんと多いことか。歴代の世界チャンピオンチームを眺めてみると、オープントス(とりわけ二段トス)がきちんと打てるエースを例外なく擁していたことがわかる。
 言い換えれば、そういったエースを育てることが、世界一になるための必要条件なのだ。このことは、データがはっきり証明しているのだが、ここでは詳述しない。
 ところで、一つのチームで二枚のエースを擁するのは至難の技と言ってもいい。どのチームも一枚のエ−スで苦労する。それなら、後衛からも打たそうという発想が生まれるのは自然の成り行きに違いない。
 もちろん純粋に戦術として取り入れてもいるのだが、バックアタックの大流行の陰には、案外、二枚のエ−スが用意できないための苦肉の策、といった要素も強い。
 それでは、バックアタックの長所について述べてみる。まず、ネットから離れたところから打つのでブロックのタイミングがとりづらい。次に、バックアタックはコース打ちが容易にできることだ。
 図1、図2を見てもらいたい。(レフト側からの)前衛でのスパイクとバックアタックを比較してみると、前衛からのほうが数段、厳しいコース打ちを要求されることがよくわかる。
 また、二段トスを打つ場合、ネットから離れた場所から上がってくるトスほど難しいのだが(ネットの線に対して、トスの角度が90度に近くなればなるほど難しくなる)、バックアタックの場合はその角度が比較的緩和されて、打ち易くなるということもできる(図3)。
89田中ミッキー:2001/08/07(火) 00:41
 そしてもう一つ。これは、日本人プレーヤーと外回人プレーヤーとの比較にもなるが、バックアタックは外国人の肉体的なハンディキャップを補う役割も果たしている。
 先に示した図の中の例えば1のとき、しっかりしたコース打ちをするためにはできるだ
け上に跳ぶ(ブロードジャンプしないこと)ことが要求される。そのためには強じんな下半身が必要で、しかも空中で自由になる軟らかい肩も待ち合わせていなければならない。
 関節が硬く、下半身の弱い外国人手たちにとって、二段トスを打ちこなすプレーは最も苦手なプレーだった。現在の世界のバレーボーラーを見ても、前衛で二段トスをしっかりコース打ちできるプレーヤーは少ない。それほど高度なプレーなのだ。昔は得点するときにはどうしても必要なプレーだったが、バックアタックがそれに取って代わった。
 つまり、バックアタックの利点はブロックのタイミングが合わせづらく、容易にコース打ちができ、外国人選手の苦手なプレーをなくしたということにまとめることができる。
 ところで、前衛の二段トスがバックアタックに取って代わられた結果、世界のスパイカ−たちは総じてコース打ちができなくなったという、奇妙な傾向が出始めた。高さと馬カに頼るスパイクがまん延し始めたのである。現在の日本のエ−スも例外ではない。高さと馬力の勝負になっては、日本がますます不利になることは目に見えている。
 コース打ちをしっかりできるエ−スを育てることが、日本が世界に伍していくために、避けて通れない条件になっていると思うのだがどうか。
90田中ミッキー:2001/08/07(火) 00:43
流れは全員攻撃に向かう

 先述したように、二人制サーブレシーブが開発されてからバックアタックをコンビの中に組み入れ、多様な戦術戦法が編み出されるようになった。
 そして最近では、タイミングもどんどん速くなってきている。バックアタックを仕掛ける場所は、日本では3ゾーンに分けているチームが多いが、外国チームの多くは4ゾーンに分け、実際の攻撃は、5か所から仕掛けてくる(図4)。
 バックアタックは、本来ライト側からの攻撃が主だったが、バルセロナ五輪以降注目され、今では多くの国が取り入れているパイプと呼ばれる中央攻撃がある。
 この攻撃を効果的に使うには両サイドからの速い攻撃が不可欠で、さらに時間差ぐらいの速さ、タイミングで仕掛ける必要がある。と同時に、相手側に読まれ、3枚のブロックがつく可能性があり、たいへん危倹なプレーであることを忘れてはならない。
 あるチームは得点をしたいときにパイプをよく使っていたが、タイミングが遅く、ほとんど3枚のブロックがついていた。もちろん思惑どおりに得点できるわけがない。いくらパイプが世界の流れとはいえ、模倣だけに走る悪い例である。
現時点では、ブラジルが最も効果的にこの攻撃を戦法化しているが、セッターのマウリシオ・リマが繰り出す両サイドヘの速いトスに、相手ブロッカーがくぎづけになるため、パイプの効果がより大きくなっている。
つまり、パイプはセッターの能力に負うところが大きいので、少々レシーブが崩れても速い平行が上げられるように、日ごろから注意して練習しておかなければならない。バックアタックのタイミングは予想以上に速くなってきており、前衛の攻撃かと見まちがうときすらある。バックからのクイック・時間差の組み合わせが見られるのも、そう遠いことではないだろう。パイプの開発は、技術革新の大きな潮流の中の一つの出来事だと言える。バレーボールの攻撃は、明らかに全員攻撃の方向に向かっている、と言える。
91田中ミッキー:2001/08/07(火) 00:44
 各国ともに二人制レシーブ体制を敷き、ジャンプサーブのときのみ三人制レシーブを敷く。従来はレシーブに参加した選手は、バックアタックは仕掛けなかったものだが、最近はどのチームも、4人攻撃ないしは全員攻撃が常識になってきた。
 あたりまえの話だが、ブロックはどんなに頑張っても3枚しか挑べないのだ。それに対しで攻撃側がアドバンテージを得ようとすれば、必然的に全員攻撃の発想が生まれてこようというものだ。
 しかし、ここで一つ問題点も生まれてきた。攻撃が気になるとサーブレシーブがおろそかになり、レシーブそのものが崩れることが多くなる。その結果、逆に攻撃が単調になるケースが増えてきたのである。
 二人制サーブレシーブのところでも述べたことだが、このレシーブ体制は返球率の向上にあり、それに追随してバックアタックの効力が増してきたのである。バックアタックを引き出すために、二人制サーブレシーブがあるのではない。ここを誤解しているチームを多く見かける。
 サーブレシーブの返球率を向上させて攻撃の選択肢を広げ、変幻自在に使い分け、攻撃の成功率を上げることこそ本来の目的であるはずなのに、バックアタックに拘泥するあまり、逆に攻撃の幅を狭くする結果に陥ることもしばしばなのだ。
 そういうチームに対しては、相手ブロックはバックアタックをいち早く読み切ることが容易だ。いや、攻撃の前にみずからサーブレシーブを崩し、自滅するケースすらある。
 バックアタックは4枚攻撃、全員攻撃を目指すためには必ず必要とされるプレーではあるが、危険性を多分に含んでいることを忘れず、自チームの力、特にセッターの能力開発を十二分に行ったうえで、戦力化していきたいものである。