「行ってきます・・」
いつもより早い夏の訪れ。セミがけたたましく騒ぎ、
朝だというのに刺すような陽光がアスファルトを焦がしている。
夏休み目前の朝。それなのに春香の心は弾まなかった。
今日と明日の期末テスト。心弾むものなどいないのが当たり前かもしれない。
しかし春香の心を曇らせているのはそれだけではなかった。
昨日の出来事が頭をよぎる。
学校に行きたくない…。
だがテストを休むわけにはいかなかった。
あと数日たてば夏休み。
そうすれば彼女たちも昨日のことなど忘れているかもしれない…。
かすかな期待を抱きつつ春香はいつもの道を学校へと向かった。
その前日のこと。
春香は明日からのテストに向け、図書館でひとり勉強していた。
いつもより少し遅い下校。しかしこの季節、傾いてはいるが
まだ暑さを和らげない太陽が校舎を明るく照らしていた。
春香はいつもの帰り道へ向かう。
春香の家は学校の裏手にあるため、裏門から出るのがいつもの
習慣だった。
部活を終え後片付けをする生徒たち。その長く伸びる影を
何気なく眺めながら春香は門へと向かった。
その時後ろから、声がかかる。
「ねえ、あんた」
自分にかかった声とは思わなかった。
しかしなんとはなしに声の方に顔を向ける。
「そうそう、あんただよ」
「・・・?」
少し汚れたジャージ、脇に抱えたバットとグローブ。
どうやらソフトボール部の連中のようだ。
しかし知ってる顔ではなかった。
もしかしたら上級生かもしれない。
しかし、自分に何の用があるというのか。
春香は怪訝な顔で応えた。
「私・・・?、ですか?」
「そう。ちょっと頼みがあるんだけどさ」
4人の内の、一番背の高い女子が高飛車な態度で
春香を見下げる。
いやな予感がした。あまり柄のよさそうな連中ではなかった。
「は、はい・・・なんですか?」
今度は、端にいた、小柄でぽっちゃりした女子が声をかける。
「後輩が財布なくしちゃってさ、家まで帰れないっていうの。
ちょっとお金かして欲しいんだけどさ」
「え・・・?」
「電車で通ってる子だからさ、かわいそうでしょ?」
「で・・・でも・・・」
本当かどうかはわからない。しかし春香には知らない子に金を貸す
理由などなかった。大体、自分たちが貸せばいいではないか。
だが、そんなことを口にできるほど春香は強い人間ではなかった。
口を閉ざしてうつむく春香に、先ほどの背の高い女子が歩み寄る。
「ねえ、持ってるんでしょ?財布出してみなよ」
春香はかすかにあとずさった。
「電車代だけでいいんだからさ。明日返すって」
「い・・・いや・・・!」
恐怖を感じた春香は気付かぬうちにきびすを返していた。
背中に声がかかる。しかしそんなものを聞いている余裕もない。
春香は門を飛び出し、校門に沿って通りを走りぬけると
最初の角を曲がったところで足を止めた。
恐る恐る後ろを振り返る。
どうやら追ってきている様子はない。
(よかった。逃げられたみたい…)
きれた息を整えながら、そのまま家路をたどる。
(でも、もし明日も会ってしまったら…?)
不安が頭をよぎるが今考えてもしょうがない。
ふりきったものの、常に背中に脅威を感じながら、
振り向き振り向き、春香は家にたどりついた。
この角を曲がると学校だ。
春香の歩みが少し遅くなる。
もし昨日のあいつらが待ち伏せしていたら…。
角の直前で足を止めてしまう。
後ろを歩いていた同じ学校の生徒が、不審そうに春香を
眺めながら彼女を追いぬいていった。
いつまでもここに立っているわけにもいかない。意を決して角を曲がる。
…悪い予感にかぎってよく当たってしまうものだ。
いつも春香が通りぬける裏門の脇に、見覚えのある顔が
並んでいた。背の高い女子と、昨日はしゃべらなかったもうひとり。
登校する生徒たちに目を配っている。
春香を探しているのだろうか。まだ春香には気付いていないようだった。
角を曲がったところでまた足を止めてしまった春香は、ふと気付いた。
(そうだ。正門に回れば…)
学校の塀を向こう側に回れば正門がある。
そこからなら彼女たちに気付かれずに学校に入れる。
そしてテストが終わったら急いで帰ってしまえばいいのだ。
春香は小走りで正門を目指した。
学校の敷地を迂回すると正門が見えた。
よかった。彼女たちはまだ裏門で春香を探しているだろう。
校舎の中ではちあわせすることもない。
早く中に入ってしまおうと門をくぐった。
(!!)
門の陰になるところで誰かとぶつかりそうになる。
慌てて足を止めて、春香は息を飲んだ。
昨日の小柄な女子だった。
「やっぱこっちだったね」
小柄な女は、もうひとりのキャミソールを着た女と
顔を見合わせ、互いに不敵そうに微笑した。
この学校は私服なので、昨日のジャージ姿とは違って見えたが、
きっと彼女もあの4人の中のひとりだろう。
「ちょっとこっち来てね。別にもう金貸せなんて言わないからさ」
春香は腕を捕まれ、校舎の方に連れていかれようとする。
「ちょ、ちょっと・・私は何も…」
腕を振って逃れようとするが、彼女は手を放さない。
部活で鍛えているのだろう。春香の力ではかないそうになかった。
「あ、友里?いたよ〜。やっぱりこっちだった」
見ると、もうひとりのキャミソールの女が携帯で誰かと話している。
友里というのは昨日の背の高い女だろうか。
そのまま春香は、半ば引きずられるように校舎の方へと連れていかれた。
127 :
名無しさん@ピンキー:2001/07/26(木) 02:34 ID:81o/rBYY
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ル-|:::::|/ __゛''‐- 、 '~‐ 、 .|、
|::;ノ'/ ~'''-、. `ヽ、 ~''‐-"ヾヽ、
_..--┴,/ \ \ \i
(・・・?)
中へ連れていかれると思っていたが、彼女たちが向かったのは
グラウンド脇の、部室が立ち並ぶ場所だった。
ソフトボール部の部室の前で、先ほどの二人も待っている。
「やっぱそっちだったかー。逃げられると思ってたんだね」
髪の長い女が笑いながら話しかけた。
「うん。友里がでかいから気付かれたんじゃないの?」
小柄な女の方も笑いながら答える。
「香織は小さいから見えなかったんだね」
香織と呼ばれた小柄な女は、友里に春香を押し付け、
自分はポケットから取り出した鍵で部室のドアを開けた。
春香は最初に押しこまれ、続いて4人が入ってドアを閉める。
怯えた顔で4人をかわるがわる見つめる春香に友里が声をかけた。
「昨日はごめんね−。いきなりお願いしちゃってさ。」
春香は何も答えずにうつむいていた。
「でもさー、あんな風に逃げなくたっていいじゃん」
香織が続ける。
「・・でも、わたし・・・」
「だから、ちょっとおしおきしてあげなきゃと思ってさ」
泣きそうな声を発した春香にかまわずに、友里は
春香に歩み寄った。
「いや・・・!」
逃れようとしても狭い部室の中ではすぐに壁に突き当たる。
友里に腕を捕まれ、もうひとりがそれに続く。
「麻衣、こっちの手持ってて」
さきほど友里とともに裏門の前にいた女に腕をひねられ、
春香はあっという間に後ろ手に押さえつけられてしまった。
「いいよー。香織」
友里の声に、香織が妙なものを持って春香に近づく。
短くて細いワイヤーか針金のようなものだ。
よく見ると両端が輪になっている。
「さやか、ちょっと服めくって」
キャミソールの女はさやかというようだ。
彼女は、春香の淡い色のTシャツの裾をめくりあげた。
「やっ…何するんですか…?」
「あ、あったあった」
身をよじる春香を無視して、香織は春香のパンツのベルトループに
ワイヤーを通し始めた。
春香は彼女たちの行為の理由がまったく読み取れなかった。
背中側を回し、全てのベルトループにワイヤーを通し終えると、
前で両端の輪を合わせた。少しお腹が締めつけられるのを感じる。
「わー、ぴったりじゃん」
香織は少し微笑むと、あれ取って、とさやかに告げた。
さやかが香織に手渡したものは、ロッカーにかけるような小型の
南京錠だった。
春香が友里達の意図に気付いたのは、2時間目のテストが終わったあとの
休み時間だった。
あの後、あっさりと解放され逆に面食らっていた春香だったが
まさかこんな形のおしおきだったとは。
座ると少々お腹が締めつけられるが、特にこれといって
不自由するわけではなかった。
自分の席に座ったまま、そっとTシャツの裾をめくり
先ほどかけられた南京錠を確かめてみる。
しっかりとワイヤーの両端同士がつなぎ合わされ、
鍵がないと外れそうにない。
(このまま、脱げるかな・・・?)
春香はすっと席を立った。
友人達は皆自分の席で次のテストのために悪あがきしているようだ。
いつもは数人で誘い合わせて行くものだが、今日はかえって一人のほうが
好都合だった。
みんな勉強してるのだろうか。いつもは混み合っている女子トイレは、
いくつかのドアが閉まっており、鏡の前で髪を直したりする女子が数人いるだけで、
がらんとしていた。
開いている個室に入り鍵をかける。
そして、パンツと下着を下ろしてしゃがみこむ…のがいつも
当たり前の動作だった。しかし友里たちに取りつけられてしまった
ワイヤーと南京錠…。
春香はパンツの前についているボタンを外しにかかった。
ワイヤーに締めつけられてはいるが、そう苦労することもなく
ボタンは外れた。そしてファスナーを下げる。締めつけられているのは
腰の部分だけなので、それも容易だった。しかし…。
パンツを引き下ろそうとしても、ワイヤーが腰骨にひっかかって
うまく下がらない。ボタンとファスナーを外した前の部分を
いっぱいに広げてみる。パンツは開いても、お腹の部分にワイヤーが横切っている。
どう体をひねっても、お腹をへこませてみてもパンツは下がらなかった。
その時、ふとしびれるような感覚が春香の下半身を襲った。
条件反射というやつだろう。トイレに入るとつい尿意は高まってしまうものだ。
いつもはすぐに用をたせるのだからなにも問題はなかった。思わず腰をくねらせる。
(どうしよう…)
このままでは用をたすことはできない。だが尿意はだんだんと迫っていた。
(…そうだ)
春香は前を大きく開けたパンツに手を差し入れ、下着を下げようと試みた。
やわらかな陰毛があらわになる。しかしファスナーの根元の部分が
邪魔をして、それ以上は下がらない。どんなに体勢を変えてもそれまでだった。
パンツと下着を下げるという動作も尿意を誘発するのだろうか。
さらに春香のあせりは高まった。
噴き出してしまいそうな感覚に、春香は思わず下着の中に手を差し入れた。
届く。手は届くのに、ここを裸にすることはできない。
早く楽にしたいのに。これが脱げたら簡単に楽になれるのに…。
(やっぱり無理だ…)
春香は一瞬あきらめかけたが、すぐに思いなおす。
あきらめるということは、このまま下校までトイレに
行けないということだ。
家に帰ればペンチなどを使って何とかすることができるかもしれない。
だが大事なテストの日、早退するわけにはいかない。
しばらく考えあぐねた末、友里たちに鍵を外してもらうしかないと
いう結論にいきつく。
そう簡単に外してもらえるだろうか。さらにひどいことをされるのでは
ないだろうか。
だが考えている場合ではなかった。このままでは午後まで持つはずがない。
上級生の教室を回り、彼女たちを探すしかない。
春香はパンツを元通りに直し、個室を出た。
そして、次のテストを告げるベルが鳴った。
さっきの時間が終わったときは、それほど切羽詰ってはいなかった。
トイレに行ったせいで、一時的に尿意が高まってるだけのはずだった。
しかし。
3時間目のテストが始まってまだ数分。
春香は迫りくる尿意を必死でこらえていた。
テスト用紙に並んでいる数式も頭に入らない。
トイレに行けないという絶望感が尿意を高めてしまうのだろうか。
次の休み時間でも間に合うという春香の目論みはあっさりと外れてしまったようだ。
膝を擦り合わせて気を紛らわす。
先生に告げてトイレに行ったとしても、さっきと同じ結果が待っている。
テスト中の教室に踏み込んで、友里たちから鍵を受け取ろうか。
彼女たちのクラスの先生に言えば、さすがに拒むことはできないだろう。
だが、こんな恥ずかしいおしおきを受けていることを告白するのは、
春香には荷が重すぎた。やはり次の休み時間まで耐えるしかない。
時計に目をやる。あと30分…。
その時間が途方もなく長く感じられる。
テストの問題を解いているときはあっという間にすぎてしまうのに。
春香はできるだけ問題に集中しようとした。
そうだ。せっかく早退しないで我慢しているのだ。
テストの結果が悪くてはその意味もない。
時々やってくる尿意の波を全力で押さえこみながら、春香は
一問ずつ、いつもの半分ほどのスピードで数式の答えを出していった。
全身汗びっしょりだ。
春香はあえて時計を見ないようにしながら、問題と、尿意と、格闘していた。
突然、絶望的なほどの尿意の波が春香に襲いかかった。
腰をびくんと震わせ、思わず時計を見る。
あと3分…。解けた問題は半分に満たないほどだった。
こんな状況にしては上出来だ。なんとか間に合うかもしれない。
早く、早く…。
もう数式を解くこともあきらめ、春香はベルを待った。
ベルが響き、先生がそれに気付く。顔を上げ、試験の終了を告げる。
後ろから答案を集める。先生がそれを揃える。そして号令…。
ひとつひとつの出来事がまるでスローモーションだった。
やっとのことで自由を得、春香は教室を飛び出した。
迷わず上級生の教室の方へ向かう。春香はもう確信していた。
同じ学年ならすくなくとも顔くらい見たことがあるだろう。
ひとつひとつ教室を覗く。上級生の教室をあからさまに
探してまわることはできなかった。全部でクラスは8つ。
少し前かがみで、はや歩きで春香は教室をまわった。
しかし彼女たちは見つからなかった。
(そんな…。どこにいるの…?)
一番端のクラスからもう一度逆戻りする。
半ばほどの教室の向かいに上級生用のトイレがあった。
春香の学年と同じように、出入りする人は少ない。
そこからすっきりした顔で出てくる人をうらやましく思いながら、
春香は通りすぎようとした。
すると、トイレから知った顔が出てくる。
友里と、キャミソールのさやかだ。
あちらも春香に気付いた様子で、少しあやしい笑みを浮かべる。
「ああ、鍵女じゃん。何うろうろしてんのよ?」
友里が意地悪そうに微笑む。
「お願いです。鍵…」
彼女たちに対する恐怖も、尿意には勝てない。
「鍵開けてください。もう…」
春香は足踏みをしながら友里に懇願する。
「もう…なんなの?」
苦しんでいる春香に、友里は満足そうな様子で声をかける。
「もう…出ちゃう…。お願い。早く…」
股間を思いきり両手で押さえつけないところだが、人通りのある廊下では
そんな恥ずかしいこともできない。代わりに太ももの両側を両手でさする。
「鍵、誰だっけ?」
友里がさやかに尋ねる。
「麻衣だよ」
「そっか。じゃ、連れてってやるからこっち来なよ」
春香は2人に導かれるまま、後を追った。
B組の教室だ。先ほどはしっかり探さなかったため通りすぎてしまったようだ。
友里は入り口で麻衣を呼び、麻衣も事情を察したようでにやにやしながら
向かってくる。
「この子がどうしても鍵開けて欲しいんだってさ」
「ふぅん。もう限界なんだ」
3人がニヤニヤしながら春香を見つめる。
そんな会話の間にも、春香の我慢は決壊してしまいそうだった。
春香の両手は、膝といわず太ももといわず腰といわず、押さえつけたい部分の
まわりを巡回していた。
「そんなバタバタして。ほんとに漏れそうなんだねー。」
「早く・・早く…」
もうだめだ。鍵を受け取って、個室でそれを開けパンツと下着を下げる。
それさえ間に合うだろうか。そんな春香に、麻衣は絶望的な事実を伝えた。
「でも、鍵なら香織んとこだよ」
「そんな・・・!」
思わず春香は膝から崩れ落ちそうになった。
これまで経験したことのないような苦しみに、春香は屈しそうになる。
一瞬すべてが緩んでしまいそうになる。
春香は下半身がだんだん温かくなってくる錯覚を覚えた。
まさかと思い震えあがる体は、今度は急激に冷えていく。
指先が、つま先が、体の末端がしびれるのを感じる。
春香の下半身は少し感覚を失っていた。下を見てまだ大丈夫であることを
確認し、こらえ切れずに左手が股間を押さえた。
「あらら。そんな恥ずかしいとこ触って」
麻衣が蔑むように春香を見た。
「欲求不満なんじゃないのー?テストできなくてさ」
友里はせせら笑いながら手で春香を招いた。
香織の教室に連れて行こうというのだろう。しかし、春香は歩くこともままならないほどの
尿意と闘っていた。前かがみで、手で股間を押さえて、なんとか後に続く。
なんて恥ずかしい格好だろう。だがそれを止めればさらに恥ずかしい
ことが起きてしまうだろう。歩き方もくねくねと不自然になってしまう。
廊下を歩いていた二人の生徒が、ひそひそと話しながら
春香たちを横目に通りすぎていった。
隣の教室で友里達が立ち止まった。どうやら香織のクラスはそこらしい。
わずかに安堵したが、もう限界なのは変わらない。
香織は、呼ぶ前にこちらに気付き、近寄ってきた。
「香織…」
「ああ。鍵ね」
はじめから頼みにくれば開けるという魂胆だったのだろうか。
意外なほど簡単に香織は鍵を取り出した。
春香の差し出した手を避けるように、香織は鍵を持った手を上に上げた。
「開けてやるからおいでよ」
さっさと4人は、先ほどの上級生用のトイレに向かった。
いやな予感を感じながらも逆らえない春香はあとを追う。
トイレはちょうどだれもいなかった。4人は、しめた、という風に顔を見合わせる。
「おいで」
春香は一番端の洋式の個室に招き入れられた。香織は鍵を持ってしゃがみ、
友里が便座に腰かける。
「ああ…早く…」
友里が腰かけている目の前で、春香は体中をくねらせる。
「はいはい」
香織は、春香の尿意を封じ込めつづけてきた鍵を、外しにかかった。
カチャリ、と音がして鍵が外れる。
これで全てが解放されたように感じた春香は、パンツのボタンに手をかけ、
ふと動きを止めた。
「…あ、あの…」
悠然と便座に腰かけている友里に、春香はおずおずと声をかける。
「ん?どうしたの?」
友里はそこを動く様子もない。それどころか、手を伸ばしてドアを
閉め、鍵をかけてしまった。
「え…そ、そんな…」
困惑する春香に、友里はようやく気付いたかのように、
「ああ、おしっこしたいんだったね。ほら」
と、立ちあがった。
目の前に解放された便器がある。今まで自分を苦しめてきた
鍵も外されている。
だが、2人が同じ個室の中にいる…。
「どうしたの?早くしなよ」
「で…でも…」
女同士とはいってもこんなところをさらすわけにはいかない。
だが、思いとは裏腹に、体は排尿を強く求める。
耐えきれずにパンツを下ろしてしまうが、下着に手をかけたところで
思いとどまってしまう。
「しないなら、別にいいよ。」
ふたたび友里は便座に腰を下ろした。
「そんな…どいて。お願い…お願いします…」
「パンツはいたままじゃできないよ」
友里は意地悪く言い放つ。
「脱がせてあげよっか?」
香織はいたずらっぽく微笑むと、うむも言わさず突然春香の
下着を引き下ろした。
「きゃっ・・・!!」
春香のやわらかな茂みが姿をあらわした。思わず足を閉じる。
だが、それは春香のためらいを破ってくれたのも事実だった。
もう少しも待っていられない。人に見られようが、今すぐにでも
漏れてしまいそうだ。
「する。するから…どいてください…」
今度はさっきと違い簡単にはよけてくれなかった。
膝まで下着を下げた無様な格好で、春香は懇願した。
「なーんか、よける気なくしちゃったなー。」
友里はそっぽを向く。
もうだめだ。だめだ。春香は香織を押しのけて鍵を開ける。
隣の個室に行くしかない。パンツをはきなおす余裕もない。
ドアを開けて、もう何度目だろうか。今までで最大の絶望。
「わ、何その格好!?」
「露出狂なんじゃないのー?」
ドアを開けた目の前には、さやかと麻衣が立ちはだかっていた。
ここを通してはくれないだろう。もう許してくれないのだろう。
最初からそういうつもりだったのだろう。
あきらめに似た失望にとらわれ、春香は直立のまま立ち尽くした。
少し開いた股の間に、熱いものを感じる。
ぷしゅっ・・・と何かがはじけた。
堰を切ったようにあふれだす大量の尿。真下に零れ落ちるその流れは
膝まで下がった下着とパンツに激しく降りかかる。
「わー!こいつ漏らしちゃったよ」
「やだ、きたなーい!」
「あーあ、高校生にもなって。サイテー」
様々な侮蔑の言葉。耳には入るが頭には入らない。
止まらない流れ。一緒に全て何もかも流れてしまえばいいのに。。。
春香は感情をなくしてしまったかのように、正面を見つめ
まっすぐに立ったまま、足元を濡らし続けた。
体中の血が、この流れに続いて全て流れ出てしまうことを望みながら…。