Z金髪プリンセス

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「書物の原本がそこにあって、あるがままのすがたで語りもし、または黙りもしなが
ら。事の真相を立証するのである。<歴史>の近代における条件はこの代価を払って
得られるのである。」
                サント・ブ−ヴ

<テオドール・ロワの手記>
〜第12稿<饗宴>〜
私はあの年をまさしく生きて過ごした者として公平な態度でこの文を綴る。今では名
君として名高いかの月の女王陛下「月蝶妃 ディアナ・ソレル」においても〜中略〜
またこの著の推考については多大なる人物 おおいに多大なる人物達による協力と編
纂無くてははしがきもままならなかったであろうから感謝したい。ビシニティ文化保
存所に保存されている一連の評議会と月の使節団との交渉内密緑をお借りできたのは
かのグエン・サード・ラインフォード卿のおかげである。この著の為にくまなく文書
を探してくださったグエン氏に心から感謝の言葉を申しのべたい。またその当時の貴
重な内部推進主催者側としての貴重な体験を聞かせて頂いたかのキース商会名誉会長
殿、実に絢爛美麗なる粉飾溢るる言葉で女性の視点からあの会合の様子をまさしく傾
聴に値する価値を持って語り尽くしてくれたソシエ・ハイム令嬢、当時、駆け出しの
新聞記者で、市民や列席者の貴重なフィルムを閲覧させて頂くに当たり尽力してくだ
さったフラン女史〜中略〜そもそもこの饗宴とは、ディアナ・ソレル女王陛下の言葉
に端を発しているらしい。ヴィシニティでの会合にて列席さるる諸侯の口から誤解に
よる中傷罵倒(その場にいたほぼ全ての席着者が肝を冷やすような《月側も、地球側
                      ””””””””
も》発言だと伝えられている。詳細はグエン卿も語られていない、尚、口にしたのは
かのエリゾナ候だと。まことしやかに言われている)を受けられたディアナ・ソレル
女王陛下は相互理解と親睦の為の饗宴を開くとの事を、あの美しきソレイユの執政室
に副官を招き入れ仰せつかったのである。この時副官はディアナ・ソレル女王陛下が
月光に手を差し伸ばし渡らせ踊るようにこう言葉を発したのを後日度々思い出したと
言う「戦争はいけません・・・・・パーティを催しましょう」「お互いの理解を深め
れば無闇な争いもなくなりましょう?・・・・・ぁあ!」かくして饗宴の為の幕がこ
の時から上がり始めたのであった。さらにはこの話しをする僅か前にディアナ〜中略
43ローラ・唱えうる プリュマシュ2:2001/06/28(木) 15:34
グエン・ラインフォードは無数の出迎えの人々がいる草原を車で走り抜ける
やがて、車と人の列が途切れ、見事な草原がその姿を現した
その先はしに車が止まり、運転助手が扉を開ける
車外に出ると、赤い、沈みかけの太陽がグエンを照らす
暑いな・・・・
最早、大地にその身を飲まんとされるる陽光がやけに暑く感じる
周囲を僅かに風が吹き抜け、僅かに汗ばんだ体を心地よく冷やしていった
グエンは襟を正すと、離れた位置に見えるゴールドスモ−とウォドムに目を向けた
金色に輝くその機体は、赤みを帯びて金と朱色のコントラストも見事に、草原にそそり立っていた
わずかにだが、コクピットが開かれ、誰かが立ちあがっているのが見える
恐らく、ハリー中尉だろう
中尉身分と言えど、ハリーは親衛隊で、ディアナとの信頼関係も厚い
この初会見でも、月側の警備の総指揮は事実上ハリーが努めている筈だ
その足元に無数の人々がいる
巨人と人間・・・・・・
その対比は・・・・・地球と月の関係そのものではないのか?
グエンは、自らの考えに身震いを覚え
「本当に凄いものだな・・・・・」
何かを期待して、傍らに立つ助手に呟く
「はい」
助手は素直にそれを認める
だがそれは、グエンにとって期待外れの答えだった
ムリも無い答えだろう、彼は被圧政者なのだ
素直に何が強いか、そうでないかを心に決めたら、それを外に出しても良いのだ
だが・・・!私は圧政する側だ!
弱音や、自ら相手の力を素直に認める言葉は、自分と、その周囲を不安にさせるだけだ
認めたからには、常に自分にも同じ力を有している事を示さねばならない
期待外れの答えを返した助手ではなく、今度の言葉は自らの為、呟く
「ローラが来てくれるよ」
そうだ・・・・こちらにはローラがいる
「やられっぱなしになぞ、なるものか・・・・・・」
硬く握った拳から指を跳ね上げる
「・・・・たいした奴さ」
その言葉を合図にするように、沈む太陽のその中からホワイトドールが姿を現した
沈む日を背に、ホワイトドールはその白い機体色を茜に染め
その堂々たる体躯は、グエンの心情を軽くさせた
来てくれたか、ローラ・・・・・
恐らく、今日の会見に列席する地球側代表の心を代弁した言葉を胸に浮かべ
グエンは軽く息を吐いた
地球側の役者はこれで全てそろった
後は、ディアナ・ソレルその人を待つだけである
が、それは程なく現れる
ローラが駆る機械人形が所定位置に着かぬうちに、空が鳴り響いたのだ
ォォン・・・・ォォン・・・・ォォン・・・・
空を飛ぶ飛行機が鳴らす音のように、遠くからそれは鳴り響き
次第に存在を大きくさせていく
・・・・・!・・・・・
空を見上げ、グエンは息を呑んだ
空に浮かぶ、無数の十字の影
12機はいるだろうか?
そしてその中央、まだ天高く位置するその白い影は、まだ小さな点でしかないそれは
その小さな影を持ってしてさえ、その大きさを表していた
さらに、その点であったものは、急速にその巨躯を降下させ、全容を現したのであった
怯む間もあればこそ
天に浮かぶ白い影はその美しい文様や様式の美しさを皆に見せつけ
一個の城として、そう
空を飛ぶ城として、眼前に降下しつつあった
人が・・・!これほどの物を作り得るのか!?
グエンは自分の心が驚嘆と、恐れに満たされるのを感じた
眼前に広がる、圧倒的な重量感と神秘性、それは
決して、人間には創造しえない、あの、雄大な自然の創造物を見た時に感じる畏怖その物であった
馬鹿な! 馬鹿な!
グエンは胸中叫び、必死にその重圧と戦った
相手を見もせずに、私の心は挫けようとしている・・・・・!
白いその巨躯は、今にも大地に触れんばかりに、辺りの空気を震わせ、走らせ、鳴かせていた
わずかに、グエンは自分の足をー  足を下げたくなった
ここに居る事すら、罪悪に感じた
周りの諸侯も同じ思いであろう
心に恐れを抱いている筈だ
だがそれは、闇に対するようなそれではなく
大人に泣いて許しを請いてしまいたくなるような、子供時代の「それ」である
ソレイユは大地に、そっと口付けする様に降り立った
しかしそれでも重量の為に、大地が淑として揺れる
ハリーのゴールドスモ−が、御前に並びそろう為、バーニアを吹かし飛び立つ
その風に煽られ、今度こそグエンは2〜3歩下がる
やがて、ソレイユは静かに動きを止めた
その姿はまるで、そこに元々何百年となくあったかのように揺るぎ無い
夕闇迫る、不思議な色に包まれたソレイユは、城とも言えぬ、山ともつかぬ
美しく調和された存在感を発したまま、凛としていた
やがて、静寂と沈黙の中
ソレイユの高き尖塔の後ろから、小さな船が浮かびたった
「・・・・!動いたぞ」
諸侯の一人が何事かを叫ぶ
ソレイユを離れた船は、静かに歩を進めると、居並ぶ諸侯の眼前に降り立つ
諸侯は誰とも無く居住まいを正し帽子を取り、脇に抱えた
降りる時も、ハッチを開く時ですら、グエンは音を感じなかった気がした
やがてその静寂の中、船の、光りに溢れる内部から、一人
扉から、桟橋に変わったその上を歩く人物がいた
大きな白い布地をゆったりとした幅で広げた三角の前掛けのような上着を羽織い
恐らく、それは略式の冠の代わりなのであろうが
白いベレー帽のような、だが前後にに大きく広がるところがベレーとは違う物を冠り
葵色の輪冠で顔の横の髪を垂らし束ね
足元は、動きやすくする為か空色のブーツを履いていた
そして、ブーツより遥かに深い、その蒼い瞳
金の長い御髪を湛えたその貴人こそ、ディアナ・ソレル女王陛下であった
その顔を見て、グエンに軽い衝撃が走る
諸侯から遠慮の無い、畏怖、畏敬、好奇、嫌悪、様々な視線がディアナに注がれる
だが、その視線を物ともせず、その口元に青いルージュを引いた唇が動く
「・・・・・ディアナ・ソレルであります」
それはゆったりと、居並ぶ人々の間を掻き分け通る声だった
「ザ・アーケン・カウント・グエン・ロード・ラインフォード・サード・オブ・ビシニティ殿でありましょうか?」
・・・・・・・・・・・
名を呼ばれるだけで気圧される
「・・・・は、はい、ディアナ・ソレル閣下で?・・・・」
「よしなに・・・・」
その後、何事かをディアナは述べていたが
既に、ある一つの考えに囚われていたグエンには届いていなかった
似ているのだ、ディアナ陛下は、ソシエ嬢に
その事のみが、グエンを捕らえ、さらには他の事に注意を払えなくさせていた
それは、不幸の始まりであったと言うしかなかった
<テオドール・ロワの手記>
〜第15稿<真夜中の夢>〜

夜半に催される事になった。饗宴の為、朝からひっきりなしに、各地の貴族階級や支
配階級の人々がヴィシニティの舞踏会場となった美しいホールへと馬車や車で乗り入
れた。金縁でポロプランス風に彩られた高級車や、馬車は縫い合わせた皮で金と銀と
に彩りつくられ、丈の高い馬を羽根飾りと真紅と青の紋章で着飾らせ、鬣をリボンで
くくりつけた贅を凝らした作りのものや、あるいは只の白い小さな石造りのような馬
車が通ったかと思えば、近づくとそれは、大きな珊瑚をくり貫いて作ったものであり
、それらが通る度、物見高い見物者たちの肝を抜いたりもした、そしてこの頃の貴族
の流行と言えば、空を飛ぶ飛行機であり〜中略〜優雅な饗宴の始まりを少しでも見よ
うと詰め掛けた見物人たちはホールまでの沿道に鈴なりになって道を埋めた。そして
沿道には肩章をつけた青い上着に袖を通し、切り口を入れたズボンを履き、コダ−ル
風の丸い作りの中央にヴィシニティの国家記章を入れた帽子を身に着けた、百人近衛
隊がホールまでの道々に立って、辺りを警戒していた〜中略〜やがて会場時間が迫る
とおっとりと駆けつけた馬車から、今夜の主役達が姿を現したのだった。その時の、
主役を担ったのは、やはり月側の麗しきご婦人方と言わざるを得ないだろう、何しろ
その当時で最もヴィシニティの注目を浴びていた、ある王室付きデザイナーなどは、
その月のご婦人方を見て、頭を叩いてこう漏らしたと言う「何てことだ!彼等は、月
の人間は、建築技術をファッションに取り入れている!」まさにその通りであったが
かつての前世紀では、地球側も頭に船を模したヘアスタイルを形作り、そのふね一杯
に果物や宝石をちりばめた事も有ると言うから、デザイナーの驚嘆は不勉強から来る
ものであるとしか言えない、建築技術云々の件は笑いに値するものではあるが。とに
もかくにも、頭に尖塔のごときを立て、月を据え置き、全身で月齢を現すなどその当
時の「ひかえめ」なファッションを見なれた地球側の人間は、大いに感心したと言う
これに付いては、月と地球の重力差によるものが、ファッションの創意性を別の局面
へと発展させたと言う論議が走りになり〜中略〜
<テオドール・ロワの手記>
〜第24稿<不幸な事実>

会場内は金泥を塗った木造のイスが据え置かれ、金モールや金の縁飾りのついた、ワ
イン色のビロ−ド製の新しいクロースをかけたテーブルにはワイングラスが伏せて置
かれ、次々と銀製の食器に盛られた料理が運び込まれ、それらを天井から吊り下げら
れた多彩性を誇るボルジャーノン領製のグラスシャンデリアが古式の蝋燭蜀台の灯り
を灯らせ、大いにやわらかな光りを投げかけている、と言う按配であった〜中略〜
と、その時この事態を由とは出来ぬ、月側の一人が立ち上がり、無人の中央テーブル
を過ぎて、地球側の御歴々が固まる壁際に歩みより、無人楽師にワルツのような踊り
に適した楽曲をかけるように指示したのである。それこそは、かのハリー候であり、
この時の「男ぶり」は、戦場を一騎で駆けるがごとく勇壮さであった。何故ならば、
更にこの後、ハリーはお互いを牽制しあうだけだった両者のまさしく地球側に向かい
手を差し伸べ声を高らかに「どなたか、私と一曲踊って頂けませんか?」と誘いをか
けたのである。それは実に洗練された物腰で見事な手際であったが、残念な事に些か
性急すぎたのか地球側の婦人方にはこれに、直ぐに答えうる方は、中々いらっしゃら
ず、後日ハリー中尉の語る所に寄れば「あのしばらく待たされた後、若草色の御婦人
が人を割って出てきてくれた時は、許されるならその場で口付けをし、礼辞を述べて
も良いと思った」そうである。そしてこの時ハリーの相手役を受けて出たご婦人こそ
、謎の多さで知られる、あの「ローラ・ローラ」嬢であった。その見事な容姿を若草
のドレスに包み、後ろ髪を一度高きに結い上げ、前髪と供に大らかに垂らし、その髪
で持って、顔を軽く覆い、神秘性を演出していたと言う。この婦人の出生については
、褐色の肌の色から、グエン卿の血縁に当たる玲嬢で有ると言う説が一時期流行った
が「とんでもない、血縁関係は無いよ、むしろ、私は彼女に求婚しようと思っていた
ほどだ」と言うグエン卿の後日談によって廃れていった。一部にはとある少年の女装
であると言う説もあるが、とんだゴシップであろう。この女性については当誌後半に
特集を組むので、是非とも目を通して頂きたい。さてハリー候は、この日もあのトレ
ードマークである赤いグラスで顔を飾り、黄色と黒色のストライプカラーも鮮やかな
巻き型のタキシードで身を包みんでいて、列から、まるで突き飛ばされるようにいて
出てきたローラ嬢と2〜3言語ると、やがて二人で美しいステップを刻み始め、この
事がきっかけになり、地球側と、月側は打ち解け、漸くパーティらしい様相を見せる
のである。この事について、当時の裏方のパン職人のキース青年は〜中略〜
<テオドール・ロワの手記>
〜第24稿<不幸な事実>〜

さて、ローラ・ローラ嬢のディアナ・ソレル女王陛下への拝謁も終わり、女王その口
から地球と月の和解についての会合の続行が出た時、かの木馬の意味合いでも今や、
勝るとも劣らぬ「くだん」のケーキが運び込まれたのである。それは、もし、私の口
による評価が正しければ、会場中のどの創作物よりも、群を抜いて素晴らしい出来映
えであった。大きな半円の母なる大地、地球を下にすえ、緑の大陸には白い雲が柔ら
かにかかり、海は深い青の色合いを湛え、ヴィシニティを表す大地には、砂糖菓子の
建物が連なり繁栄を象徴していた。そして星を散りばめたアーチが両脇から伸び、ひ
ときわ高い位置に在る月を支えていた。その素晴らしい作品を見て列席者の皆が何か
しらの、好意的な単語を並べた、かのディアナ・ソレル女王陛下も、これを一目見て
お気に召し、グエン卿に心から賛辞の言葉を述べたと言う。しかし、このケーキの出
来はともあれ、このケーキの意味合いについては興味深い発言や、研究がなされてい
る特にディアナ・ソレル女王陛下が「皆でこのケーキを分かち合いましょう」と述べ
たのは後々、尾を引く事に成る。地球を見たてたケーキを分かち、食らうとは!なん
と言う意味の深い発言である事か、これについては当時のキース青年が〜中略〜しか
し、両者に取って幸いな事にこの襲撃はまったくの失敗に終わる。無様な襲撃者達は
ある者はグエン卿にかくし扉ごと蹴られ、ある者はハリー候にケーキに埋め込まれ、
勇敢にも身を呈してディアナ・ソレル女王陛下を庇ったローラ嬢に阻まれ、何事をも
無し得ず、会場からほうほうの体で逃げ出したのであった。〜略〜
馬鹿な・・・・・・!
グエンは控え室の豪華なイスに身を沈め、一人暗澹たる気持ちに耽っていた
もう一度、先程の事を思い起こしても
いや、もう幾度と無く思い起こしているのだが、思考はそこで尽きたように
繰り返される
馬鹿な・・・・・・!
これまでの自分の費やしてきた時間と労力を水泡に帰すかの様な出来事が起こった直後に
まともな思考が働こう筈も無く、グエンは悪い想像とそれに伴う吐き気と目眩に悩まされていた
今しがたも、気付けにグラス一杯の香りの良いブランデーを飲んだばかりであったが
却ってそれは、今すぐにブランデーを一瓶飲み尽くしたい衝動と戦う羽目になった
馬鹿な・・・・・・!
もう一度、不毛な思考が頭を巡る
自分が今、成すべき事を見据える為には、起こった事を悔いても、泣き言で思考を止めても、良い事は無い
が、グエンは、今は自らを保つので精一杯であった
しかしそれでも何とか、心の片隅に、今の状況を冷静に見つめられる自分を作り上げ
グエンは自らとの対話を始めた
・・・・何か無いのか!?挽回の為の策は!・・・・
・・・・今、直にでも何もかもが終わる訳ではない、まだ、時間は有る・・・・
・・・・あの者達の意思が、こちらの総意ではない事は、月側にも理解できる筈・・・・
・・・・せめて、策を!気休めでも良いから、何か手を打てれば・・・・
・・・・それだけでも、他の策を考える時間稼ぎと心理的余裕が出来る筈だ!・・・・
何度も潰れそうになる意識を抱え、グエンは沈黙の内に思考を伸ばしていった
・・・・・・・・・・・・・・?・・・・・・・・・・・・
やがて、心の内から一つ浮かび来る策が有った
それは、自らの自重によってそれ自身を潰し、グエンの名誉にも関わりかねない
愚かで、下劣な策であったかもしれない
だが、その考えと引き換えに、冷静な自分は消え去り、それを囃し立てる声だけが
グエンを駆りたてた
いつか、この事のみが頭を占めてしまったように・・・・・

数分後、パーティの整理を終え廊下を歩いていたとある小間使いは、グエン卿の控え室前で呼びとめられ
名誉有る役目を仰せつかった それは手紙を運ぶ事であった
「私の・・・・・・・あの美しい連れに、この手紙を届けてくれ」
グエン卿は酷く声に生気が無く、つかれた様子であった
あのような事件の後なので仕方なかろうと、小間使いは気を使い
「はい、存じております あのご婦人に手渡すのですね?」
とだけ言い、ご婦人と言うくだりでグエンが頷くのを見て
足早にその場を去ったのであった
どこに行けば良いかは、明白であった
私はあの「ホワイトドール」を駆る「美しいご婦人」にこれを届ければ良いのだ!
小間使いは、急いだ
補足 プリュマシュ4の「〜ソシエに似ている〜」は「〜キエルに似ている〜」の間違いです

「・・・?」
今しがた、部屋に来た小間使いに渡された手紙を見て、ロランは・・・ローラは首を傾げた
差出人の名は「ヴィシニティ執政官」とだけある
これは、親しい知り合いの方の役職名に違いないが
何故、わざわざ名前も書かずに、しかも手紙と言う形でこれを送ったのか不可解だった
内容は・・・・輪をかけて不可解である

貴方の美貌と機知を持て
今夜、ハリーを篭絡せしめて欲しい
貴方の容姿ならそれが可能である
月と地球の為に・・・・
あるいはささやかな復讐の為の時間稼ぎに・・・・

「・・・?・・・」
取り敢えず、ローラは隣室に居るキエル嬢に相談する為部屋を出た
が、さらにそれは間違いを呼ぶ元であったのかもしれない

「どうです? これって、どう言う意味でしょうか」
ローラは、そう言ってキエルと一緒に手紙を覗きこんだ
「ええと・・・・やはり、そのままの意味でしょう?」
有る意味落ち着き払った表情で、キエルは返答した
「ハリー中尉を貴方の美貌で篭絡しろ、とグエン様は言っておられるのでしょう」
しばし、無言でキエルとローラは見詰め合い
ローラが半信半疑と言った態で口を開く
「でも、僕・・・・」
「私、でしょう?」
キエルがローラの言葉を正す
「わ、わたくしは無理だと思います」
「何故?」
「だって相手のハリー中尉って男ですよ?」
当たり前の事を言うローラに、しかしキエルは
「レディはお相手に文句を言わない」
この返答であった
「茶化さないでください」
その言葉にローラはふてくされた
キエルは改めてローラを見つめなおす
美しい褐色の肌、流麗な銀の髪、華奢な体躯
ドレスアップされたその姿は、殿方を誘惑するのに、何の不都合も無い
・・・・これなら、性別を問わない方がいるのでは?
「・・・・ねぇローラ、殿方と貴方がちゃんと結ばれようと思ったら、出来なくは無いのよ?」
なんとは無しに、言葉がキエルの口を突いて出た
「はぁ?そんな・・・どうやって・・・ですか?」
キエルはローラの耳元で、自分の知識を小さな声で二言、三言しゃべってあげた
「えぇぇぇぇぇ!!?そんな事したら、死んじゃいますよ!?」
予想以上の反応だったが
「死にはしないでしょう?」
あっさりとキエルは言い返す
「で、でも・・・・」
「これは、ローラは良い機会かもしれませんよね、命の恩人のグエン閣下に恩返しする為の」
キエルは続けた
「それに、あんな事が起こった後にしたためられた手紙ですもの、よほど悩んで出されたに違いないわね」
「・・・・・・」
「これを受けるか受けないかは、自由、と言う意味合いで、名を無記名にしたんでしょうね」
口に出しながら、キエル自身、ぞっとする思いだった
本当にこれは、あのグエン閣下が出された手紙なのかしら?
そんな思いが心を過る
だが、確信は無いまでも、この文面は確かにグエン閣下の筆跡に違いなかった
ローラは話しを聞き終えると
小さくため息をついた
諦めたような、泣くようなため息を
そのため息は部屋中に響いたのだった
「急いだ方が良いんでしょうね・・・・・」
「これはこれは、ローラ嬢」
二人の他、誰もいない部屋で
ハリーはいささか、大げさに手を広げておどけて見せた
「貴方がここへ、私を呼び出したのですかな?」
目の前のローラに向かって、ハリーは問いを投げかける
しかしローラは答えず、その代わりに問いを返した
「あのぅ、ディアナ様は・・・・・ご無事でしょうか?」
その言葉にハリーは
そっと自分の顔にかかる赤いレンズの位置をなおす
「無事です・・・・幸いな事にかすり傷一つ負っていません」
それを聞いて、ローラは大きく嘆息する
良かった、ディアナ様・・・・・
「・・・・・」
そんな様子のローラを見
「・・・ローラ嬢、貴方にも礼を言わねば、義理を欠きますね」
ハリーはそう言って
ローラの手を取り、口付けをする
「このような華奢な体を持ってして、ディアナ様を庇いし勇敢さ、敬服いたしました・・・」
「・・・・月の親衛隊を代表して、お礼を申し上げます」
「いえ・・・わたくし、当然の事をしたまでです・・・」
そのまま手を取り、続ける
「して、私を呼び出したのは、それだけの質問をする為ですかな?」
「・・・・それは」
「それは?・・・」
ローラは自分から言い出せず、ハリーに握られたままの手を見て俯いてしまう
今にも、自分の正体がバレやしないかと思うと、言葉が震えて喉につっかえるようだった
「やれやれ・・・」
ハリーが少し強く手を握りローラを引き寄せる
「このような文面を寄越したわりには、似つかわしくありませんな」
そう言って、ハリーは手紙のような物を、ローラの眼前にに突き付ける
そして、そこにはありとあらゆる言葉で
自分の劣情を男性に伝える女性の文体の手紙が握られていたのだった
・・・!?
ローラは衝撃を覚えた
これは、グエン様が用意したものなのだろうか?
恐らく、そうに違いないだろうが・・・・・
その文面はあまりに卑猥で、決して自分が書いたのだとは認めたくない代物でも有り
ローラは、その字面をなぞっただけで赤面してしまった
ふぅ・・・とハリーがため息をつく
「・・・正直に答えて頂きたい」
その文を懐にしまい
ハリーはローラの手を離す
「これは、貴方が書いたものなのか?」
鋭い事を指摘するハリー
が、今のローラの態度を持って見れば推測できない事ではないだろう
答えることは・・・・できない
ローラは押し黙ったまま、自らの手で自分を抱きすくめた
が、
「その沈黙で結構、・・・良く理解できましたよ」
ハリーはローラの回りをぐるっと歩くと、ローラの後ろに立ち、背後から指を突きつけた
「貴方はその手紙を書いてはいないが、その手紙の意思に従わなくてはならない、と言った所ですかな?」
思わず、ローラはその問いに頷いてしまう
後ろから、ハリー中尉のこぼれた笑いが微かに聞こえた気がした
「宜しいでしょう・・・・ローラ嬢?その茶番に付き合ってあげて差し上げましょう」
そう言うや否や、ローラは後ろからハリーに抱きすくめられていた
ハリーは、ローラの体に両手をまわし、囁く
「だが、今夜の私は少々機嫌が悪い・・・・」
そう言い、ローラの顔に手をかけ、自分の方へ傾けさせる
そして、ハリーはそのままローラの唇を奪った
「ぅ!・・・・!・・・・」
ローラは抵抗するが、ハリーは意に介さず
ローラの瑞々しい唇を蹂躙する
「・・ん!・・・・・・ぁ・・」
ほどなくして、ハリーがローラから手を離す
息も荒く、ローラは床に倒れこむような形でハリーと離れる
・・・・・・何故か、嫌悪感より、興奮がローラを包んでいた
「さて、この後は、貴方の覚悟のほどを見せていただきましょうか・・・・」
ハリーは床に倒れたローラに向かってそう述べる
ローラは意味がわからず、ハリーを見上げた
「あの文面通りにしろ、と言う事だ、ローラ」
ハリーは語句を少し強め、ローラを促す
「あの文の如く私を誘惑し、媚びて見せろローラ、できるだろう?」
ハリーはそう言うと、手近なイスにもたれ、ローラをみつめる
荒い息を整えながら、ローラはさきほどの文を思い出し、ハリーの前でゆっくりと立ちあがった
「お慕い申し上げておりました・・・・ハリー様・・・」
キエルに教わった事を思い出しながら
「私に・・・今宵、情けを・・・くださいませ・・・」
そう言ってローラは後ろを向き
事件の際破れたスカートの裂け目から、ショーツを捲くり出した