トロア=バートンの華麗な一日

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金が足りなくなった。

俺の愛機はヘビーアームズ。自他共に認める、超メガトン級の重装MSだ。
それはいい、非常にいい、髪形に次ぐ俺の自慢でもある。
…しかしその凄すぎる装備のおかげで最近一日一食、麦飯と鰯だけの生活を余儀なくされてしまっているのが今日の現状だということを忘れてはならない。
何故か?

この間のデュオ、カトル、俺の会話だ。
「やっぱりトロワの全弾発射は破壊力、パフォーマンス共に凄いね。僕のサンドロックなんかとても真似できないよ。」
「すっげ〜よなぁ、いいよなぁ〜ヘビーアームズ。もの凄く派手だしさ?雑魚を一掃するのにはトロワの全弾発射に限るぜ。いや、ホント。」
「…そうか」

彼等は俺のヘビーアームズが花火みたいにボンボコボンボコ撃ちまくってる姿を見て言ってくれたのだろうが、それはヘビーアームズの華やかな面しか見ていない。
いや、他人のMSだからこそこうやって気軽に言えるのだろう…
デュオはカマ、カトルは蟹バサミ。ついでにヒイロはビームライフル、五飛は槍とハング。使い捨ては俺だけだ。
ま、カトルもたまにミサイル使う時もあるが奴はなんといっても天下のウィナー家の頭首だ。俺のように使うわけでもなし、問題はないだろうな。
しかしデュオなんぞは今ミサイル一発買うといくらかかるのか知っているのか?ゆうに200万くらい吹っ飛ぶんだぞ?例えるなら俺は全弾発射するごとに自分の財産をばらまいているというワケになる。
当然バイトだけでは数ヶ月働いてミサイル一発購入できるぐらいにしかならない。
そして麦飯と鰯。
この所俺の体重もめっきり落ちた。体のバランスも不安定でサーカスのアルバイトにも差し支えるような状況だ、当然三回転半など望むべくも無い。目もかすむから綱渡りや玉乗りにも支障をきたす。そしてキャスリンは言うのだ…
「ロクにサーカスもできないようならMS乗りなんて止めちまいな!」
ふっ、銀飯が恋しい…
これまではウィナー家やリリーナに金を借りてなんとかしのいで来たが、この不況だ。
どこも俺みたいな…いや、なんの投資にもならない派手な花火のスポンサーになろうとはしない。所詮友達付き合いなんてそんなもの、薄情なものさ…

―――そういえば他の奴等はどうなのだろうか?
ふと、疑問が湧いてきた。
思うにカトルやヒイロはバックがしっかりしているから金の問題は特になさそうだ。しかしデュオと五飛はどのようにして金を工面しているのだろうか?
そういえばおかしい。
確かに俺の愛機〜ヘビーアームズ〜が一番維持するのに金がかかるのはわかる、しかしどの機体も維持するのには大変な金がかかってしまう。これは言わばMS乗りの宿命と言えるだろう。
コロニーからの援助が無い今、皆独力でやっていくしかないのだが…?
が、奴等は特にこれといった職は持っていない、例えば俺で言うサーカスのバイトのようなモノがない。デュオは毎日復讐を繰り返し、五飛は自己追求、バイトなどする暇は無い感じだ。
「…気になるな。」
しかし、今日ここで独りいくら考えても答えはわからないだろう。明日朝一でデュオにでも聞いてみるとするか。

様々な疑問を抱えつつ俺は床に入った…

981A(修正):2001/03/26(月) 09:56
次の日

「…デュオ、少しいいか?」
「ん、どうしたんだ?トロワ?」
丁度奴が復讐ノートを持っていつもの通り復讐回りに出て行くところを捕まえれた。もっとも死神モードに切り替わっていたため少々声をかけるのには勇気が必要だったが、奴は少しでも話し掛けられたりするとすぐにいつものデュオに戻る。問題はない…

俺は、昨日疑問に思った事を聞いてみた。

「…でだ、なんでデュオや五飛はMSを維持できるのか、というのが気になってな。」
「あぁ、そんなことか。」
気のせいかデュオは一瞬ためらった様に見えなくも無かったが、すぐ笑顔で、
「じゃ、今晩2時にリリーナ邸に来いよ。お前も金に困ってるんだろ?来りゃわかるぜ。」
「…何故だ?」
「それは内緒♪お楽しみってヤツさ。」
今度は微妙に殺気が感じられる、実に不思議な奴だ…
「じゃ、俺は仕事があるから。」
「…ああ」
デュオは自分がされた事を絶対に忘れない男で、いつか仕返しに行くという奇妙な趣味がある。五飛すらもこの復讐を恐れてデュオにはあまり手出ししない。
それにしても仕事とはな…ひとりひとり仕返しに行くのが仕事といえるのか?マメな奴だ。
「あ、そうだ。ヒイロとトロワは手ぶらで来るようにな。」
「手ぶら…どういうことだ?それにヒイロも来るのか?」
「じゃね〜〜〜♪」
そう言い残しつつデュオは去っていった。
「…」
どうやらヒイロも来るらしい、それにしても今晩2時とは異常な時間帯だ。一体何をするというのだろうか?俺の疑問はますます深まった。

982B(修正):2001/03/26(月) 09:57
「お?遅かったなトロワ?」
「…時間は守れ。」
―――その日の夜2時、俺は少し遅刻してリリーナ邸にやってきた。
見ると、デュオだけじゃなくヒイロ、五飛もいる。
「…そろそろ教えてくれ、一体これから何をするんだ?」
俺は真っ先にデュオに尋ねてみた。
この時間、この場所に、しかも皆(…いやよく見るとカトルはいない。)が集まることなどおかしいにも程がある。
「何ィ?貴様話してなかったのか!?」
「スマンスマン。だってトロワってカトルと仲いいだろ?だから話しづらくってなぁ。」
「…カトル?」
どうやら今晩のこの召集は此処にいないカトルに関係あるらしい。
と、ヒイロが口を開いた。
「…今からウィナー家の銀行本店を襲撃する。」
「何!?」
なんだと?どういうことだ?まさか今日此処で集合した理由というのは…
「強盗するというのか?」
「仕方がないだろ!金が無いんだからさ。」
「…今回が初めてじゃない、もう4回目だ。そろそろ警備が厳重になっていやがるだろうから
今日は意表をついてMSで暴れてやるぜ!」
「…お前達、本当にいいのか?」
大体読めてきた。こいつら(デュオ、ヒイロ、五飛)はMSの維持や日頃の生活費の為に友であるカトルの、ウィナー家の銀行を襲撃して金を稼ぐらしい。それに五飛がもう4回目だと言った。とんでもない奴等だ、戦闘のしすぎで神経が2〜3本焼ききれてしまっているんではないのか?
「俺が正義だ!」
「…」
が、少し俺は考えた。
確かにカトルとは仲よくさせてもらってきている、それは事実だ。しかし奴は最近俺に妙に冷たい。理由はわかっている、金だ。俺が金を借りて全然返さないのを友の手前我慢しているのだが、やはり感情全てを殺すことはできずに態度にでるらしい。
それに俺の今の生活状況を見ろ、このまま正義を貫いて突っ走ると俺の体は、生活全てが破壊される。どこかで一度大きな事をやって、それをキッカケに軌道修正しないと全てを失う事になりかねない。
「どうするトロワ?このまま降りてもいいんだぜ?」
その時俺はデュオの顔を見て悟った。
言い方は優しいが目は完全に死神モードに入っている。このまま1人抜けようものならいつかデュオに狙われるのは必定だろう。
俺は腹を決めた。
「分かった、やろう。」
「…では任務を説明する。」
今回のリーダーはヒイロらしい。
「前から確かにウィナー家の銀行を狙っているが、それは毎回生身での襲撃だった。今回
は敵も警備を厳重にしているだろう、そこでこちらもMSを使って派手に襲撃する。」
…MS?ちょっと待てよ。俺のヘビーアームズは使えないぞ?
「ヒイロ」
「…なんだ?」
「俺は今日は手ぶらだ。MSなど持っていない…」
「だから言ったじゃん!手ぶらでもいいってさ?」
デュオが横から口を挟んだ。
「ヒイロのWも燃料切れで動かないらしいし、お前達にはメリクリウスとヴァイエイトを用意したぜ。」
「…だ、そうだ。」
「…そうか、すまない。」
さすがデュオだ、どこまでも手抜きのない奴だな。
「前置きはどうでもいい!誰が何処を攻めるんだ!」
五飛が苛々したように叫んだ。
「…それではそれぞれの持ち場を決める、まずデュオだ。」
「おおっし〜!腕が鳴るぜぇ〜!」
「オマエは左翼から入ってくれ。」
「りょ〜かい♪」
「次は五飛。右翼を任せた…」
「ウィナー家がどの程度のものか!俺が見極めてやる!」
「最後に俺とトロワは正面から突撃する。トロワいいな?」
「ああ…任せてくれ」
カトル、悪く思うなよ…
俺はやる。仕方がない、やらねば俺には未来がないのだ。
その後、様々な詳細を打ち合わせて俺達は持ち場に散っていった。

983C(修正):2001/03/26(月) 09:57
ウィナー家の中核ともいえるウィナー銀行本部。
俺はその玄関正面にヒイロと共に立っていた。
俺の見通しではここが大打撃を受けるとウィナー家の機能は麻痺するだろう、ヘタすると倒産すらなりかねない。しかし逆に、ここを俺達が攻略すると一生食べるには困らなさそうだ。
更に今のウィナー家の経営は危ないということが追い討ちをかける。なんせトップが世間知らずの坊ちゃんだ、当然と言えば当然だろうが。
「トロワ。」
「なんだ?」
「カトルがサンドロックで出てきたらどうする?」
「…そうだな。」
成程、確かにそれは有り得なくはない。いささか財閥の頭首が直接MSで出てくるというのは妙な気がするが、作戦はあらゆる可能性を考えなくてはいけない。それになんといっても奴はオペレーション・メテオに選出されたほどだ。(俺達もだが…)いよいよピンチになれば出てくるのではないだろうか?
「どうするんだ?」
勿論俺はカトルが出てくれば速攻で有無を言わさず墜とすつもりでいるのだがここはイメージを考慮して…
「わからない。」
と、いうのが適当な返答だろう。
「…」
…ふっ、反応ナシか。コイツは「ヘタな考え休むに似たり」ということを理解していないから困ったものだ。
「その時は説得でもしてみるかな。」
これでどうだ、何か反応しろ。
「…そうか。」
…ふっ、自己完結型め。
「ヒイロはどうするんだ?」
俺の予想では…
「俺か?」
おそらく…
「俺は奴を殺す。」
やはりな…
これは俺の推測だが恐らくデュオ、ヒイロ、五飛は今回の襲撃のドサクサにまぎれてカトルを消すつもりなのだろう。わざわざ襲撃の時間にカトルがココにいることも確認していたし、さっきの突然のヒイロの質問も普段からカトルと仲のよい俺に対して探りを入れたと考えれば納得がいく。イザという時にちゃんとカトルを殺せるかどうかのな。普段のヒイロは無駄口は叩かない。
「しかしヒイロ…」
とその時、俺達の視界の左右両方から激しい爆発が見えた。
「始まったな、俺達も行くぞ。」
「警備にはMSが多数出撃しているようだ、気をつけろヒイロ。」
「…」
俺達が進むと、案の定ウィナー家直属のMS、リーオーが4機待ち構えていた。
「…任務開始。」
そう言うが早いか、ヒイロは一気に突撃して2機を破壊してしまった、俺も負けてはいられない。
追いすがる2機にビーム砲をお見舞いしてやった。撃ち抜かれた2機は瞬時に、大破した。
「やはり慣れない機体(ヴァイエイト)だ、扱いづらい。」
「そういうな、こいつ(メリクリウス)もだ。」
「…」
…ふっ、嘘が下手だなヒイロ、何がこっちもだ。あんな俊敏な動きはどうかんがえても異常だ。
おそらく何週間も前からリリーナ邸で慣らし運転でもしてのだろう。
これだから主人公というものは…
「トロワ、避けろ。」
見ると後ろから新手のリーオーがビームライフルでこちらを狙っているではないか。
「…!」
俺はすばやく回避して、避け際にリーオーを撃ち抜いた。
「戦闘中にはくだらん考え事などするな、死ぬぞ。」
もっともなことだ。俺は素直に従った。
「分かった…」
「行くぞ。」

…こうして10分程、激しい戦闘が延々続いた。
俺もヒイロも久々の戦闘で興奮し、派手に暴れ回ったが依然カトルは出てこない。


984D(修正):2001/03/26(月) 09:59
「…! トロワ、五飛から連絡だ。」
「なんだ?」
「金を確保したらしい。」
「そうか、では撤退だな?」
「そうだ。デュオもすでに引き始めてるようだ。」
「よし。」
と、言うのと同じタイミングで一閃、ヴァイエイトの腕が撃ち抜かれた。
「うっ!」
この瞬間、俺もヒイロも悟った。
「出たか」
そして俺達は目の前に立つ1機のMSを捕捉した。俺の機体を狙撃したのはそのMSに間違いないようだ。
「…」
「サンドロック…ん?」
ちょっと待て、妙だ。
そういえばサンドロックにはビーム兵器は搭載されていなかったハズだが?
ここから見えるあの影もサンドロックの形に見えない。
「ヒイロ、あれはサンドロックじゃない。形が違う…」
「ああ。だがカトルには間違いないだろう、気をつけろ。」
ついさっきまでの戦闘で少々砂塵が舞っていて肉眼では確認しづらい。
と、ふいに…
「ヒイロ…そしてトロワ。」
…ふっ、来たか、世間知らずの坊ちゃんが。
「…カトルだな?」
「これは…これは一体どういうことだい?この僕に何か恨みでもあるというのかい?」
妙に淡々と話な、雰囲気もいつもと違う。
「ゼロシステム。」
ヒイロが突然言った。
「カトルの奴、Wゼロに乗ってるな。」
「何?」
そうか…どうも雰囲気がおかしいと思ったらカトルの奴ゼロを。
自分の実力がないからってまたモノに頼ったな、カトルの悪い癖…というかむしろアイツはゼロ中毒だったっけな、みんなが無理矢理ゼロに乗せるから中毒になってしまったということをこの前打ち明けられたことを思い出した。
が、そんなことではいつまでもヘタレのレッテルは剥がれない。
「トォォォォォロォォォォォワァァァァァ!!!!」
五月蝿い、十分聞こえる。
「…」
ヘタレの癖に凄い威圧だ。もっともゼロのおかげだが。
「よくも…よくも恩を仇で返してくれたね。」
よし、いいだろう。このタイミングで…
「…カトル、聞いてくれ。」
「なんだいトロワ?今更言い訳は見苦しいよォ?」
…ふっ、阿呆が。今までの手前上言ってるだけだということが何故分からないんだ?
「カトル!俺はオマエにはすまないと思っている、確かにオマエは俺を援助してくれた。しかし…!」
まぁこんなとこだろうな。
「やめろトロワ。」
「ヒイロ…」
来た来た。
「奴はゼロで狂っている、話が通じる状況ではない。」
「…」
…ふっ、も案外馬鹿だな。本気ですまないと思っているなら強盗などしないさ。
そんなことより今のうちにとっとと攻撃してしまえばいいものを…、駄目だな。ヒイロも平和ボケでニブったようだ。
「みんな…壊してやる!ゼロで壊してやるんだァ!!!!」
その前にまずカトル…オマエが壊れているんだ。
「カトル…俺はオマエを殺す。」
「上等だよ、やってごらん?ヒイロォォ!!いつもいつも目立ち腐りやがってェェェ!!!!」
「命なんて安いものだ。特にオマエのはな!」
「死ねぇぇぇっ!ヒイロ!!」
言うが早いかヒイロに襲い掛かるカトル。
「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「俺は死なない…!」
勝負は一瞬だった、さすが腐っても主人公。カトルがビームサーベルで攻撃してくるのをかわしてコクピット部分に同じくビームサーベルを突き立ててしまった。
「ああああああああああああっ!!!!」
悶え苦しむカトルの断末魔、汚い、濁った声だ。
「さようなら…」
「…もういい、行くぞヒイロ。」
これ以上の戦闘を無駄に感じた俺はヒイロに促した。
「…」
離脱する際、俺もビームを数発Wゼロに撃ち込んでやった。
カトルは沈黙した。

―――こうして俺達の作戦は終了した。
五飛とデュオもそれぞれ金を腐るほど詰め込んで持ち帰った、細かい作戦では俺達が敵を誘い出してその隙に2人が手薄な警備を突破して金を盗む計画だったようだ。
民から利益を貪り取る悪漢カトルを倒し、見事金を強奪した俺達は一夜にしてこの世で一番の大金持ちになった、というのはいうまでもない。
そして、俺の生活にも平和がやってきた。
ヒイロも、五飛も、デュオも、それぞれ平和を手にしたことだろう…

次の月、ウィナーグループは破綻した。それからのカトルを見た者もいない…