>>1はそれ以来、食事をするときには必ず周りの客の食べ方を注視するようになった。
就職で初めて上京してきてから、毎日工場勤務の日々…たまの休みは疲れて、泥の
ように眠るだけ…そんな自分とは、まるで別世界の住人たち。有名大学に通い、友達
とレストランで談笑する若いやつら…
何よりも、
>>1の自尊心を傷つけたのは、自分が夢のような場所だと思っていたレストラン
を単なる待ち合わせの場所としてしか使っていなかったことだった。普段はラーメンが
主食の
>>1にとって、レストランというのは特別な場所なのだ。
>>1は、これまで田舎に
住んでいて、意識することのなかった社会格差というものに打ちのめされそうになっていた。
そんなある日、かつてレストランで
>>1をあざ笑った(と本人は感じている)
連中と、意外な場所で再会することになった。といっても向こうは
>>1の顔を
覚えているはずはなく、再会は
>>1にとってのことだけだったのだが。
連中は、
>>1が日頃通っているラーメン屋に、日曜の昼下がりに入ってきた。
「ここうまいんだってよ」などと語りながら入ってくる奴ら。そのとき、いつもの
癖で彼らの食べ方を注視していた
>>1は、あることに気づいた。みんな
レンゲを使ってスープを飲んでいるのだ。
生まれながらに西洋マナーで育てられた彼らにとって、「皿に口をつける」ことは
最低のマナー違反だと厳しく育てられていた。もちろん、ラーメンにそのような
マナーがあるはずもないのだが、いつもの育ちの良さはそういうときにも
出てくるものらしい。しかし、生来「西洋」というものにまったく縁のなかった
>>1にとって、その光景は滑稽なものに見えた。
>>1にとって、スープは口につけて
飲むもので、それはポタージュだろうがなんだろうが変わりはないのだ。
>>1は心の中で「勝った!」と叫んだ。会社の寮に帰った
>>1は、気がふれたように
周りの先輩や後輩たちに話して回った。
「今日、ラーメンのスープをレンゲで飲んでるオカマ野郎がいてよぉ!」
>>1の心のもやもや…学歴社会や能力の差、生まれ育ち…といったものが、
少しだけ晴れたような気がした。これで、明日からの工場での作業も、心なしか
軽くなるだろう。
>>1は、やっと自分が他人を見下せる対象を見つけたのだ。それが大きな勘違いで
あることなど、もちろん
>>1は知るよしもなかったのだが…