サッカー小説〜^◇^〜狂気の144・5センチ

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85いしよしってこんなか?(3)
かたや吉澤は、石川の可憐さ、時折見せる芯の強さをひそかに尊敬していた。
当時、清水商業サッカー部員で唯一進学コースに在籍していた。サッカーも好きだったが勉強も好きだった。
が、一度だけサッカーにかまけすぎて、数学で赤点を取ってしまった事がある。よりによって静岡少年選抜に選ばれた国体の直前に。
補習が受けられないため、開催地の広島にたんまりとレポートの山を持っていく羽目に。
仲間達がトランプに興じる中、民宿の布団部屋を借り、目を赤くしながら幾何とがっぷり四つに組む吉澤を尋ねたものがある。
「ちゃお〜」
やはり神奈川少年選抜チームの石川が忍び込んできた。
「遊びに来たんだけど、なんか大変そうだって聞いたから。エースが寝不足で試合に出られないでしょ」
「だって梨華ちゃんは、試合」
「負けちゃったよ。長崎に」
国見高校の単独チームだった長崎選抜はその年の優勝候補だった。そのブロックに神奈川が入ってしまったことだけは聞いていた。
「さ、はやくやっちゃお」

連戦の疲れでうたた寝してしまった吉澤が目を覚ますと、石川が大の字になって寝ていた。
課題は全部終わっていた。ほとんど間違えてはいたが。
それを見て、吉澤は再び眠りについた。

ふたたび目を覚ますと、石川はもういなかった。あたりが騒がしい。
「長崎が負けたってよ」
「相手神奈川? 番狂わせら?」
「フリエユースの石なんとかってのがフリーキック4本決めたってよ。しまいにゃキーパーが泣き出したって」
86いしよしってこんなか?(4):2001/07/23(月) 15:31 ID:9PWF3v92
「なんであんなウソついたの?」
神奈川の宿舎を尋ねた吉澤が石川に詰め寄る。
石川は前後半二回ずつ、長崎GKを這いつくばらせた右足をアイシングしていた。
「試合があるならあるって」
「そしたらよっすぃー、一人で徹夜したでしょ」
「…」
「仲間だもん。苦しみは、分かち合おうよ」
「…」
「それに、神奈川と静岡、当たるんなら決勝しかないし」
クラブユース所属の石川、高校チームの吉澤。対戦の舞台は全日本ユースと国体しかない。その年がラストシーズンの石川にはこれが吉澤と対戦する最後のチャンスだった。
「優勝なら、よっすぃーに勝って優勝したい。どうせ負けるならよっすぃーに負けたいよ」
言葉はぶりっ子モードのままだったが、石川の偽らざる本心だった。
吉澤こそ、石川が初めて認めたライバルだったのだ。
その後も両チームは勝ちあがり、決勝で当たる。試合は1−0で静岡。
が、吉澤がこの大会で得たのは、もっと大きなものだった。