だんぱっちゃんは今日も来なかった
私は毎日待ちつづけた
雨の日も
雪の日も
づっと
づっと
待ちつづけた
1年待った
でも
だんぱっちゃんは来なかった
あの日から50年
私は再びここへきた
少し古くなっていたが
私にはすぐにわかった
マスターも歳をとったものだ
そして私もまた・・
マスターと50年分の思い出を語り合った
夜も遅くなり
また来ることを約束して店を出ようとしたそのとき
ドアの開く音がした
なんと
そこにいたのはだんぱっちゃんだった
しかも
なんと50年前と変わらぬ姿のだんぱっちゃんだった
私は目を疑った
だがまちがいない
私がだんぱっちゃんの姿をみまちがえるはずなんてない
だんぱっちゃんが口を開いた
「あの、実はぼくここで昔お世話になっていただんぱちの孫で、でんぱちといいます。」
違った
だんぱっちゃんじゃなかった
あたりまえだった
まさか50年もったった今
彼があの日の姿のまま現れるはずなんてなかった
でも
なんてそっくりなんだろう
まるで生き写しのようだ
そんな彼の姿は私を50年前に引き戻すかのようだった
でんぱち君が話を続けた
「実は祖父から手紙を預かってきました。」
それは私への手紙だった
あれから50年
彼は忘れていなかった
あの日の約束を
そう
わたしたちは50年前の今日
約束したのだ
「50年後の今日も二人で変わらずこの店で会おう」と
だが彼はその次の日からこの店に来なくなってしまった
連絡さえも取れなくなってしまったのだ
だが私は今日ここにやってきた
もしかしたら
もしかしたら彼もこの約束を覚えていて
今日この店にやってくるのではないかと
かすかな希望を抱いて
そして彼は来た
いや
正確には彼自身ではないけれど
彼のかわいい孫と彼の綴った手紙が
手紙を読んで
初めて私は50年前の真実を知った
なんと彼はあの日
突然この店に来なくなった日・・・
「この手紙をあなたが読んでくれる可能性は少ないと思いますが
真実を知って欲しい一心で、僅かな望みをこの手紙に託しました。
おぼえていますか?だんぱちです。
突然姿をくらましてしまったので驚いていたでしょう。
そして、今でも怒っているでしょう。
申し訳ないと思っています。
あの日もいつものように店に行こうと思っていました。
ですが突然の出来事によって行くことができなくなってしまったのです。
事故でした。私はあの日、信号無視をした車にはねられてしまったのです。
そして
それから意識が戻ったのは10年も後のことでした。
記憶がなくなっていなかったことだけが救いでした。
目覚めて一番初めに思ったのはあなたのことでした。
しかし無情にも時は流れていて
10年もの月日がたってしまっていたのです。
私は迷いました。
店に行こうかと。
しかし
突然姿を消した私をあなたが許してくれるのか
いや、というよりも10年もたった今
あなたがあの店にいるはずがない
もし偶然あなたと出会うことができても
きっとあなたは他の誰かと幸せな家庭を築いているだろう
そう思い、店に行くのをあきらめました。
ですがいくら月日が流れても
私の心からあなたへの気持ちが消えることはありませんでした。
私はあきらめきれませんでした。
あの約束の日なら
あの日なら彼女も来てくれているかも知れない
青春の思い出として私と笑って語り合ってくれるかもしれない
そう思い
私は待ちました
時が過ぎてしまったことを恨んだ私が
時が過ぎるのをひたすら待ちました
しかし残念ながら
どうやら私はあなたに会うことはできないようです
私の体は病魔に蝕まれてしまっていたのです
ですがこの気持ちだけはあなたに知っておいてもらいたい
だからこうして今手紙を書いています。
実は意識が戻った後、親に勧められた人と結婚し
すでに孫もいます
その孫にこの手紙を託そうと思っています。
孫は私にそっくりだと評判です
あなたが孫を見て昔のわたしを思い出してくれたらいいなとおもっています。
最後に
私はあの日あなたの人生を狂わせてしまったかもしれません。
そんな私がこんなことを言うのもおかしいかもしれませんが
あなたの過ごした人生が幸せなものであってほしいと願っています。
そしてこれからもお身体に気をつけて幸せに暮らして欲しいと願っています。
だんぱち」
まさかこんなことがあったなんて
どうしてもっと早く気付くことができなかったのだろう
どうしてもっと早く会うことができなかったのだろう
でも後悔してもいまさらどうにもできない
私もあの人のように、時が流れてしまったことを悔やみました。
私は涙が止まらなかった
そんな私にでんぱち君がハンカチを差し出してくれた。
「祖父のお墓に、祖父に会いに行ってくれませんか?」
私はうなづきました
お墓の前で積もる話をたっぷりしよう
待っていてねだんぱっちゃん
しばらくして私は店を出ました
そう
まるで50年前のように
だんぱっちゃんの生き写しのようなでんぱち君と手をつないで
いかがでしたか?
映画って本当にいいもんですねぇ
それでは
さよなら さよなら さよなら