栞の幸せこそ我が幸せ@栞スレpart3

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584風邪の日にはご注意を(1)
「こんにちはっ、祐一さん」
「ああ、良く来たな」
「いらっしゃい。後でケーキと紅茶をお持ちしますね」
「お願いします、秋子さん」
いつからだろうか?
栞が祐一の家を訪ねてくるのが当たり前のようになったのは。
「秋子さん、いつも綺麗ですよね」
「そうだな。あの人はいつまでたっても変らないな」
「私も、秋子さんみたいな大人の女性になりたいです」
「栞が大人…」
「祐一さん、今、とんでもなく失礼なこと考えてませんでしたか?」
「そんなことはないぞ」
「本当ですか?」
人差し指を口元にあて、拗ねるような表情が相変わらず愛らしい。
585風邪の日にはご注意を(2):01/10/01 16:00 ID:.u87qifY
二人は祐一の部屋に入ると、しばらくの間他愛もないことを話していた。
学校のこと、好きな本や音楽、食べ物の話。
しかし、栞を見つめていた祐一の表情が少し曇る。
「栞…もしかして体調悪くないか?」
「そんなことないですよ」
「いや、絶対おかしい」
「実は…ちょっとだけ風邪気味です」
「風邪? いつも無理するなって…」
「今日は楽しみにしてたんですよ」
「だからって…俺たちは、いつでも会えるじゃないか」
「それでも、です」
「栞…」
「祐一さんっ」
突然、栞は祐一の首に腕を廻すと、祐一に体を預けてきた。
小柄な栞の柔らかい体から暖かみが伝わってくる。
「栞…?」
「…風邪は人にうつすと直ると言いますから」
「ずっと前にも、そんなこと言ってたな」
「今は、いつでも引き受けてくれる人がいるから安心です」
二人は抱き合ったまま、今までのことを思い返していた。
永かった冬、桜が舞う春、若葉が芽吹く初夏、入道雲が空高くそびえる夏、そして巡ってきた秋。
幾つもの季節が過ぎ、それでも二人は今この場所にいた。
586風邪の日にはご注意を(3):01/10/01 16:01 ID:.u87qifY
トントン。
控え目に鳴るノックの音。
しかし、物思いにふけっている二人の耳には聞こえない。
次の瞬間、かちゃり、と祐一の部屋のドアが開いた。
「あら?」
「あ、秋子さんっ!」
「!!」
「ノックしたんですが、返事がなかったものですから…」
にっこりと微笑みつつも、いつもの態度を崩さない。
「二人とも仲が良いですね」
「い、いや、あ、あの、これは」
栞は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして、祐一の首にしがみついたまま動けずにいた。
「お、おい、栞」
「うふふ、かまいませんよ。ケーキと紅茶はここへ置いておきますね」
「秋子さーん…」
「それでは、ごゆっくり」
ドアが閉められ、廊下をスリッパの足音が遠ざかってゆく。
しばらく無言の時が流れる。
やがて栞は、祐一の体からゆっくりと身を離した。
「ふぅ、とってもびっくりしました」
「…心臓に悪い」
「心臓のお薬が必要ですか?」
「薬屋は廃業したんじゃなかったのか?」
「あはは、冗談です」
「しかし、まいったな…。栞が帰るとき、どんな顔して挨拶すればいいんだ?」
「えっ…?」
その時のことを考え、またもや赤面してしまう二人だった。