いっしょにゆきうさぎをつくるんだよ 名雪スレ#6

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332名無しさんだよもん

「ただいまー………ん?」

学校から帰ってきた名雪。
祐一はまだ帰って来ていないし、秋子さんは仕事です。
そんな家の奥から、ぐずぐずと泣き声が聞こえてきたのです。
(真琴……どうしたのかな……?)
とてとてと名雪が茶の間に急ぐと
粉々に砕けた花ビンの前で、真琴が鼻を啜り泣いていました。
333名無しさんだよもん:2001/07/19(木) 10:36
「わ、真琴それどうしたの」
秋子さんがとっても大切にしていた花ビンの惨状に、ちょっと名雪もうろたえました。
「あ、あ……あうーーーーー!あうーーーーーーーーーーっ!!」
そんな名雪の反応を見た途端、真琴が泣き喚き始めたのです。
「わ、わ、真琴っ……どうしよう……」
大声で泣き喚く真琴を前に、名雪はおろおろするばかりです。
普段真琴を可愛がっている秋子さんも祐一も、今は家にいないのですから。
「あうーーーーーー!あうーーーーーーーーー!!!」
334名無しさんだよもん:2001/07/19(木) 10:43

「あうーーーーー!あうーーーーーーーーー!!」
真琴が泣き止む気配は一向に見せません。
名雪はすっかりおろおろするばかりです。

と、そんな名雪の脳裏に、ある光景がよぎりました。
怪我を負ったのらねこさんの記憶です。
ねこさんは、それこそ今の真琴のように暴れて喚いていたのです。
けれどもそれは、ねこさんがまわりのみんなを拒絶していたからではありません。
ねこさんは、きっと不安で不安でどうしようもなかったのです。
だからこそ、ただ泣き喚くしかできなかったのです。
335名無しさんだよもん:2001/07/19(木) 10:50

ぎゅ…っ…

気がつけば、真琴の身体を、真琴をぎゅっと抱きしめていたのです。
「だいじょうぶだよ、だいじょうぶだよ……」
「……あ……あう……」
ただそれだけを言って抱きしめる名雪。
いつしか真琴は泣き喚くのをやめていました。
みんな一緒。
不安なときは泣きたくなる。
だから。
そんなときはつつみこんであげる。
やさしく、そっと。
336名無しさんだよもん:2001/07/19(木) 11:02

「あう……ほんとにだいじょうぶ?」
「だいじょうぶ。わたしにまかせて」
花ビンの破片を掃除しながら、名雪が真琴を励まします。
「だから、一緒にあやまろうよ。わたしも一緒にあやまるから」
「なゆき……」
優しく頭を撫ででくれる名雪の手。
何も言わず、真琴は名雪の制服を、きゅっとつかんではなしません。
でも、きっと。



……名雪、ありがと……


337名無しさんだよもん:2001/07/19(木) 15:10


「……けろぴーといっしょだお〜」

部活から帰ってきて、ずっとこの調子だ。
何が気に入ってるのか、いつものかえるのぬいぐるみを抱きかかえ眠っている。

「うにゅ〜」
そんな名雪の手から、けろぴーが転がり落ちる。
おおかた寝ぼけて力が抜けたのだろう。
やれやれ。
苦笑混じりに俺は、けろぴーを拾い上げて、そっと名雪の手もとに……

「けろぴ〜」
「うわ……」
すっかり寝ぼけた名雪が、俺の首に手を回してきて。
「けろぴー、だいすきだお……」
その柔らかそうな唇が……
「うにゅ〜」
俺の口に届く前に、くてっと寝付いてしまう名雪。
その細い両の腕を、俺の首に回しながら。
338名無しさんだよもん:2001/07/19(木) 15:14

「名雪、アイス買ってきたぞ」
「わ、ほんとっ?」
“アイス”の一言で名雪ががばっと起き上がる。現金な奴だ。
「それでだな。チョコレートとイチゴがあるん――」
「イチゴ」
キラキラした目で見つめてくる名雪。
名雪の目だからそう見えるかもしれないが
結構肉食動物の目かもしれないと思ったりもする。
「ほら」
「わ、ありがと祐一。いただきます」
手を合わせあむあむと次から次へと口に運んでいく。
相当暑さにうだっていたのもあるだろうが、それにしても……
「お前、本当にうまそうに食うよな」
「おいしいものはおいしくたべるのがいいんだよ」
ほっぺにアイスをつけたまま、ぱあぁっと名雪が笑いこける。
「ところで祐一はたべないの?」
「俺も食べるさ。おいしいものをおいしく、な」

おいしいものをおいしくいただく。
次の瞬間染まるだろう名雪のほっぺのアイスを一口、おいしく味わって。