Leaf&Key仮想戦記〜永遠の遁走曲篇〜

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70R
北海道へ亡命してきた旧Leaf陣はアボガドパワーズ社長 浦 和雄の庇護により
しばしの安住の地をていれていた。
近畿という、比較的季節を感じる場所で住んでいた彼らも、北の凍てつくような白い
大地では、苦難を強いられていた。
しかし、数日経過すると人間の体というものはよくできたものですぐに慣れてしまった。

その間
高橋は下川と会談し
水無月は生波夢と話している中………一人だけ違う行動をとった男がいた。

「あー寒ぃな…」
用意された仮眠室で一人寝そべっている男…

松岡 純也…リーフ期待の新人音楽マンであったが、2・14事件にまきこまれ
みゃくさと共にする形でリーフを出奔した。
その流れで彼も今は北海道で暮らす身となる。

だが松岡は内心迷っていた。
確かに、リーフが腐敗の一途を辿っているのは周知の事実ではある。
だからといってまだ入ったばかりであった俺まで抜けても良かったのかと…
正直、自分の関わった仕事『誰彼』は確かに色々な方面で不評の声しか聞かない。
しかしそれは青紫の脚本だけである。
CG・演出・プログラミングに関しては決して悪くはなかった。
否!
むしろ今だ業界随一の技術を見せつけた作品であったともいえよう。
音楽に関してもである。

折戸・下川などの屈強な人間が手がけてないとはいえその中で松岡の躍進ぶりは
将来を任せるに十分な資質を見せていた。
二人には及ばずも、松岡自身はこう考えていた。
「俺も、磨けば光れる逸材だ」と………………
71帰還:2001/05/26(土) 01:10
だが2月15日突然、のみゃくさとの昼食で中尾失踪の話しを聞き、
夜にリーフに忍び込みそれからは、現在の状況が物語っている通りである。
しかしアボパに居座って以来、松岡は音楽に携わっていない…
それが彼を不安と焦燥に駆り立てるのであった。
あの時は冷静に考える事もできなかったが今思えば決してリーフ内での待遇は悪いもの
ではなかった。松岡にとっては…
周囲とは会話などのアットホームは空気こそなかれ、逆にそれが仕事に集中できる環境
だったことは自分の能力を向上させるにはうってつけであったことも…
思い出す…『誰彼』制作時での事を…
72帰還:2001/05/26(土) 01:11
リーフ音楽制作室での下川の態度を思い出す…
「どうだ松岡?作業は順調か?」
作業中の松岡に下川がポンと右肩を叩く。
「あっ、専務………いや、社長!ええ、いまの所順調です。」
しどろもどろになって答える松岡…
「新人にお前には重荷かもしれんけど、それだけ俺はお前に期待してるんだからな…」
「あ、ありがとうございます。」
ペコリと丁寧に頭を下げる松岡
「今何曲作ったんだ?」
「えっと、現在13曲ちょいです。」
「ほう、結構出来ているじゃないか…どれ、ちょっと聞かせろ」
そういうと近くにあるサンプリングのテープをヘッドホンで試聴する下川…






73帰還:2001/05/26(土) 01:12
「ふむ………」
(社長っていつも恐い顔してるけど、こうやって音楽に携わる時の顔は真剣だな…)
真剣な表情の下川を見つめる松岡に…
「ん!どうした松岡?俺の顔になんかついてるんか?」
「い、いえ、何も」
「そうか」
再びヘッドホンに耳を当て、目を瞑って拝聴する下川





全ての音を聞き終え、松岡に視線をむける
「……………………………………」
「……………………………………」
無言で松岡を見つめる下川、そしてしばらくして下川が口を開く口は以外であった。
「結構いいじゃないか」
「あ、ありがとうございます。」
再びペコリと頭を下げる松岡
「この出来なら別に文句はない。特に俺は戦闘シーンに使うと思われる、
【FLASHBACK THE BLOOD】は個人的に一番いいと思う」
下川の多少の私見は入っているものの、風雲児としてのその耳に確信はあった。
「ありがとうございます。」
「後は外注の石川(DOZA)とかウチの中上・米村に任せて今日は休んでおけ…」
「で、でも…」
松岡が反論しようとすると下川は…………
「命令だ!」
「わ、わかりました…」
そういうと松岡は
「それじゃ今日はこの辺で」
「ああ、ご苦労。」
松岡が去っていく姿を見て下川はポツリと呟く……
「じゃあな折戸」
「折戸?」
一瞬振り返る松岡、しかし声も小さかったせいか気にも止めずスタスタと帰って行った。
74帰還:2001/05/26(土) 01:13
そんなふとちょっと前の事を思い出す松岡…
「別に…俺はあの人自身に嫌な思い出がないんだよな…」
松岡はふと呟く。
薄い毛布を頭までかぶろうとすると………
ブルルルルル
「!?」
マナーモードにしていた携帯が松岡の胸ポケットで震える…
そして画面を見ると……

090―××××―××××
下川
と表記されていた。
75帰還:2001/05/26(土) 01:15
松岡は一瞬迷ったが、周囲にだれもいないのを確認すると取る事にした。
カチッ
恐る恐る通話ボタンを押す松岡…
「もしもし…」
『俺だ!言わなくても判るな……』
勿論出たのは下川直哉であった。
「はい。」
『今、何処にいる…まあ察しはついているが』
「すいませんが言えません。」
声が多少震えるもののしっかりとした口調で伝える松岡
『まあいいだろう。』
口調を普通にする下川
「で、用件はなんですか?」
『用件?フッ、知れたこと!裏切り者にはどんな制裁があろうとも覚悟はしているん
だろうなって事前電話よ…』
「…………………………………………」
思わずゴクリと喉をならす松岡
『と、いうのはちょっとした冗談だ…ああ冗談だよ…クックック』
嘲笑する下川
「一体何がいいたいのですか?」
『ならば率直に言おう』
「はい」
『松岡、俺はお前にはまだ抜けて欲しくないのだ。』
「!?」
76帰還:2001/05/26(土) 01:15
それは以外な申し出であった。
下川は気に入らない人材はいつでも切り捨てている。その下川が松岡を呼び戻そうとしているのだ。
松岡もこの言葉にはおどろいた。
みゃくさや他のスタッフからは下川は畏敬の存在として聞いていたからである。
しかし実際は違った。
自分が音楽作業しているとき、夜遅くかかっているときも下川は松岡に電話を入れ、あれこれと教えていたからだ。
リーフは新人を丁寧に教えない…それは事実である。
だがそれはプログラマーや背景などだけであって音楽だけは別なのである。
社長という立場もあるが、下川は基本的に音楽以外の能力など持ち合わせていなかった。
教えれるのは音楽のみ…
それだけであった。
だから下川は手塩にかけた松岡には陣内や原田といった人間とは一線を画して好待遇で
迎えたのだ。
しかし松岡はみゃくさや原田達と共にリーフから去っていった。
それが自分の意志とは違う形でも………
77帰還:2001/05/26(土) 01:18
松岡に諭すように、下川は言う。
『帰ってこい松岡、お前はまだ巣立つほど出来ちゃーいない』
「過小評価するんですね。」
不機嫌な声をだす松岡
『確かに【誰彼】の音楽はよかった。しかしだ、まだあれでは[次]には繋がらん!』
「…………それはやってみないと解らないですよ。」
『その場所が今のお前にあるとでも思っているのか?』
「ぐっ」
それは事実であった。
確かにアボパにはいるが、けっして雇われたというわけではない。
言うならば期間限定なのだ。いつかはアボパからも離脱しなければならない…
松岡は思った。
(俺は…戻ってもいいのだろうか…みゃくささん達に悪くないだろうか?)
(ならだいっそリーフで再び…)
「………………おっ…俺」
『ん?何だ』
「しばらく、考えさせて下さい。おれ、結構優柔不断ですから…人の意見聞かないと
不安なんです…だから!」
松岡の切実な口調を察し下川は
『…わかった。だが、これだけは覚えて置いて欲しい。』
「ん?」
『音楽だけは、どこにも負けるつもりは無い!だから松岡、俺はお前に期待してい
るんだ。…その心に偽りはない・・・』
「………」
弱弱しいいつもの下川とは違う声のトーンに押し黙る松岡
『まあ、気が向いたら連絡くれや。じゃあな。』
「あっ、ちょっ……」
ツーツー
「あっ、切れてしまった……」
そういうと松岡は電話をしまい…ふと天上を見て呟く…
「どうしよう?戻ってきて欲しいなんて言われて…でも…高橋さん達がどういうか…」
「戻りたければ、戻ればいい。」
「!」
松岡が仮眠室のドアに目線をやると、そこにはみゃくさが腕を組んで立っていた。
78帰還:2001/05/26(土) 01:19
みゃくさはゆっくりと松岡に近づき目の前に来るとこう言い放った
「今のは…下川からだろう?」
「盗み聞きしたんですね…」
「いや、正確には声が漏れていたという表現が適切だな。どうも案外壁は薄いらしいな
ここは」
「アボパは金銭面で苦しいらしいですから…」
話しをそらす松岡…しかみゃくさは
「そんなことはいいんだ。それよりも意外な話しをするものだな、下川も」
「ええ」
「で、お前はどうなんだ?下川に戻ってきてくれって言われたんだろ?」
「…そうです。」
「どうしたいんだ?お前は」
「えっ、それは、…あの…ですから…」
うろたえて目が泳ぐ松岡
みゃくさは松岡の両肩に手を乗せて真剣な目つきで言う。
「今回の件に関しては元々俺がお前を誘ったことに原因がある。だから俺達の事は
気にせずにハッキリと言って欲しい。」
「はい。」
そういうと松岡はみゃくさを見つめ大声で言い放った。
「お……その…俺…」
「いいた事があるならはっきりと言え!」
みゃくさが怒鳴ると促されるような松岡は言った。
79帰還:2001/05/26(土) 01:23
「俺、リーフに戻りたいです!リーフに戻って音楽に専念したいです!確かにみゃくさ
さんや原田さん・陣内さん達は嫌なこともあったかもしれませんが、まだ俺はリーフに
も、社長にも別に恨みとかないんです。た、確かにあまりアットホームな雰囲気ではなかったですけど、逆に作業に専念できましたし…それに、社長は結構お世話になっていたんです。俺…」
「………」
みゃくさは黙って
「だから、みゃくささんには悪いですが…俺、リーフに帰りたいです。帰ってまた
音楽に専念したいです。」
みゃくさは松岡からが眼光から発する強い意志を感じ取り
「そうだな・・・」
「えっ?」
「わかったよ。お前はまだ帰る場所がある。居場所がある内に戻った方がいいだろう。」
「みゃくささん…………感謝します。」
「オイオイ、元々巻き込んだのは俺だ。礼を言われる筋はないぜ。」
そういうとみゃくさはズボンのポケットから福沢諭吉を5枚ほどとりだして松岡に
握らせると
「これで伊丹空港に戻って、大阪へ帰るといい。」
「で、でもみゃくささんの生活が……」
「なーに、金は無くても、高橋さんと水無月さんがいれば生活はなんとかできるからな
心配するな。次会うときには2倍にでもしてくれればいいさ」
「みゃくささん……………」
松岡は目もとから水分が流れ出す。
「お前はまだ若い。今は何も考えずに仕事して実力をつければいい。俺らみたいな騒動
に巻き込んですまないと思ってるぐらいだ」
「とんでもないです。そんなこと」
みゃくさは…
「さあ行け!元の場所へ、そして出来ることならお前がリーフを変える事を俺は祈って
いるぞ。前の…あの光輝やくリーフを!」
「はい!」
松岡はみゃくさに一礼をすると仮眠室を出て、アボパから出ていった。
みゃくさは松岡を見送ると…
「松岡という純水がリーフの汚れた水を浄化してくれることを祈るだけだな…いまは」
そう呟くとみゃくさの声は後輩の去り行く寂しさと嬉しさがまじった複雑な感じであった。
80帰還:2001/05/26(土) 01:24
翌日、下川の携帯に一本のメールが入っていた。

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No123(2001・2/22・11:34)
件名:意志決定
Name:松岡
Mail:Matu@HotMail.com

札幌空港に居ます。伊丹空港へ着いたら、すぐ新大阪へ向かいます。
今からリーフへ戻ります。ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。
これからもご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。

                       松岡 純也
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下川はそれを見ると、いつもの強面がほころんだと、近くにいた一一(にのまえはじめ)
は言う。
こうして、松岡純也は再び大阪の大地を踏みしめるのであった。