Leaf&Key仮想戦記〜永遠の遁走曲篇〜

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206蜜月
下川は思い出す。
それはあの折戸伸治がLeafに来た事が下川という歯車を狂わせたことに


当時のLeafは高橋・水無月達で高い評価を得ていたが、折戸・下川達の
音楽も業界やユーザーによって良い評価を得ていた。
折戸はLeaf当初から目を見張るほどの音感も持ち、下川の心に響くほどの音楽を
次々と作り出していた。
それが良い意味で影響したのか下川も折戸に負けじと五感を駆使しLeafに貢献した。
結果として、それはよい作品を生み出す事となった。

下川は折戸に関しては高橋・水無月以上に『寵愛』といっていいほど可愛がっていた。
折戸もそんな下川は決して嫌いではなかった。
着実に実力を上げる折戸…

ある日の晩の事。
「おい、折戸よ」
下川が後ろからポンと手を肩に掛ける。
「あっ、専務!お疲れさまです。お帰りで」
「俺はもうひとしきり終わったからな、そっちはどうや?」
「いや、なんかまだ納得がいかなくて」
「どれ、ちょっと聞かせてみろ」
下川はヘッドホンを耳に装着する。折戸は自分の音を流し始める。




「ふむ」
「どうですか?専務」
自信が無いのか折戸は下川の反応を伺う。
下川の口からでは言葉は次のようなものであった。
207蜜月:2001/06/09(土) 20:30
「そうだな、センスに関しては俺がどうこうという部分は別段ないけど」
「けど?」
「技術的な部分にかんしては全体がバラバラだな。もうちょっと音に抑揚をもたせて
いけば、まとまって曲が引き締まるぞ。これじゃこの音が悲しい場所の演出なのか
楽しい場所の演出なのかが聞いたユーザーにもわからんだろ」
下川は折戸に熱心に指導するように話す。
折戸も真摯に耳を傾ける。
「なるほど、これから気を付けます。」
「で、お前はまだ残るのか?」
「はい。もっと練り直すところはあると思いますので」
「いや、今日はもう上がれ。」
「いいんですか?」
折戸は下川に聞くと
「今日はさっさとタイムシート押して帰る支度しろ。その変わり」
「その変わり?」
折戸がオウム返しで聞き返すと
「たまには俺の飲みにも付き合え」
下川は折戸を居酒屋へ連れていこうとした。
折戸は
「有り難いんですけど、まだ仕事が…」
「別にマスターアップ日って訳じゃないからそんなに気にする事はない。それとも、
俺と酒が飲めないっていうのか?」
「い、いえそんなことは」
「んじゃ決まりだ。」
強引に決める下川。
折戸はタイムカードを押すと下川と共に伊丹の居酒屋で飲むこととなった。
208蜜月:2001/06/09(土) 20:32

座敷で下川と折戸は向かい合い、お互いの手には中ジョッキのビールがあった。
「んじゃお疲れさん。」
「お疲れさまです。専務」
カ〜ン
グラスの当たる音と共にグイッと飲む二人
「しかし、専務」
「ん?」
「いいんでしょうか、俺達だけ先に上がって…生波夢さんとから〜YOUさんとか
まだ、仕事しているのに…」
「ああ、あっちはプログラマーに原画だからな。俺らは音楽だ、舞台が違うから気にすることなんて別にない。」
下川はそういうとジョッキを一気に空にして…
「お〜い、今度は焼き鳥追加ね」
「あいよ!」
威勢の良い声をよそに折戸はチビチビと飲む
「しかし専務は飲む勢いが早いですね」
「まあな。所で折戸よ」
「はい?」
「お前は女はいるのか?」
「はい?」
「女はいるのかって聞いてるんだ」
「……………………………………………………………………」
無言の折戸。しかし顔は赤い
「何だ?いるのか。そりゃあ良いことだぞ。」
「ん、どうしてですかそれは?」
「音を作り酒を飲みたまに女と寝る。それがゲームに生かされるってものだ。」
「じゃー、専務にも彼女がいらっしゃるのですか?」
「それは秘密だ。」
今後は折戸が
「それは卑怯ですよー。こっちに聞いておいて自分は秘密なんて。」
「専務命令だ。」
きっぱりと言い切る下川に折戸は
「あっ!こんな所で使いますか…まあいいですけどね。」
あっさりと引く折戸
「おい、お前の彼女紹介しろ」と
突然下川は言う
「えっ、紹介するんですか?」
しかし折戸は従順に
「いいですよ。かわいいですから、間違っても手を出さないで下さいね。」
「アホ、んなことするか…」
下川は一蹴する。
209蜜月:2001/06/09(土) 20:33
「話し変わるけど…」
「俺の彼女から唐突に変わりますね。」
即座に反応する折戸
「これは重要や、聞け!お前も音楽に携わっている人間なら、そいつが作り出した音
でそこまで理解できれば一流だ。」
「俺、そんなニュータイプな能力ないですよ。それにどうして音楽聞いて判別が
出来るというのですか?」
もっともな質問に下川は持論を展開する
「アホやなぁ、そういうのは聴いててや、「あっ、この作曲者は彼女がいるな〜」とか
脳にこうビビってこん?」
「きません。」
そういうとビールを空にする折戸
「あかんわお前。それじゃ一流になれんよ。この世界じゃ」
「いや、それよりも元々18禁ゲームなんて音は演出の一貫じゃないですか、いえば
サブみたいなもんじゃないですか」
折戸も己の持論を展開する
「俺ら音楽携わっている人間はいかに脚本のセンスと絵にマッチした音を奏で出すか!
そんで自然に耳に入りやすい音を流すことが俺らの仕事だと思ってますけど…」
そういうと下川も納得し
「まあ、それはたしかにそうやけどな。んな事いっていたらお前はずっと高橋の脚本
と水無月の絵に歩調合わせて作るんか?自分のオリジナリティーはそこにあるんか?」
「まあ、それはそこそこに」
「それじゃーあかんよ。」
そういうとテーブルに焼き鳥が出され二人とも一時話しを止める。
210蜜月:2001/06/09(土) 20:34
二人とも1串づつ食べる
「すいません、焼きそば一つお願いします。」
折戸が追加注文する。
「こっちはチューハイ1つ」
下川もまた注文する。
「専務、飲み過ぎじゃないですか?」
「オイオイ、まだ3杯目やぞ」
「いや、量なんですけど」
「大したことは無い。高橋とか鳥のと飲むときなんか、こんなもんじゃないしな。
まだまだ行けるよ。っていうか折戸、お前下戸か?」
「いや、普通だと自分では思っているんですけど、そんなガバ飲みはしませんよ。」
「そうか。で、何の話ししてたっけ?」
下川は何の話しをしていたか思い出せずつい折戸に尋ねる
「えっ、音を歩調で合わせるかオリジナリティー出すかって話しでしたけど…」
「あ〜そやそや。忘れてた」
「専務もう酔いが回っているんじゃないですか?」
折戸が訪ねると下川は
「酔っているというな。気分が高揚していると言え」
急にポーズを決めて下川は言う
「はぁ」
また1串摘み、普通に反応する折戸
「まあ、お前の会わせるってのは確かに大事よ。感動の部分でちゃらんぽらんな
ノー天気な曲流された日には気分もシオシオだろうしな。」
「まあ、それは極端ですけどね。」
「でもよ、人にばっかり会わせて自分を失ってたらそれは音楽家として失格やぞ」
「俺が自分を見失っているとでもいうのですか?」
「いや、そうじゃないけど懸念はしてるぞ。」
「でも、俺も高橋さんや水無月さんにかくれて自分を出してますよ。「折戸で〜す」
って。」
「そうなん?」
「まあ、さりげなくですけど。」
「そんなんお前さりげなさ過ぎるわ。わからんし…だから俺みたいにもっと我出して
いかな。そんなんじゃあかんで。」
「でも、独りよがりになりたくないですし」
折戸はあくまで調和の論理を展開すると
「まあ、お前がチームワークというかゲームの調和を重くみてるのは解るけどな〜
あれやって、シナリオ!脚本!音楽!の各個人の天才的な突出がギラギラ戦い合って
いるからこそゲームが光るとは思わんか?俺は高橋・水無月に押されんにって考えて
曲作っているけど…その辺はお前はどない思ってるんや?」
下川は熱く語ると

「俺は専務の意見とはやっぱり違いますね」
今度は折戸が下川に噛みついた。
211蜜月:2001/06/09(土) 20:45
「やっぱり、絵風に合わせた曲とか作ってこそ、俺らの仕事だと思っています。こんな
こと言ってはあれだとおもいますけど、やっぱりお金もらって仕事しているんですし、
へたに我を出してゲーム全体に悪影響及ぼした日には売り上げは減るし給料は少なく
なるし、責任追及はされるし…そういう意味ではあんまりですね。」
折戸はそういうと下川はウンウンと頷いて
「まあ、多分これは身分の違いやな。俺は専務やしお前は別に要職の地位についてい
る訳じゃないから…その考えなら理解できるわ」
「納得してくれました?」
「それなりにな全部じゃないけど。そこまで言うんやったらそのままお前のスタイル
貫いたらええわ。二人が同じスタイルでいるよりもバリエーションが増えるやろうか
らな。その方が会社としても広がりがあるしな。」
「そうですね。俺も専務の作曲方法は性格的にあっていると思いますので…」
「ま、自分の事わかってないとな」
そう言っていると焼きそばとチューハイが机の上に置かれる。
下川はチューハイをあおり、折戸は焼きそばを食べる。
212蜜月:2001/06/09(土) 20:46
飲食がまた一段落すると今度は下川が
「まあ、折戸よ。」
「はい」
「俺もたまに嫌な奴に見えるかもしれんけどよー」
「十分嫌な奴に見えますけど…」
ボソっと言う折戸
「あん!?」
下川は眉間にしわを寄せて折戸を見る
「冗談ですよ。冗談。そんなわけないじゃないですか。」
「まあ、そういう事にしとこう。でもな折戸、俺が嫌な奴に見えるのはな、それは
お前が磨けば光ると思っているから言うんやと思ってくれ。」
「勿論です。」
「お前はいつか俺を越える。その時を楽しみにしてるねんからな」
「任して下さい。」
折戸はそういうと
「エエ度胸や。」
拳の骨をボキボキとならす下川
「ちょっと待って下さい!自分で言ったじゃないですか?」
「話しの振りに決まってるやろ!関西のノリぐらい、とっととマスターしとけ」
(それ作曲となんの関係が……)
なんだかんだと言われている折戸だが、こういう下川とのやり取りは嬉しかった。
(よし!俺も専務を超える音を奏で出すぞ!)

しかし、折戸の音楽センスは自分の思っている形とは違う形で引き出される事となる。
二人の水魚の交わりはそう長くは続かなかった。