シェンムー映画再び 4日まで

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155Ending――
Seen 1【Black OUT】

 最初に意識さめたのはたぶん病室の中だったのだろう。
 側にいるであろう医者や看護婦の喧噪を耳にしながら、
 俺はたった一つの言葉だけを耳に再び意識を失った。


 『パパー!パパー』という叫び声だけを頭にリフレインしながら――――


 再び気が付いたとき、右手には何かが握っている感触――――この小さい手は麻衣か?
 時折雫が当たるが、それが何であるかは考えないことにした。

 意識をハッキリさせようとしてもどうしても出来ない。
 麻酔がかかっているのか?
 俺は意識をハッキリ保つことを諦めて、右手を握る感触に集中した。

 ただ、ここに俺を必要としている人が側にいてくれるだけで。
 ――――俺はあの悪夢から帰ってきたのだと漠然と感じながら、
再び意識を失った。
156Ending――:2001/05/29(火) 00:56
 次に気が付いたとき、目を開けようにもその力が入らないことに気が付いた。
 麻酔がかかっているのか?
 それなら、この両手の感触はなぜ伝わるのだろう。

 右手には暖かくなにかが握ってくる感触。
 これはきっと麻衣が握っていてくれているのだろう。
 それならこの左手の指先が痛む感触はいったいなんだ?

 麻酔がかかっているなら、痛みは感じないだろう。
 そう考えながらも、その痛みは俺の意識を奪っていく。
 それより――――――――――――

 なぜ俺はここで横になっているんだ?
 涼元をボートの上で看取ったのち、俺はいったいどうしたんだ?
 たった1人でボートの上に残された俺が、無事に岸までたどり着けたとは思えない。

 だが、喧噪の中に聞こえるのは麻衣の泣きじゃくる声と、医師団の話し声だろう。
 俺は、どういう訳かどこかの病院にたどり着いたらしい。
 考えられるのは――――そう、閂氏たちの手によってだろうな。

 俺は、意識をハッキリさせるべく体のどこかが動かないか必死に試みる。
 右手の指先をほんの少し、だが確かに自分の意志で動かすことが出来た。
 俺は必死に麻衣の手を少しでも握ろうと必死に力を振りしぼった。

『パパー!!パパー!!まいはここにいるよ、まいはここにいるから〜〜〜』
 麻衣の声をハッキリと耳にして、俺は必死に瞼を開けようと振り絞った。
 医師団の喧噪がいっそうあわただしくなる。

 それらを耳にしながら俺は、眼を開き始めた。
157Ending――:2001/05/29(火) 00:56
【White Out】
 外界の音が何もかも聞こえなくなった。
 目に映ったのは、ぼんやりとした白い光。
 そして、羽の生えた何か光輝く者。

『さようなら、あなた。あなたは私の元に来るのはまだ早いから。
 私はいいから、麻衣の側に居てあげて。
 私とあなたの大切な――――本当に大切な麻衣の側に――――――』

 俺は確かにこの耳に聞こえた言葉を紡ぎだした者を呼び戻そうと必死に声を張り上げる
『――――い――――――――――る――――――』
『――――――――た――る――』

【Seen Change : 集中治療室】
 目を見開いて最初に目に入ったのは点滴の瓶とビニールに包まれた空間、
白いリノリウムの天井。
 見慣れない電気機器に、確かに見える―――― 一人の少女

 覆い被さるように抱きついてきた、たった一人の愛娘――――
 麻衣の泣きじゃくる顔だった。

 泣きじゃくる麻衣を撫でようと右手を動かそうとするが、どうしても動かない。
 左手を動かそうと試みたが――――俺の左腕は既に失われていた。

 あの場所で起きたことは夢でもなんでもなく、本当に現実に起きた事だ。
 それをこの左手が示していた。
 そして、その左腕と目の前で泣く麻衣の姿を見て――――


 ――――俺は、あの悪夢からやっと帰ってきたのだと実感した。


 そして、満足にため息も付けない自分に心の中で苦笑しつつ、麻衣には悪いと
思いながら
 俺は再び深い眠りへと落ちていった。
158Ending――:2001/05/29(火) 00:57
Seen 2【回想、そして…】

 窓から見える光景を他人事の様に眺めながら、俺はぼーっと点滴を受ける。
 日差しはベッドで寝ていた俺に活力を与えんと、必死に照らしてくる。
 きつい日差しが病院のリノリウムの壁に反射してあたり一面を明るく照らす。

 俺の脇にはベッドにもたれかかって眠っている麻衣がいる。
 ママはあの島で恐竜のぬいぐるみと遠くに逝ったと、麻衣にどうやって説明
しようか真剣に悩む。

 麻衣は怖々としながらも、俺の手を握っていてくれている。
 そんな麻衣に俺はそっと、そしてやさしく頭を撫でてやることしか出来なかった。
 そんな駄目な父親に、麻衣は私しかいないと言いたげに、ぎゅっと手を握っている

 俺にたった1つ残されている希望。それがこの麻衣。
 麻衣がいなければ、俺は起きてすぐ生命維持装置を自分の手で止めただろう。
 あいつらのいないこの世に生きている価値なんて本来ありはしないのだから。

 たまに、自分でも気がつかずに暴れているようで、気がつくと点滴の針が
 別の場所に刺さっている事もあった。
 最近は精神科の先生のおかげで、どうにか押さえられているようだ。

 きっと知らず知らず麻衣にも当たっていたのかと思うと、あの怖々とした
麻衣の態度がやはり俺の責任なんだなぁと落ち着いた今になって痛感する。
 俺は、これから先どれだけ麻衣に迷惑をかけながら過ごしていくのか不安を感じながら

 そして、そんな長くまともに動けなかった生活の中で、俺の心は少しずつ少しずつ
 考えを落ち付けるにいたった。
 そこにいたるまでにかかった月日は、3ヶ月以上も過ぎ去っていた――――
159Ending――:2001/05/29(火) 00:57
【Seen Setting : 病院個室】
「麻枝さん、点滴を替えますね。
 そう言って看護婦は点滴のパックを手際よく取り替え、針を刺し直す
 最近見慣れた光景だが、正直慣れたくはないなと思う。

「あと――左腕の方はどうですか?痛みは無いですか?
 俺の選任看護婦なのか、個室に割り当てられていた俺の基本的な看護は
 すべてこの彼女やってくれている。

「幻視痛はやっかいですから、痛みを感じるようでしたらちゃんと言って
下さいね」

 そういって、俺の左肩をさすってくれる看護婦に、感謝するとともに、
ひどく済まない感情で心が締め付けられる

「えぇ、今日は今のところ幻視痛は無いですね。
 それも少しずつリハビリをしているからだと思いたいですね」
「リハビリ、がんばってくださいね」

「はい。ありがとうございます。頑張りますよ、麻衣のためにも」
 そんな他愛ない会話で和む自分に安堵しつつ、だがどうしても確認しなければ
ならないことを俺は聞くことにした
160Ending――:2001/05/29(火) 00:58
「看護婦さん、1つ質問して良いですか?」
「はい?なんでしょうか?
「看護婦さんは、この事件――――ご存じなのですよね?」

 俺は、ワイドショーで未だにあのときの事件を放映しているテレビを指さす。
「はい。存じてますよ。あなたがこの病院に来たのはそれが理由なのですから。
 安心してください。ここにいる限りは安全ですから」

「あと、麻衣は今幼稚園に行っているのですか?」
「残念ながら行っておりません。Keyの事務の方と名乗る方が、大慌てで
こちらへつれてきて下さいました」

 早苗さんか――――あの人にはどれだけ感謝してもしたりないな。
「――――そうですか。いろいろご迷惑をおかけして済みません」
 そう言って俺は頭を下げた。

「でも安心してくださいね。あの子は既に幼稚園で教わるようなことは全部
 すませて、今、小児科病棟の子達と一緒に勉強してますから」

「なにからなにまでありがとうございます」
「いえ、気にしないでください。今までこの仕事をしてきた中でも一番楽しいと
思えるくらい充実していますから」

「手の掛かる患者だったでしょ」
「えぇ、それは否定しませんわ。でもね、それは肉体的にも精神的にも壊れかけて
いましたし、お気になさらずに」

「最近は落ち着いたご様子ですので、助かっておりますわ。
 一時期は24時間体制でしたからね」(クス
161Ending――:2001/05/29(火) 00:58
「24時間体制って――――え、あ、本当に済みません!」
「あ、ごめんなさい。ちょっとだけ愚痴ってしまいましたね。こう言っといて何です
けれでも、気にしないでくださいね。本当に好きでやっていることですから」

「そもそも24時間体制を買って出たのは私本人ですし本当にお気になさらず。
労働基準法が邪魔をするので基準時間外はあくまでプライベートって事になって
いますけどね」(///)

「そういう訳で、麻枝さんが退院出来たら、なにかご馳走してくださいな」
「え、あ、はい。喜んで。
 でもお食事程度ではお返し出来ないようなご恩です」

「ふふ。食事で良いですわよ。その代わり、麻衣ちゃんも一緒ですよ
 それでは失礼いたします」
 看護婦さんは微笑を浮かべながら退室していった。


 麻枝は看護婦が足取りの軽く退室していくのをボーと見ながら、彼女の背中がなぜか
 いたるとだぶってくる自分に気が付いて苦笑した。
 そして、思い浮かんだついでに、目が覚めてからこれまでの事を思い返していた。
162Ending――:2001/05/29(火) 00:58
Seen 3 : 【News Stage】

ここ3ヶ月の事件経過をダイジェストで――――
※メッセージ欄表示ではなく。デジタルノベル形式で

○1画面目
 あの日に起きた事件は業界どころか世界中を震撼させた。
 日本という、安全が売りの国に置いて、30人以上の人間が1つの島で
殺し合いを行うという狂気に満ちた事件が発生し、しかも、それは複数の
企業体が模索して行ったという事実が、センセーショナルにブラウン管を
駆けめぐった。

 今、世界的には落ち着いて、日本の企業体に対する業務停止命令と、殺人
教唆の裁判が大阪、東京の裁判所で行われている。
 このまま行けば間違いな最高裁で決する事になるだろう。

オウムの時と同様、大量虐殺教唆と世間を騒がせた件も考慮して無期懲役
以下の求刑が下ることは無いだろうと、書くメディアは報じている。

 彼らの進退如何によって、これからの業界に関する制約も変わってくる。
 彼らは彼らだけの問題で収まらないだけの事をした事を、これから嫌と
言うほど教え込まれるだろう。

○2画面目
 また、実際に殺し合いをした企業のうち――LeafとKeyは、両者共に事実上
業務を停止した。
 こちらは強制査察の結果という理由ではなくく、純粋に経営者、及び開発陣
不在の状態に陥り会社が成立しなくなったためだ。
 AQUA PLUSはどうにか持ち直そうとしたが、やはり人材不足はいかんとも
しがたく、人員募集を大々的に行ったにも関わらず1人の応募も無かった事が
致命的だった。
 下川不在が好材料になったわけではなく、むしろ誰もいないLeafに対して
開発者がアプローチするよりも、VA傘下の企業体の方が同人作家陣にはウケ
が良かったのだろう。

BASE−SONの告知はそういう材料的に非常に大きかった事になる。
163Ending――:2001/05/29(火) 00:59
3画面目
 Keyの業務停止はもっと単純明快な理由で、今会社内に誰もいないのだ。
 先日いろいろやってくれていた子を解雇して、Keyという母胎に存在する人間
は俺1人となっている。
 一時期電話が鳴りやまなかったらしいが、それもしょうがないだろう。
 早苗さんの助力が無ければ

 ヴィジュアルアーツは社長が入れ替わり、他の開発メーカの販売母胎として
どうにか運営している。
 このあたりの展開力は、KeyだけでなくSAGAPLANETやStudioMebius等、売上
実績の高い企業体に対して、資本提供をしていたのが衰退の一途をたどらずに
済んだ証だろう。
 そして、なにより、今回の事件に対して
『うちの企業は社長を失うという損失を出しているのに、
   殺人側に乗っているわけがない』
 と訴えかける事は非常に単純かつ効果的であった。

 ただ、これから先、内部分裂が起こるかもしれないが、それでも小規模企業
に対して資本提供の代わりに販売契約という形をとり続けられれば、馬場社長
の意志を企業体として継ぐことは出来る。

4画面目
 ロワイアルに関連した企業団体は分裂した場所も有ったりしたが、世間の
荒波自体がHゲー関連企業に対して圧力をかけてきたため、一大文化とまで
なっていたHゲー業界も家庭用の波に飲み込まれていった。

 そして、その波は麻枝にとって非常につらい波でもあった。

 そうした影響が世間によって現れ始めている映像を見ながら麻枝准は考え始めた。
 涼元や久弥との約束を反故する訳にはいかない。
 おれは、俺の出来る範囲で彼らに報いていかねばならない。

 それは生き残った俺にできるたったひとつの報いる道だからだ。
164Ending――:2001/05/29(火) 00:59
Seen 4 【これから――――】
Seen Change 【病院の個室――――】

 事務の早苗さんが、事務所を離れる際、俺に資料を持ってきてくれていた。
 それを見て俺は呆れたのだが………

 今、俺の知らない俺の口座に、Keyの売上金が入り続けているらしい。
 VAとの契約の再更新を行わず、今期の売り上げ契約までとしてあった。
 誰の手引きかだいたい解ったが、なんとも………やってくれるよ。ほんと。

「もし、事務所を立ち上げ直せたら早苗さんにはこの恩を返さないとな」
 おれは、誰に言い聞かせる訳でもなくポツリと呟いた」

 生きて帰った3人は、名前と所在地を伏せてもらっている様だ。
 最低でも、私の所にインタビューに来た取材員は居ない。
 彼らの独白インタビューが再放送されない所を見ると彼らも大丈夫の様だ。

 ただ、亡くなった面々が公表された中から、俺を推察して連絡をくれた人間はいた。
 彼らにはこれから先いろいろ迷惑をかけると思う。
 だが、気のいい奴らが多いから、またあのときのようにわいわいやれるだろう。


 俺はそう願わずにいられなかった。
165Ending――:2001/05/29(火) 01:00
「失礼いたします」
いつもお世話になっている看護婦さんが、いつもの丁寧な物腰で部屋に入ってくる。
「どうしたのですか?」

「麻枝さん。面会を求めている方が2名来られたのですが、どうなさいますか?」
 扉の外から聞こえる懐かしい声に微笑みながら、念のため問いかける
「どなたかわかりますか?」

「はい。本名も預かっていますが、それより陣内と閂が来たと言えば解ると――」
 そうだよな。やはりあの2人だよな――――
 ちょうど会いたかった時に来てくれるなんてあいつらは――――

「その二人は私の命の恩人です。通していただけますか?」
「はい、畏まりました」
 看護婦さんはそう言って、扉を開けて2人を招き入れた。

「よぅ麻枝さん。やっとまともに話せるようになったみたいだな」
「―――しかし、リカちゃん野郎にリアルリカちゃんみたいな子供が居るとは
思わなかったよ」

 陣内と閂がとぼけた表情で話してくれる。
「しかし、ホントこんなに速く回復するとは思わなかったよ。娘の力は偉大だな」
「まったくだ」

 こいつら2人は、あのときも、あのときからも変わらずにいるようだ。
 俺同様親友を失っているはずのこの2人は、俺なんかより強く生きている。
 俺はベッドにもたれかかるように体を起こし、2人を見る
166Ending――:2001/05/29(火) 01:00
「今日はわざわざお越し頂いて済みません。こちらの用事であるのも関わらず、
お呼び立てしてしまい………」

「いや、かまわんよ。正直あなた方が居なければこうして生きて帰って来れ
なかったのは事実なんだからな」

「おれのハートチップルはともかく、お前の目覚まし時計はなんの役にも
 立たなかったからな〜」
「またそれか。シスプリ野郎は黙って妹に萌えてろ!!」

「目覚まし時計の合わせ方も知らない脳無しは、らぶひなでもみて萌えてろ。
しのぶ萌え〜とか逝ってよし」

「ふっふっふっふ。閂!また馬脚を現したな。
 多々年齢差のあるらぶひなで、わざわざ妹分のしのぶを条件反射的に選ぶお前は、
やはり妹無しには生きて行けないんだ」

「所詮お前はおにーたんと呼ばれることでしか満足できない性癖なんだよ。
 おにいちゃま、チェキチェキとか言われて下半身を盛り上がらせるダメ人間なのさ」

「あ〜、わかったわかった。それくらいでやめとけ。
 独創性A、シナリオ◎さんがあきれてるぞ」
「う――あ――どうせ俺なんて最初にメンバーリストに入らないような人間さ――鬱〜」

 閂の一言で鬱状態に一気に落ち込む陣内。
「くくくく、ぶはははははは」
 麻枝は久しぶりに大声で心底笑った。
167Ending――:2001/05/29(火) 01:00
「ほらみろ。麻枝さんに笑われただろ。正直お前と同レベルと思われるのは心外だぞ」
「同類ってお前、人を奇人変人扱いするなよ!」
「奇人変人ってお前人でいたつもりだったのか?」

「んだとゴルァ(゚д゚)」
「こういう場でそういう単語を使うなっての。。。ったく」

 やっぱりこいつらだよ。こいつらのこの底抜けな明るさが何度もあの絶望的な局面を
打開してきたのさ。そして今度も――――
「いえいえ、こちらこそ突然笑ったりして済みません」

「いえこちらこそ済みません。病人の傷口を広がらせるようなまねをして」
「大丈夫ですよ。抜糸してない箇所はもう無いのでお気になさらず」
「そう言っていただけると助かりますね――ところで」

「先日こういう封書が俺達に届きましてね。それでここまで来たのですが」
 そう言って閂は懐から手紙を取り出す。

 そこに記載されている文字は非常に見覚えがある。
 また早苗さんに借りを作ったな――――

「ここに記載されている内容がいまいち信じられなかったのと、記載されている文字が
女性の物でしたので、少々気になってここまで来たのですよ」
「サンクリのついでだけどな」

「いいから陣内はちょっと黙ってろ。おもちゃが欲しいならこのGBA貸しとくから」
「いえ〜い。っておいおい。俺もこの手紙が気になったから来たんだからちゃんと話を
聞かせろよ」

「だったら馬鹿やってないでちょっとはおとなしくしてろ!」
「へぇへぇ」
 閂は陣内にそう言い含めると、麻枝の方に向き直る。

「で、ここに記載されている内容ですが、これは本当ですか?」
 閂と陣内の目は真剣そのものだ。
168Ending――:2001/05/29(火) 01:01
「はい。私がここを退院したあと、会社を立ち上げようと思うのですが、そこで働いて
いただけませんか?
 待遇等はなるべく相談にのります。Leafの時の様な金額では絶対に無いですから」

 閂と陣内はお互いの顔を見合わせてきょとんとしている。
 閂は困ったような表情を浮かべたのに対して陣内は即答だった。

「やる!!!おれはやるぜ!!!!本人から直に言われて疑う余地ないからな。
 なぁ、閂!お前はどうするんだ?Keyの雰囲気がどれだけ良いところかは中尾の
いたる賛歌を聴いていたお前なら知ってるだろ」

「俺が考慮をしているのはそんな所じゃない。
 なんでこのご時世にわざわざH会社を立ち上げるのかってことだよ
 しかも、あそこの生き残りである俺達3人がそろって」

「俺ら3人が立ち上げればその時点でマスコミネタのいい材料なのはお前だって
分かるだろ?」
 閂の問いかけに、陣内は黙ったままだ。

「そのあたりは私も考えました。
 ですから、そういう事を含め、あなた方の自由意志にお任せしたいと考えています」
 麻枝は淡々とした口調で

「社として立ち上げた際、その手の取材は私に集中しますし、あなた方は社の意向
という形ですべての取材を拒否していただいて構いません。
 そういう形のケアは当然行わせていただきます」

「だってさ閂。正直マスコミの連中にあれこれ言うのが嫌な俺としてはこの申し出は
願ったりだよ。
 条件面に関してはなるべく考慮してくれてると言っている、なにが不満なんだよ」

「…………不満は無い。だけど、俺は今やりたいことをしている最中で、それに仕事は
邪魔なんだ」
「やりたい事って同ソか?」

 閂は陣内の問いかけに、頷いた。
169Ending――:2001/05/29(火) 01:01
「麻枝さん。不躾な願いですが、今作っている同人ソフトが仕上がってからでも
かまいませんか?
これだけはどうしても仕上げたいんです」

「その同人ソフトって、もしかしてこの間の事を風刺化した物ですか?」
 閂は麻枝の問いかけに頷いた。

「それでしたら、ご迷惑で無ければ是非私にも手伝わせてください。
 あまりお役に立てないと思いますが、それでも音楽、シナリオ、設定ならそれなりに
お手伝い出来ると思います」

 閂は驚いた顔で麻枝を見る。
 麻枝の眼は真剣で、かつおもしろい物を見つけた眼をしている。

「正直、私自身それを作りたかったのです。ただ、私は絵心やコーディングに関して
全然知識が無いので、1人では無理なのです。
 だから、あなた方をお呼びしたかったのですから」

閂は突っぱねるように麻枝に語り始める
「その腕で出来ますか?幻肢痛は無いですか?
 それに、大切な娘さんと一緒の時間が減りますよ」

「私はかまいません。むしろ、あなたの開発の手伝いとして、お手伝いできる事は
全てさせて下さい
 開発室も開発機材もすべてこちらから提供出来ます」

「そして、その開発が終わった後に、私の会社を立ち上げれば良いのですから
 同人ソフトの開発期間内に、私と折り合いが会わないと感じたら、そこで
 やはり駄目だと仰ってくださっても良いです」

「あ、当然同人ソフトの基礎資金提供はできますけど、売り上げはあくまで閂氏です。
あなたが考えてあなたが作成する物に共感して、私は私に出来る範囲でお手伝いする
だけですから」
170Ending――:2001/05/29(火) 01:01
 閂は、麻枝の言葉に眼を丸くした。
 同人ソフトを作成する環境を企業体の資産で提供してくれる?
 基礎資金を提供しながらも、売り上げはこっちでよしって――――

「麻枝さん。それ本気ですか?
 その発言は、私個人のために、会社を1つ立ち上げると言っているのと変わりませんよ」
 閂はあきれた口調で麻枝に言い放った。

「えぇ、そのつもりで話していますよ。閂さんと陣内さんは、私が会社を設立する上で、
無くてはならない存在です。
 昔の久弥や折戸さんと同じように、ふざけ合いながらやれる仲間が私は欲しいのです」

「私がLeafの下川氏みたいに、私が変わってしまわないよう注意してくれる人が
欲しいんです」


「それには、あの死線をくぐり抜けた友が私にとって一番良いんです。
 もう、それはあなた方しか居ないのです」
 麻枝は淡々とした口調語った後、閂に対して静かに頭を下げた。

「閂、これの何処に断る理由が有るんだ?言って見ろよ」
 陣内が閂の背中を叩きながら言い放つ。

「問題点は無い。そして不満点も無い。
だが、疑問に答えてくれてない。
 なぜこのご時世に会社を立ち上げる必要がある!」

 麻枝は遠くを見つめる眼差しで、窓の外を眺め見る
「それは、あいつらと約束したからです。
 あの島で、あの馬鹿げた死闘の中で、折戸さんや涼元たちと――――」

 閂は麻枝の眼がキラリと輝いた野を見逃さなかった。
 真横に向かれてしまって、瞳が見えないにも関わらず輝く物の存在を
171Ending――:2001/05/29(火) 01:01
「やっぱりあなたはずるいですね。
 そう言われて断れるはずは無いじゃないですか」
 閂は天井を見上げて眼をつぶる

 その瞼の裏には親友の笑顔が移っているのだろうか――――――
 閂は深く、深くため息をついた。

 その雰囲気を察した陣内は、壁に寄りかかり腕を組んで一人の馬鹿をやった友の
事を思い出していた。
 その友の発した言葉や歌声を思い出して、苦笑とも微笑とも取れる笑みをこぼす。

 再び麻枝と閂が眼を合わしたのは数分後だった。
「また近々来ます。これからの事をいろいろ話さなくてはいけませんし」
 閂はそう言うと麻枝に手をさしのべた。

 麻枝は、閂の差し出した手を堅く握ると『ありがとう』と誰にも聞こえないような
声で呟いた。
 心の底から漏れたその一言を、閂は何も聞かなかった様に握った手をそっと離した。

「麻枝さん、俺もよろしくお願いしますよ。
 閂見たいに何でも出来るわけじゃ無いけど、俺に出来ることは何でもするからさ」
 陣内は麻枝の手が壊れんばかりに強く握りしめた。

「陣内、そろそろ打ち上げに行くぞ。サークルの面々が待ってるからな」
「お、そうだな。
 あ、麻枝さん。これまだオフレコっすよね?」

 ボカッっといい音がしそうな勢いで陣内の頭を閂は殴った
「んなの当たり前だろ!
 会社が建つかも決まってないんだから。アホか!」

「いたたたたたた。っっったく。殴ると脳細胞死ぬんだぞ」
「安心しろ。お前の脳味噌でそれで死ぬようなのはとっくに死滅してるよ」
「それもそうだな」

「それでは、麻枝さん、また近々来ますので」
「おじゃましました〜〜」
172Ending――:2001/05/29(火) 01:02
 二人に条件反射的に会釈をしながら、麻枝の頭の中は、既に遠くなった過去を
思い返していた
 またあのころのように馬鹿な事をしながら物を作っていける。

 そう。それは『生きている』からこそ出来る。
 だから俺は俺に出来ることをやり続けようと、やり続けていくとしよう。


「――――――――それでいいよな、いたる――――――――」


 麻枝は、窓の外に向かって呟くようにそう言った。
 空には1枚の白い羽が、風に流されていた。
 その場に何かが舞い降りてきたかのように。
173LastSeen――:2001/05/29(火) 01:03
Seen 5: 遠い空の向こうで
Seen Change 病院の屋上
【Ending Song 『See You 〜小さな永遠 〜 Long Version』 】
【Singers KOTOKO To AKI】
メッセージの流れはオート


 羽の生えた女性が、病院の屋上の金網に座り、外の風景に見入る。
 手で目元を拭い、微笑みを地上に向ける。
 笑いながら病院をあとにする2人組を見つめながら。

 白く輝く羽を羽ばたかせ、羽の生えた女性は病院のとあるまどに腰かける。
 その個室にいる男は、窓の外を見ながら涙をこぼしていた。
 その男に微笑みかけ、

 病院の一室。子供達が遊びながら談笑している部屋。
 一人の少女が窓の外にいる女性に気が付いて走り寄る。
 羽の生えた女性は、その少女に微笑みかけ、羽を羽ばたかせそれに舞い上がる

 景色はだんだんと小さくなっていく。
 病院は既に点になり、何処だかも伺いしれない。


 「――――ありがとう。私の大好きな人――――」


 舞い散る羽とそれに差し込む日差し、そして照り返し
 それらの中で舞い踊る羽の生えた女性が、少しずつそして確実に
 フェードアウトしていく
174LastSeen――:2001/05/29(火) 01:03
【歌詞部分 Start】
【スタッフロール&回想画像表示】
(知っている方もいらっしゃると思いますが、念のため歌詞全UP)

長い間悩んだ 寂しさと 人の心
短い詩を君に送るよ 胸に書いた言葉を

君が語りかけた 優しさに 気づかないでいたころ
もう一度戻れるなら 抱き締めて 笑ってあげたい

だから......
広げた手を青い空に 振りながらそっと涙をぬぐっている
そして巡り会えた君との日々
『いつまでもずっと 忘れないから』と笑顔で見送る


いくつかの悲しみと 優しさと 人の涙
くり返した想い出の中 皆(みんな)生きていたんだね

君が言いかけてた あのときの言葉が解らなくて
もう一度戻れるなら 抱きしめて 心にふれたい

きっと......
サヨナラから始まる日は そっと優しさに包まれて訪れる
君は 振り向かずに歩き始める
遠くない未来 きっとまた会える その後ろ姿に―――

広げた手を青い空に 振りながらそっと涙をぬぐっている
そして巡り会えた君との日々
いつもでもずっと(いつもでもずっと)
忘れずに行くから

175LastSeen――:2001/05/29(火) 01:03

Seen Last : 【Epiroge】
Seen Change【墓標の前で】

【Ending Song 終了後】

「ねぇパパ。ママはお空の上で元気にしているかな?」
 麻枝は麻衣の言葉に優しく微笑みかける。
「大丈夫だよ麻衣。だから麻衣はお母さんにいつも笑っていないとな」

「うん。麻衣、お空を見るときはいつも笑うよ。
 どんなに辛くても、どんなに悲しくても、お空を見るときはお母さんが
見てるんだから笑顔でいるんだ」

 麻枝は麻衣の頭を優しく撫でる。
 麻衣はそんな父――――麻枝准と空に向かって一生懸命微笑みかける。

「パパ、大好きだよ!」
 満面の笑顔を向ける麻衣を、麻枝はそっと、だが力強く抱き締めた。
 たった一つの幸せを噛みしめるように――――――


【Seen Change :BlackOut】

   2ch葉&鍵板Present's
   葉&鍵ロワイアル スタッフ編


   Fine


 この物語はフィクションです。
 ここに出てくる人物、社名、団体等は実在の物として存在する物も有りますが、全て
架空の物として扱っており、一切関係有りません。
 実際の個人、法人、団体等に対してここで書かれている内容に関して質問相談等を
されないで頂けますようお願いいたします。

【Seen Change :BlackOut】