「ようやくだ。ようやく、この悪夢も終わる……」
オフィスビルの一室で、有島は呟いた。
傍らには四つの死体、その中にはこのゲームの管理役、ナカムラもいた。
有島の突然の訪問にもナカムラは疑問を持つことはなかった。
正確には、持つことを許されていなかった。
鈴木の部下になるということは、自分を捨るということ。
絶対服従。
その四文字だけが、今の彼の全てだったのだ。
故に有島が自分に銃を向けた時も同じ、ただ目の前の光景を見つめ、受け入れて、逝った。
「生存者は……なっ! これは……」
有島はこれ以上続けることはできなかった。
機械を操作し、ディスプレイに生存者リストが表示され……。
(YETさん……久弥さん……)
そこに、彼等の名前はなかった。
彼の憧れのONE製作メンバー。
その中でもYET、久弥、麻枝に対する感情は特別だった。
シナリオライターとして、久弥と麻枝は彼の目標であり、そしてタクティクスに配属になった際に、YETには本当に世話になっていた。
(忘れるものか、ONEを全て終えた後の、あの感情を!)
(感動した? ふざけるな! そんな言葉で済まされるものじゃない!)
(茜の別れのシーン……あんなに美しいシーンを編み出せる人がいるなんて、俺は知らなかった)
(俺もいつか、この人達みたいな、いや、それ以上のライターになりたかった)
(第一歩に、まずは彼等と同じ職場で彼等の手助けをしたかったんだ)
(それなのに……それなのに……っ!)
「また俺は! 間に合わなかったのかっ!!」
736 :
続き:2001/04/03(火) 03:10
誰が死んでも、感情を表に出すことはなかった。
その程度の冷徹さは身に付けたつもりだった。
それに、これは充分に予想される事態であったのだ。
しかし、そんなものは現実の前には、紙より薄いものに過ぎなかった。
あるいは誰かが側にいたら、これほど取り乱すことはなかったかもしれない。
だが、ここには彼独り。
噛み締めた奥歯は砕け、握りしめた拳で何度も床を叩き、その手からは血が流れ出て……。
堅く閉じた瞳からは、それでも、とめどない涙が流れ続けた。
(ふざけるな……)
(ふざけるなっ……)
(ふざけるなっ……!!)
「もうこんなことはたくさんだ!!」
島内放送のスイッチを入れ、力の限り叫ぶ。
「聞いて下さい! 皆さんはもう、殺しあう必要はありません!」