葉鍵ロワイヤル!

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 口火を切ったのは陣内だった。
「そもそもアジアの中で近親婚なぞ堂々とブチ挙げていたのは日本だけだ! 近親婚でフィーバーしてるなんて日本しかねえんだよ。霊長類のトップに立つモンがインブリードだなんてちゃんちゃらおかしいわ。妄想の中の妹相手に『夜明けのハットトリックぅ〜ん』などと叫んでる妹スキーなぞ、『ヒーッお化けだよ〜!』とか指さされて駐在呼ばれるのがオチだろうが」

「貴様は肉欲しか頭の中にないのか陣内。お前の辞書にプラトニックやメンタルなんて単語は存在しないんだな。もういいわかった。いいだろう、今から俺がお前の蒙を啓いてやるわ」

 ロベスピエールにでもなったつもりか? ひらけるもんならひらいてみやがれ。陣内はこれ以上ないくらい不敵な表情をして閂をにらんだ。

「小動物やらの目が身体のサイズに比して大きいのはなぜだかわかるか? あれは外敵に対して物理的な反撃手段を持ってねえから、無力なかわいらしさをアピールして、私はあなたに害を加えませんよということをアピールして、相手の敵愾心をそいで攻撃させないようにしてんだよ。妹だってそうだ。これは別に理屈じゃねえんだ。小動物のようにちょろちょろ自分の周りを回ってる妹を見てどう思う? そこにあるのは完璧なイノセントだ。全面にイノセントとピュアを押し出した存在を目の当たりにした瞬間に人間は動物だった頃の本能に立ち返るんだよ! いや、妹と兄という一種の背徳的な要素を含んでさらに一層本能に訴えるんだ。無論これは性欲じゃねぇ、貴様と一緒にするなよ陣内。相手の無力さと純粋さ、そして後ろめたさはそのまま俺達の庇護欲をかき立てて作用させるんだよ。いいか、陣内。俺達はただ守りたいんだ。彼女たちを守れればそれでいいんだよ! 「お兄ちゃん、大好き!」ってのは二の次だ。そんなとってつけたような報酬なんぞはどこぞの誰かにくれてやるさ」

「ヤキが回ったな閂、なにが小動物だ、何がピュアだイノセントだ。小動物を隠れ蓑に自己正当化をはかるたぁ、ほんっとに見下げたヤツだ。小動物への保護欲と妹への庇護欲を同一視する時点で貴様の負けだ。そんな詭弁を縦に横にするようなヤツに限って一番危険なんだ。俺はイヤと言うほどそういう奴らに出会ってきたからよく分かってるさ。俺にはよく分かってる、そんな空論をべらべらべらべら垂れ流してるお前が実は頭の中で『アイスノンと聴診器とクスコー持って我が家へ全員集合だ! おじちゃんをすみからすみまでジローリジローリ診察してくだちゃいバブー。』とか考えてヘラヘラしてることくらいお見通しだ。ああ、それにしても貴様の口からプラトニックやらメンタルなんて言葉をきかされるとはな! 今日は記念に残る日だな。この陣内主税、来年からこの日は一日中耳をふさいで過ごす日と決めて生きてやるわ」

「俺達は伊達や酔狂で妹萌えとかいってるんじゃねぇぇぇぇぇんだよ! あらゆる犠牲を払ってでも手に入れる価値があると、俺達は心の底から信じているんだ。 陣内、お前のような全ての物事を下半身と直結させて世界を考えるようなヤツには到底たどり着けない世界に俺達ゃいるんだ!」

「今更そんなことが信じられるか。閂、お前は千年以上前を引きずったオールドタイプだ。太古を懐かしんでるだけの道化だ。道化は一生重力に魂を引かれて地上をはいずり回ってろ。貴様ではシャアに勝てん! どいつもこいつもひなた荘で溺れ死ね!」
 きゃっほーい、ひなた荘ばんじゃーい、とよく訳の分からない事を言って陣内はラブひな片手にぴょんぴょん跳ね回りだした。