捏造SSその7 愛する二人に言葉は要らない
今日、俺は今の今まで秘めた想いを彼女にぶつけようとしていた。
初音ちゃん。
彼女の名前である。
俺の親父は初音ちゃん達の父親代わりをしていた。
正式に父親としての籍を入れたかどうかは知らない。
だが、俺は初音ちゃんを『可愛い妹』と思っている。
初音ちゃんも俺のことを『優しいお兄ちゃん』と思ってくれている。
半ば、兄妹のような関係だといっても差し支えないだろう。
いや、違う。
『半ば』などではない。『兄妹のような』などでもない。
俺たちは『兄妹』なのだ。
勿論、『兄妹』であるがゆえに付き纏うしがらみも存在する。
『兄妹間で結婚は出来ない』という原則である。
しかし、その原則も俺と初音ちゃんの関係を阻むものではない。
戸籍上では異なる両親から生まれた『従兄妹同士』なのだから。
俺の親父を媒介にした『兄妹』という関係。
戸籍が示す『従兄妹』という関係。
はっきり言って、かなり奇妙な関係。
そんな事を考えながら、俺は初音ちゃんの部屋の前に立った。
大きく息を吸い、ドアをノックする。
「どうぞ〜」
可愛い声が俺を出迎える。
俺は初音ちゃんの部屋へ入った。
「あ、耕一お兄ちゃん」
初音ちゃんが笑顔で俺を出迎えてくれる。
俺の告白が終った後、初音ちゃんの笑顔は俺だけのものになるのだ。
「お兄ちゃん、どうかしたの? 真面目な顔をして」
「初音ちゃん」
皆まで言わさず、俺は初音ちゃんに話し掛けた。
「結婚しよう」
「えっ?」
鳩が豆鉄砲を喰らった表情とは、まさに今の初音ちゃんの表情をいうのだろう。
「だから・・・結婚しよう」
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん」
目の前の耕一お兄ちゃん・・・何か変。
いきなり『結婚しよう』って言い出すなんて・・・。
いつものイタズラかな?
う、うん。きっとそうだよ。
お兄ちゃん、時々子供っぽくなることがあるし。
「で、でも、わたし、まだ高校生だし。それにお姉ちゃん達の気持ちだって・・・」
「初音ちゃんは15歳だから、確かに今結婚できない。でも、同棲できるじゃないか」
「そんなの無理だよぉ・・・お兄ちゃん・・・」
「初音ちゃん・・・俺のこと、嫌い?」
「・・・ううん。お兄ちゃんのこと、大好きだよ」
「じゃあ、結婚しよう」
「・・・でもぉ、無理だよぅ」
「ううっ、初音ちゃんには俺とは結婚したくないんだぁ〜」
「ち、違うよ。わたし、お兄ちゃんと結婚したいよ。でも、今はだめだよぅ」
もう一押しだ。
初音ちゃんは押しに弱いということは以前から知っていたが、ここまでだとは思わなかった。
よし、こっちもちょっと妥協しよう。
「じゃあ、初音ちゃん」
「・・・」
「俺が初音ちゃんと子供を食べさせられるようになり、初音ちゃんが大人になったら結婚してくれる?」
「・・・」
「ううっ。やっぱだめなんだぁ〜」
「・・・いいよ・・・」
「えっ!?」
「耕一お兄ちゃんとなら、結婚したい・・・」
「本当?」
「・・・うん。でも、もうちょっと先になるけど・・・待っててね・・・」
そこまで聞き、俺は我慢できなくなり、吹き出してしまった。
「うぷぷっ。は、初音ちゃん。今日は何の日か知ってる?」
「えっ?」
「きょ、今日は4月1日。エイプリルフールだよ」
「えっ? えっ?」
「今までのは全部冗談だよ」
「・・・嫌い・・・」
「は、初音ちゃん」
「耕一お兄ちゃんのこと、大っ嫌いっ!」
初音ちゃんは黙りこくってしまった。
あああ、やり過ぎちゃったよ。
俺の悪い癖だ。いつも初音ちゃんをいぢめ過ぎちゃうんだよな・・・。
・・・可愛いから・・・。
「初音ちゃん・・・」
俺は立ったまま俯いている初音ちゃんをそっと抱き寄せた。
「ごめんよ・・・」
部屋の絨毯の上に、ぽつり、ぽつりと涙が落ちている。
俺は、心底自分の軽率さを恥じた。
「ううん・・・」
「本当にゴメン。俺、初音ちゃんが可愛いからついつい苛めたくなっちゃうんだ」
初音ちゃんはごしごしと涙を拭き、言った
「わたしも、お兄ちゃんのことが嫌いだなんて・・・ウソだよ」
「ホント?」
「うんっ!」
初音ちゃんは赤い目で、しかし笑顔で返事をしてくれる。
そして一言。
「じゃあ、耕一お兄ちゃん、いつかわたしと結婚してくれる?」
「またまたぁ〜。初音ちゃんはウソがへたっぴなんだから」
「ウソじゃないよっ! ホントだよっ!」
〜おしまい〜