葉鍵板2・14事件#7

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138名無しさんだよもん
Flaming juneより転載

 8/22(土)

事件は昼食時に起きた。
「ピザを食おうぜ」
その一言が後にあのような大惨事を引き起こすことになろうとは、
誰一人予想しえなかったことである。

久弥と折戸の二名が○ォルクスに出かけてしまうと、
開発室には樋上いたる、ミラクル☆みきぽん、
しのりの女性陣と男のオレの4名が残ることになる。
オレの前述した一言がきっかけとなり、
そのメンツでピザを注文することになった。
「もしもし、ピザの注文よろしいですか?ビックリージャンボ二枚お願いします」
手際よく注文を済ませ、待つこと数十分。
ほどよく到着したピザの箱を受け取ると、オレは嬉々として蓋を開く。
そして…
「ぬぐぉ…」
絶句。
「……デカい」
届けられたピザ、一枚がものすごいデカさなのである。
知らない人間が入ってきたら、座布団と間違えて
思わず座ってしまいそうなほどである。
「食い物か…コレが…」
一気に食う気が失せるほどである。
「異様でしゅね…」
「まさしく、ビックリージャンボ…」
男4人ならまだしも、オレ以外は女…つまり一枚は
女性陣二名で食いきらなくてはならない。
1枚12ピースに分かれているので、数で言うとひとり6ピースでいいのだが、
その1ピースだってとてつもなくデカい。
知らない人間が入ってきたら、土産物屋の
ペナントと間違えて思わず壁に飾ってしまいそうなほどである。
しかしここで意気消沈していても何も始まらない。
オレたちはその攻略にとりかかった。
だが実際食べてみると、
「う、うまい…」
うまいのだ。
勢いよく二枚ほど平らげても平気である。
オレが景気良く四枚ほど片づけた時点で、皆を振り向き見る。
「………」
「………」
「………」
誰もが無言で口を動かし続けていた。
「なんだ?こんなに美味しいのに、なに暗い顔して食ってんだよ」
そして五枚めに取りかかると、
「………」
オレも無言になった。
139名無しさんだよもん:2001/02/19(月) 20:17
苦しい時間は続き、オレたちは倦怠期を迎えた夫婦のようになってしまった。
「払った1000円分は取り戻すでしゅ……ぐぼっ」
「やめとけ、みきぽん…」
「誰よ、こんなザブトンみたいなの二枚も頼んだのっ!」
「しのりだ」
「おまえだっ!」
「二度とピザ食いたくなくなりそうじゃのう…」
「誰だ、おまえは」
「1000円分…」
「残り何枚…?」
その声に数えてみると、残るは8枚。
「………」
「…無理だ」
皆が限界に達しているこの状況で、未だなお残されたノルマ、
ひとり2枚はどう前向きに考えても達成不可能だった。
しかしそんな窮地へ、神は天使を使わせたのだ。
がちゃ。
「戻ってきたで〜」
「うー、腹一杯や〜」
そう、○ォルクスで昼食をとってきた久弥、折戸両名である。
「仕事するで〜」
「うー、腹一杯や〜」
しこたま食ってきたらしく、満足げにオレたちの脇を抜けて席に戻っていった。
ピザに目を戻すと、8枚のままである。
あたりまえだ。横を通りかかっただけで
減ってゆくピザなどこの世には存在しない。
というわけで、ばッ!と皆一斉に久弥、折戸両名を振り返ると、
「食え、おまえらっ!」
有無を言わさずピザをその口に突っ込んで、力尽くで天使にしてやる。

そこからはまさしく決死行。
自殺行為でオレと久弥は2枚づつ、残りのメンバーが
各1枚づつという最後の戦いに突入した。
「みんながんばれ…!」
互いを励まし合うオレたち。えてして友情とは
こういう状況において深まるものである。
そしてひとりが食べ終わるたび、誰ともなしに拍手が漏れる。
だがオレ自身、己のノルマをこなした時点でぶっ倒れてしまい、
完食の瞬間にどのような歓喜が巻き起こったか、見届けることはできなかった。
だが次目覚めたとき、床に転がる無数の四肢と、
空になったピザの箱を確認して、オレはひとり虚しくも
勝利を噛みしめたのだった。
後に久弥はこの事件をこう振り返る。

「ピザごときに開発室が壊滅状態に追い込まれるとは思いもしなかった」

以上が『ピザで開発室壊滅事件』の顛末である。
140名無しさんだよもん:2001/02/19(月) 20:18
 8/26(水)


事件は終業寸前の夕刻に起きた。
まさか、あのようなモノがあのような惨事を招くとは、
誰しも予想しえなかったことである。

開発室のマシンはすべてLANで繋がっており、
データを媒体を使うことなく受け渡しすることができる。
パソコンを扱うオフィスにおいては欠かせない環境である。
そしてこの日、ウチのグラフィッカーである しのり が
自らの領域の一部をフルアクセスで共有化した。
すると開発室内のマシンすべてからのアクセスが可能となり、
その領域に関しては書き換えや削除、なんでもやり放題となる。
いわば、ハックが可能な状況が生まれたのだ。
しのり は、ある素材を久弥直樹から受け取るために共有化を行ったのだが、
その過程で戸惑っている隙をついてオレは、ハックをしかける。
内容はいたって簡単かつ、効果的だ。
ウンコ101
ウンコ102
ウンコ103…
という名前を持った、のべ100個のフォルダ(通称ウンコフォルダ)を
作成し、それを しのり の共有フォルダに一気にコピーしてやる。
すると作業中のしのりのマシン上では一気に、
以下のような怒濤のフォルダ群が展開される。
ウンコ101 ウンコ111 ウンコ121 ウンコ131 ウンコ141 ウンコ151 ウンコ161 ウンコ171 ウンコ181 ウンコ191
ウンコ102 ウンコ112 ウンコ122 ウンコ132 ウンコ142 ウンコ152 ウンコ162 ウンコ172 ウンコ182 ウンコ192
ウンコ103 ウンコ113 ウンコ123 ウンコ133 ウンコ143 ウンコ153 ウンコ163 ウンコ173 ウンコ183 ウンコ193
ウンコ104 ウンコ114 ウンコ124 ウンコ134 ウンコ144 ウンコ154 ウンコ164 ウンコ174 ウンコ184 ウンコ194
ウンコ105 ウンコ115 ウンコ125 ウンコ135 ウンコ145 ウンコ155 ウンコ165 ウンコ175 ウンコ185 ウンコ195
ウンコ106 ウンコ116 ウンコ126 ウンコ136 ウンコ146 ウンコ156 ウンコ166 ウンコ176 ウンコ186 ウンコ196
ウンコ107 ウンコ117 ウンコ127 ウンコ137 ウンコ147 ウンコ157 ウンコ167 ウンコ177 ウンコ187 ウンコ197
ウンコ108 ウンコ118 ウンコ128 ウンコ138 ウンコ148 ウンコ158 ウンコ168 ウンコ178 ウンコ188 ウンコ198
ウンコ109 ウンコ119 ウンコ129 ウンコ139 ウンコ149 ウンコ159 ウンコ169 ウンコ179 ウンコ189 ウンコ199
ウンコ110 ウンコ120 ウンコ130 ウンコ140 ウンコ150 ウンコ160 ウンコ170 ウンコ180 ウンコ190 ウンコ200…
141名無しさんだよもん:2001/02/19(月) 20:19
「どあーーーーッッ!!」
案の定、羞恥に崩れ落ちる しのり の声。
これで、このネット社会における見えざる敵の恐ろしさを身をもって…
ぼかッ!!
「なにさらすんじゃいッ!」
「ぐあッ、なぜバレた!?」
ちなみにウンコネタはオレの十八番である。
見え見えの敵だったらしい。
と、ここまでは牧歌的な開発のワンシーンであるが、
実際の事件はここからである。
そこから、久弥直樹、ミラクル☆みきぽんも加わって、
しのり の共有フォルダをハックしまくる。
「うらうら〜!」
「はきゅはきゅ〜ッ!」
コピー&ペーストを使い、ウンコフォルダを雪だるま式に増殖させ遊ぶ。
今や しのり のマシン上では、どのウンコフォルダがどれだけの
階層に至っているかさえ定かではなくなってしまっていた。
「ぬお〜ッ、削除がおっつかーん!」
悲鳴をあげる しのり。
だが、その悲鳴が真のモノに変わる。
「うがーーーッ!!」
「あん?どうした」
「なんか削除できへんねんけど…」
「んなわけあるか」
「削除しようとするとエラーでるねんけど…」
そう。調子にのって階層をどんどんと掘り下げてゆくうちに、
パスが長くなりすぎて、WINDOWS上からは
削除不能の状態に陥ってしまったのだ。
このまま放っておくと、しのり のマシンには半永久的に深い階層を
持ったウンコフォルダが蔓延ることになる。
「そんなん、ヤじゃ〜っっ!!」
冗談では済まなくなり、オレたちは必死で しのり の共有フォルダの
削除にかかった。
だが、どうしても消せないのである。
「…駄目だな。どうしてもウンコ126で引っかかる…」
「ウンコ127は?」
「無理だ。消そうとしても、ウンコ126でエラーがでる」
「ウンコ126のファイル名を変えても無駄か…?」
「階層の深さだからな。ウンコ126自体が問題だというわけではない…」
当の本人たちは真剣なのだが、なぜだか引き締まらない会話である。
「となれば、DOSから消すしかないな…」
しかしここにも落とし穴があった。
DOSモードからだと、フォルダはひとつづつしか削除できないのである。
その作業に久弥直樹があたることになったが…
142名無しさんだよもん:2001/02/19(月) 20:19
「コピーウンコ100削除完了…
 コピーウンコ101削除完了…
 コピーウンコ102削除完了…
 コピーウンコ103削除完了…
 コピーウンコ104削除完了…
 コピーウンコ105削除完了…
 …ぐあーっ!やってられっかあぁぁーッッ!!」
5分と保たず、発狂してしまう。
「無理だ、しのり。諦めてこのウンコたちと一生付き合ってくれ」
「ヤじゃーっ!」
しかも、さらに事態は悪化の様相を見せる。
再起動をかけた、しのり のマシンのハードディスクが
異様な音を立て始めたのだ。
「なんだ、この音は…」
「しかも立ちあがないぞ…」
再び再起動をかけると、セーフモードで立ち上がる。
「システムの致命的損壊かも…」
「冗談よせよ…」
オレたちは真剣に焦った。
後悔するにも、原因がウンコフォルダの大量生産だというのが
あまりに情けない。
データのバックアップをとった後、再起動をかけると
何事もなかったように しのり のマシンは復活してみせたが、
今後どのような形でウンコフォルダの残した傷跡がその姿を
見せるかはわからない。
そしてオレたちは軽はずみな行動で招いた今回の事態を
言及するだけの余力さえ残っておらず、うなだれるばかりであった。
後に しのり はこの事件をこう振り返る。

「まさかウンコに一台のマシンが損壊寸前にまで追い込まれるとは思いもしなかった」

以上が『ウンコでマシン損壊寸前事件』の顛末である。
143名無しさんだよもん:2001/02/19(月) 20:21
 9/6(日)

かのん?
9月最初の日記なんだが…もう6日ですか、そうですか。
しかし休みなのはいいけど、仕事進めないとヤバい状況なんで、
これ書いたらとっとと仕事に戻るぜ。
というわけで、今回は仕事上のちょっとしたこぼれ話をひとつ。
(←強引ですか)
シナリオライターと肩書きはあっても、
シナリオ以外にもいろいろと書かなければいけないものがある。
そのひとつが、流通や各雑誌社用にしたためる新作通知なるものである。
ようは、「今度はこんなゲームを作りますよーっ」という報告である。
それには決まってPR文というものが付き物で、これ端的に、
これキャッチーにとセールスポイントを謳うのだが、
なんつーか、とても特異な才能を必要とするのだ。
普段のシナリオ書きが”全身の筋肉を使う重労働”とするなら、
このPR文の作成は”耳の筋肉を使う軽作業”といったところだ。
普段使わない、またはまったく機能もしそうもない思考回路を使って
作成するという感じなのだ。
具体的に言うと、書いていて「ひゃぁ、こりゃないだろぅっ!」と
照れてしまいそうにクサイ文章が求められる。
シンクロナイズドスイミング選手の顔を間近で見ると、
「そりゃないだろぅっ!」というほど厚化粧であったりするのによく似ている。
つまり大仰なインパクトでちょうど遠目にはいいぐらいであるのだ。
だから、冷静になって読み返してみると、「よぅ書いたわ、こんなこと…」と
いう恥ずかしさ爆発なものが多い。
さて今手元には、某1ゲームの開発時にしたためた新作通知のPR文、
そのプロット版がある。
今回は、そのPR文の一部をちょっと紹介してみようと思う。
144名無しさんだよもん:2001/02/19(月) 20:21
まずは、樋上いたるが生み出す魅力溢れるキャラクターたちを
プッシュする一文。

 【とにかく登場する女の子たちがかわいい!】
   個性的な性格を反映したキャラクターたちはどれも可愛く、
恋愛対象としては向かうところ敵なし!

「向かうところ敵なし!」の辺りが鼻血が出そうなほど恥ずかしい。
次は、そのキャラクター設定を推す文だ。

 【個性溢れるキャラクターたち!】
   そのヴィジュアルを追随するが如く、個性的なキャラクター設定。
   その個性はディスプレイには収まりきれないほど。
鮮烈なインパクトで強烈にアピール!
145名無しさんだよもん:2001/02/19(月) 20:22
ディスプレイには収まりきれないほど…ものスゴイ表現である。
その後に続く、「鮮烈なインパクトで強烈にアピール!」も、
今、台所の辺りまで転げてしまったほどだ。
おまえ自身が鮮烈で強烈である。
しかも、キャラクターは個性的な性格を反映していて、
キャラ設定はヴィジュアルを追随しているのならば、
じゃあ一体どちらが先に決まったんだ?、との疑問も湧くが、
そんな矛盾もお構いなしのパワーがある。
とにもかくにも、リズムとインパクト勝負なのだ。
さて、次は折戸氏の奏であげる音楽をプッシュする一文。

 【感動を演出するBGM!】
   業界屈指と謳われる音楽スタッフは健在。
   今回も魅せてくれます。聴かせてくれます。

マジなところが恐ろしいところである。
さて、今の一文で当時のオレが調子に乗ってしまったことが、
続く次のPRにて痛いほどわかる。
企画当時に存在した、プレイ時間を前もって
選択できる画期的システムを推す一文である。
146名無しさんだよもん:2001/02/19(月) 20:23
 【より進化した快適システム!】
   幅広いユーザー層に対応。
   それぞれのプレイスタイルに合わせ、
プレイ時間をカスタマイズ。これイカス、ナイス!

痛い。痛すぎる。
”カスタマイズ”と、”イカス、ナイス!”のダブル死語を
韻で引っかけているのだが、なんていうか、誰か止めるべきである。

とまあ、企画者のちょっとした苦労がわかって頂けただろうか?
よっぽどシナリオを書いていたほうがラクだ、というのはよく聞く弁である。
さらに、初めて企画を担当したゲームにおける広告売り文句も手元にある。
当時のオレの限度を逸したバカさ加減が
晒されることになるので気が引けるのだが、勇気を持ってここに公開しよう。

 *『みる、聴く、ヤル』の三段つるべ落とし!
   <みる>…贅沢に挿入されたアニメーション!
全編アニメかと錯覚する充実量ですっ!
   <聴く>…喋りまくりのフルボイス!喋っていない隙間を
探すのが大変ですっ!
   <ヤル>…前作を踏襲したお手軽内容!
でも内容は前作を空襲しますっ!

こんなものを提出された時点で、社長はそいつをクビにすべきである。
147名無しさんだよもん:2001/02/19(月) 20:24
12/14(月)

朝、遅刻ギリギリ寸前で開発室になだれ込むように駆け込み、
一息ついていると、原画担当の樋上いたる嬢が唐突に、オレに向けて言う。
「今からカニ食べよに」
「はい?」
「カニ」
「はい?」
「カニ」
「カビ…?」
カビならば、手近なところを探せばあるだろうが、
まさかそんなものを朝っぱらから手で剥いで、
もさもさとみんなで食すなんて行為に彼女が誘うとは考えにくい。
「カニ」
やっぱり「カニ」で合っているようだ。
「茹でたの持ってきてるんよ。まだ温かいよ」
と言って、持っていた包みをとくと、我らが会議用テーブル兼食卓に、
輝かしいばかりの大きさを誇るカニが現れる。
「どへ〜」
「カニだっ、カニがウチらの開発室に来てくださったーッ!」
皆で寄り合って、つついたり、襲われた真似をしたりして、
その神々しさにしばし酔いしれる。
話によると、いたる嬢の知り合いの方から、皆でどうぞ、と受け取ったらしい。
(ありがとうございました。皆で美味しく頂きましたm(_ _)m)
女の子たちが率先して、足をもぎ取り、それを皆で頂く。
148名無しさんだよもん:2001/02/19(月) 20:24
「うまいーッ!」
「100%カニだぞッ!カニじゃない部分がないッ!」
「当たり前だ、アホッ」
「ほんと、美味しいねーっ」
「見ろ!今オレはカニを食っている!」
「みんな食ってるわい」
と、大騒ぎしながら平らげてゆく。
その足を片づけてしまうと、残るは胴の部分となる。
だが胴となれば、当然中には内蔵やら、
わけわかんない気管が沢山詰まっている。
しかし、女性のほうが血を見るのに強い、
とはよくいったもので、そういう方面には概ね冷静なようである。
ためらいもなく、女の子たちがその残った胴の部分をバリバリと解体にかかる。
見ていると、
「キャーーッ!なんか出てきた〜ッ!でも食べてみよう…」
とか、
「ヘンなもの垂れてきた〜ッ!でもウマイかも…」
とか、
「ブツブツしてる〜、キショーーイッ!でもデリシャス…」
とか、中途半端に女の子らしい悲鳴をあげながら、
わっしわっしと隅から隅まで食い尽くしてゆく。
その間、男性陣は、
「キャーーッ!」
とわめいていただけである。

なんともはや、女性とは逞しいものである。
海で一緒に遭難だけはしたくないなぁ、と切に思うばかりだった。
149名無しさんだよもん:2001/02/19(月) 20:25
Flaming juneより転載


 3/22 『 リカちゃん決死行 』

そのときのオレは疲れていた。
ずっと仕事尽くめで、他にはなんにもしていないような状況が
続いていたからだ。
普通ならば、そういうとき人は、種族保存の原始的欲求、
すなわち性的欲求が擡げるのだそうだ。
だがオレの中に擡げた欲求は、妙なことにやけに具体的で、
且つなんの脈略もないもので、
「無性にスーパードールリカちゃんを見たいよぅ!」
という特殊なものだった。(ちなみにスーパードールリカちゃんとは、
現在テレビ東京系列で放映中の、どう見てもお子さま向けのアニメである)
いや、脈略がないことはなく、火曜になると決まって、
「今日はリカちゃんの日だよっ!」
という放映を予告するCMを見ていたためだろう。
「そうか…今日はリカちゃんの日なのか。でも、6時は会社だなぁ…」
以下、幾週もの間、訴えを続けられるも俺は見過ごしてきたのである。

「今日はリカちゃんの日だよっ!」
「悪い、6時には戻ってこれんのだ」

「今日はリカちゃんの日だよっ!」
「明日でも無理なのだ」

「今日はリカちゃんの日だよっ!」
「社会人なのだよ、おにーさんは」

「今日はリカちゃんの日だよっ!」
「わかっとるわぃっ! 無理だっつーとるだろがっ!」

「今日はリカちゃんの日だよっ!」
「じゃあ、リカちゃんの日を『リカちゃんの日』という祝日に
制定してくれいっ! そうすりゃ見てやるわいっ!」

と、気の狂うような問答を続けていたのである。
150名無しさんだよもん:2001/02/19(月) 20:26
ビデオで録画すればいいのでは?と疑問に思った貴方はするどい。
だが、俺は、
「一番苦手なものはなんですか?」
と聞かれれば、
「ゴキブリ」
と答え、
「二番目に苦手なものはなんですか?」
と聞かれれば、
「ビデオのチャンネル設定」
と答えるほどビデオのチャンネル設定が嫌いなので、
部屋にある二台のビデオデッキはどちらもテレビを録画できる状態にないのだ。
そんな状況の中、仕事に疲れてしまったものだから、天使のほほえみの如く、
「今日はリカちゃんの日だよっ!」
というワードが愛娘からのおねだりのように耳にりんと甘く響き、
強迫観念となって、
「見ねば…『スーパードールリカちゃん』をぉぉぅっ!」
と、俺を駆り立ててしまったのだろう。
151名無しさんだよもん:2001/02/19(月) 20:26
というような事情から、オレは、ビデオ版の『スーパードールリカちゃん』を
購入することを拳を堅くして決意したのだ。
だがご存じの通り、『スーパードールリカちゃん』は、
とてもじゃないが俺のような大の大人が買い求めては
ならないような代物である。
なんつーか、アレを買い求めることは、
「一般人失格です」
というレッテルを張られるも等しい行為なのである。
あの一品を持って、レジに向かうことは、
「はい、オレやばい客ですから、今後注意してくださいね」
とレジの店員に自ら注意を促すようなものなのである。
しかも、それを鞄に入れたまま交通事故に遭って死ぬ、ということは、
「はい、オレこんなクズな人間ですから、このまま腐らせておいてくださいね」
と、死体の埋葬まで丁重にお断りするような行為なのである。
店先でそのブツを仔細に眺めてみるも、その全身から、
「ご注意!成人男性が買ってはいけませんッ!」
と訴えかけているような、あられもないピンク色の
幼児向けの装丁なのである。
取り付けてある防犯用の警報装置を見ても、
それがまるで、オレのような人間に対して、ブー!!ブー!!と反応し、
「コレ持ってるのヤバい人デス!コレ持ってるのヤバい人デス!」
とたちまち大音量で警告するような、ヤバイ人用の警報装置に見えてしまう。
そんな想像を逞しくするたびオレは冷や汗で背中をビッショリと濡らし、
何も買わずにその場を立ち去るのだった。
152ズパン三世:2001/02/19(月) 20:26
ズンとパンの多い勝ち!!
153名無しさんだよもん:2001/02/19(月) 20:26
「今日はリカちゃんの日だよっ!」
逃げ帰ってきた自分が情けなくて、ひとり真っ暗な部屋でCMを見るたび、
オレは暗澹な気分となった。
「ったく…オレって奴は…。
 ビデオさえ手に入れば、火曜日どころか、毎日がリカちゃんの日だぜ…」
煙草の煙を燻らせながら、そう呟く。
どこかで一般人でいたい、いい子ぶった自分が居た。
それを振り払わなければ、今回の件は片づかなかった。

その日は朝から寒く、オレの常識で固められた思考力を鈍らせるには、
適した日よりだった。
買うなら今日しかない。
決心しての、出社だった。
その決心が弛まぬよう、一心不乱に仕事に打ち込み、
気付けば、あっという間に終業時間だった。
「いくか…」
オレはショップへと向かった。
154名無しさんだよもん:2001/02/19(月) 20:27
そこにはいつものように『スーパードールリカちゃん』が陳列されていた。
数も減ることなく、今から考えてみれば、
それはオレを待っていてくれたのかもしれない。
だが閉店間際のこの時間はレジが混み合う。
オレはレジのほうをギロギロと万引き少年のように睨み、機を伺った。
やがてレジに並ぶ客がひとりとなった。
「チャーーーンスッ!」
オレはわっしと獲物を掴み取ると、シュタシュタッ!と
レジの前へと瞬間移動を果たした。
前に居た客が精算を終えた直後、オレはレジのカウンターに、
すかさず例のブツを置いた。
だが、そこでレジの店員が「あれ?」という顔をした。
カウンターの上に千円札が一枚、残っていたのだ。
店員はその千円札が、精算のうちに入っていたものなのか、
それとも余分なものであったのかを確かめるため、
精算を終えたはずの客を呼び止めた。オレの目の前である。
しかも、オレの背後にはぞろぞろと客が並びだしているではないか。
「ピーーーーンチッ!」
オレは究極に焦った。オレの買い求めようとしている
『スーパードールリカちゃん』は、
「スーパードールリカちゃんです…」
と心細いばかりに縮こまって、レジのカウンターでさらし者となっていた。
155名無しさんだよもん:2001/02/19(月) 20:28
今更その商品を引くわけにもいかず、オレはただ冷や汗をかきながら、
不肖の我が子のように見守るしかなかった。
にも関わらず、一向に千円札の正当な持ち主はわからないようで、
レジに並ぶ客がざわめき始めていた。
だがそれは、精算皿に残っていた千円札に対して、
「誰のなんだ!?誰のなんだ!?」
と顔を見合わせているのか、レジのカウンターに載る
『スーパードールリカちゃん』のビデオを見て、
「誰のなんだ!?誰のなんだ!?」
と顔を見合わせているのか、よくわかんない状況であった。
見まがうことなく、次のレジ待ちをしているオレのである。
みんな静まっておくれ。

こうして苦難を乗り越え、ビデオを手に入れたはいいが、今は、
「無性にスーパードールリカちゃんの音楽が聞きたいよぅ!」
となってるので、近いウチに音楽CDを買うため、
再び果敢に立ち上がるかもしれない。
でももう、疲れたので、泣き寝入りしたい気分でもある。
オッサンは辛いぜ。