162さん、どうもありがとうございます。
設定に難があると思っていたのですが…。
ぴんぽーん。
「はいはーい…おう、詠美…って、お前傘はどーしたんだよっ!?」
「…出たとき降ってなかったから、だいじょおぶって思ってたんだけど…
間に合わなくって…それで…」
今日の詠美は和樹の部屋で作業…の予定だったのですが、途中で雨に
降られてびしょ濡れです。しかも南下してきた寒気でみぞれ混じりのため、
かわいそうにあごまで震えています。憤慨する気力もありません。
「ば、ばかだなぁ、身体も震えてるじゃねえか…と、とにかくシャワー使え!
タオルとシャツぐらいは貸すから…このままだと風邪ひくぞ!」
「へ、へいき…ダウンジャケットはこうだけど、身体まで濡れてないし…
頭だけ拭きたいから、タオルだけ貸して…」
「そんな強がり言ってんじゃねーよ!お湯はすぐに出るから、シャワーで
身体を暖めろ!!」
「わ、わっ、ちょ、引っ張んないでよ!痛い〜!!」
「ふみゅう…お、男の人の…か、かずきんちの、おふろ…」
生まれたての姿となった詠美は、後ろ手で浴室のドアを閉めてからそう
ひとりごちました。
自分の家の浴室よりずっと狭くて、見慣れないシャンプーがあって、
それらと一緒に掃除道具が並んでいて…まさに和樹の一人暮らしの匂いを
感じて、詠美の胸はいつになくドキドキ。
…でも…ホントに優しいな、かずきって…
普段は絶対見せない柔らかな表情になって、カランをひねった瞬間…
しゃわーっ…!!
「ひゃああっ!!あっ、熱っ!熱いっ!た、たすけてえっ…!!」
「詠美っ!?おい、どうした詠美っ!!いいか、開けるぞ!?」
「か、かずきっ!!シャワーからお湯が…あ、や、やだ、見ないでえっ!」
悲鳴を聞きつけて浴室のドアを開けた和樹が見たものは、蛇口とシャワー
併用カランをひねり間違え、空っぽの浴槽に避難して縮こまっている詠美の
姿でした。その様子はまるで、雨に濡れて怯える捨て猫そのものです。
おまけに取り乱し、狼狽えきっているものだからなおのこと。
「ったく…おい詠美、火傷しなかったか?」
大急ぎでカランを締め、浴室を飛び出てから和樹はそう尋ねました。それ
でも、浴槽で縮こまったままの詠美は涙目で狼狽えるばかりです。
「あ、あんた、見たでしょお!あ、あたしのはだかぁっ…!」
「火傷してねーかって聞いてんだよっ!!」
「ひっ…!し、してない…」
和樹に厳しい口調でそう聞かれ、詠美はようやく落ち着きを取り戻します。
「…だったらいい。早く暖まってきな。ココア作っとくから。」
「こ、ココアなんて、れでぃの飲むものじゃない…いつも言ってる…」
「ええい、わかったわかった!ホットチョコ…作っとくから。」
「うん…」
照れ隠しのわがままにも、わざわざ言い直してくれる和樹に詠美は
しおらしく応じます。
その飲み物は、詠美がここに来るたびに作ってもらえる最高に温かい
飲み物。心の中で『美味しい』を繰り返してきた、詠美の大好物。
…したぼくのくせに…なんでこんなに優しいのようっ…
たまらない胸のせつなさで、詠美は大きな溜息をひとつ。
空っぽの浴槽に浸かりながらも、うつむいた詠美の頬はのぼせたように
火照っているのでした。
妄想過剰ぎみsage