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122ONEの同人誌を作ろう!
 今月のこみパもつつがなく終了。ブースを片づける俺に向かって、手伝いもしない大志
が尋ねてきた。
「お務めご苦労まいふれんど! して、次のジャンルは何にする?」
「ああ、ONEにしようかと思って」
「…まい同志、時代は既にAIRだぞ。同人界を制覇せんとする者が時流も読めぬとは
なんと情けない…」(ハァ)
「うるさいな、俺は昨日クリアしたんだよっ」
 この系統には疎かった俺だが、やってみると結構面白かった。こみパで一ジャンル築く
だけのことはあるな。
 ちなみに勧めてくれたのは意外にも玲子ちゃんだ。理由は全キャラをクリアしてよーく
分かったが。
「にゃはは〜☆ せんどークン、ONE本出すんだ〜」
 と、噂をすれば私服に着替えた玲子ちゃんが顔を出す。
「んじゃリクエストがあるんだけどぉ」
「いや、もう分かってるから言わなくていい」
「氷上シュン…」
「だーっ、だから言うなっつーに!」
「なによぉ、やおいやってくれと言わんばかりのキャラじゃない。エロゲ界では貴重なん
だからね、ぶぅぶぅ」
 貴重か貴重じゃないかの問題じゃないと思う…。
 横から大志が偉そうに指を突きつける。
「あいにくだな芳賀玲子。このジャンルの購買層はほとんどが男、当然ターゲットも男性
なのだよ!」
「えーっ、男女差別だぁ。女性読者も大切にしてよぉ」
「黙れ! 和樹が描くのは詩子×茜18禁と既に決まっている!」
「決めんなっ!」
「ちぇー…誰かシュン×浩平本作ってくれないかなぁ」
 玲子ちゃんは少し寂しそうに去っていった。ごめんよ、だってあいつ渚カヲルのパクリ
じゃん。

 自宅に戻り、買ってきたONE本を読破して、熱が冷めないうちに方針をまとめる。
 初めてだから難しいことはせず、癒し系のいい話にしよう。キャラは…
「よぉっ、和樹っ!」
 と、いきなり玄関が開いて、ずかずかと由宇が上がり込んできた。
「聞いたでぇ、おね本作るそうやな」
「ここが人ん家だって知ってるか?」
「細かいことは気にせんとき。なぁなぁ、作るんやったら繭の本にしてぇな」
「相変わらずだな、ぷに萌えめ…」
「澪でもええよ」
 繭と澪か…、わりと好きではあるけどな。
「特に繭の本って全然ないんよ。不憫やろ、可哀想やと思うやろっ!」
「ま、まあ確かに」
「ED前の展開と、ラストの日記はいっちゃん感動できるやないか! これは不当な扱い
やで! つーことで和樹、あんたが布教し」
「甘い甘い、ちょ〜おアマチャンねっ!」
 こみパ帰りらしくバッグを抱えた詠美が、いつの間にかふんぞり返っている。俺の部屋
にプライバシーはないのか?
「誰が甘いんや。大バカ詠美」
「ふんだ、しょせんは物を知らないパンダね。繭の本なんて売れるわけないじゃない」
 そりゃまあ、俺もそんな気がするな…。
「どアホっ! 売れる売れないは問題やない、愛があるかないかやっ! むしろマイナー
キャラを敢えて取り上げる、それが真の同人作家やろがっ!!」
「なまいきなまいき〜! そんなの後で後悔するに決まってるんだからぁ!
 あたしの知ってる奴なんてねぇ、『究極のシホ本を作る!』とか言って300部刷った
くせに、表紙がシホなもんだから全然手にとってもらえず、在庫の山抱えて寝る場所もな
いんだから」
 うわっ、シャレにならねぇ。想像して、その恐ろしさに思わず身震いする。
「ひ、表紙だけでも瑞佳描いとこうかな」
「この…ド阿呆がぁぁぁぁぁぁっ!!」
 スパァァァァーーーン!!
 ハリセンが一閃し、俺は血を吐いてもんどり打った。
「そんなん羊頭狗肉やないかっ! 内容と違う表紙なんぞ、詐欺や! 裏切りやっ!」
「ふふーんだ、みんなやってる事じゃない。それどころか表紙だけ上手い奴に描かせて、
中身はヘボンなんて日常ちゃはんじよっ!」
「くっ、テンプラ本にまで手を出すとは…。もうウチの知ってる和樹やないな」
「だ、誰もそこまで言ってない…」
「永遠なんてなかったんやーーー!!」
 由宇は大声で叫ぶと、永遠の世界、もとい神戸の山奥へ帰っていった。
 つーか、だったら自分で好きなだけ描けよ…。
123ONEの同人誌を作ろう!:2000/08/23(水) 01:45
「パンダの寝言なんて気にしなくていいわよ。あたしの言うとおりにすれば大儲け間違い
なし! というわけでONEはやめてKanon本作りなさい。売れるから」
「プレイした事ないぞ」
「いいわよそんなの。キャラ設定知ってれば同人誌くらい作れるでしょ」
「お前と一緒にするなよ…」
「したぼくのくせになまいき〜! Kanonなら絵さえ上手ければ信者が買ってくんだからぁ。
ごちゃごちゃ言わずに真琴本作りなさいよねっ!」
 慣れっことはいえ、相変わらずの無茶苦茶ぶりだな。
 ん…? 何かが引っかかって、頭の中の記憶を辿る。
「確か大志の情報では、一番人気はあゆと名雪という話だったけど…」
「ぎくぎくっ」
「『真琴本は売れんな』とも言ってたぞ?」
「あ、あんなヘンテコメガネの言うことなんて当てにならないわよっ。クイーン詠美ちゃん
さまの流行感覚を信じないわけぇ!?」
 とか言いながら、後ろめたいことでもあるのか後ずさる詠美。
「ふみゅうっ!」
 案の定テーブルの足に引っかかって盛大に転ぶ。ぶちまけられるバッグの中身。真琴の
本、真琴のバッジ、真琴人形…分かりやすい奴だなぁ。
 ? なんだこの赤いハチマキは?
「か、返しなさいよぉっ!」
 大慌てで引ったくり、半泣きになってバッグに押し込む。
「べ、別に真琴シナリオでボロボロ泣いたりしてないんだからぁ! あんなのただの狐じゃ
ない! 鈴の音聞くたびに涙がこみ上げたりしてないもんっ! ふみゅ、ふみゅ…ふみゅ
ぅぅぅんっ!!」
 勝手に泣き出すと、そのまま外へ飛び出してしまった。はぁ、しょうのない。真琴が狐
とか言って…
 って思いっきりネタバレしていくなよ!!

 結局オールキャラ本になり、割といいネタも浮かんで調子よく描いていた。
 しかし毎日机に向かっていると、さすがに集中力も落ちてくる。
 特に頭にトーン貼るキャラ。瑞佳、七瀬、繭、澪、ついでに氷上…こんなにいるのかっ。
こんなことなら茜をメインにするんだった…と後ろ向きな愚痴をこぼす俺。
「くそっ、七瀬と澪! お前らのリボンも面倒なんだよ!」
 とうとうトーンが切れて、痛くなった腕を回しながら商店街へ向かう。行き先はいつもの
画材屋だ。
「よう、彩ちゃん」
「こんにちは…」
 そういえば彼女の漫画はトーン使ってるの見たことないな。あそこまで緻密になると
必要ないのかもな。
「彩ちゃんはトーンとか使わないの?」
「…高いから…」
 い、いらんことを聞いてしまった。
「…今度は、何の本なんですか?」
「あ、ああ。『ONE〜輝く季節へ〜』っていうゲーム」
「葉鍵系ですか…。売れるんでしょうね…」
「…いや、その」
「いいですね、売れるジャンルは…」
 君の本が売れないのはジャンルのせいだけじゃないと思う…なんて言ったら呪い殺され
そうなので黙っておいた。
「…でも私、ONEなら少しやったことあります…」
「え、そうなんだ」
「はい、玲子さんの家に行った時に、茜シナリオだけ…」
「感想は?」
「…あの後で消えた幼なじみが戻ってきたりしたら、きっと修羅場でしょうね…」
「‥‥‥」
 彩ちゃん、妙に楽しそうなのは気のせいか?

 そんなこんなで原稿は完成し、さっそく塚本印刷へ持ち込んだ。
「にゃぁぁ〜、女の子が可愛いですぅ〜」
「ありがとう、千紗ちゃん」
「元のゲームも見てみたいですぅ。どこで売ってるですか?」
「うぐっ」
 ち、千紗ちゃんて確か16歳だったよな。俺はなんて本を持ち込んでしまったんだ…。
「ま、まあ大人になれば分かるさ、な?」
「そうですか? そういえば、他にも同じキャラ描いてた人がいるですよ」
「なにっ?」
 彼女の指さした先に、印刷済みの同人誌が積まれていた。近寄って手に取ってみる。
 ぐはっ、表紙からして18禁エロエロ本だぁ!
「なぜか皆さん服着てないですね。寒くないんでしょうか?」
「‥‥‥。千紗ちゃん、君だけはそのままの君でいてくれ」
「にゃ?」
124ONEの同人誌を作ろう!:2000/08/23(水) 01:45
 いよいよこみパ当日。設営も終わり、見本誌チェックを待つ。
 お、来た来た。
「ども。今回はONE本です」
「まあ、それは楽しみですねぇ」
 パラパラと本をめくり、内容を確認する南さん。
「はい、結構です」
 俺に本を返し、にっこり笑って言う。
「サンジとゾロは出てないんですか?」
「それ違います…」
 そして開場。潮のように人が満ちていく。
 真っ先に来てくれたのはあさひちゃんだった。いつもありがたいよな。
「えと、あの、す、すごく良かったですっ」
「ありがとう、励みになるよ」
「あ、あたしもこのゲーム好きで、みさき先輩の話とか感動しちゃって…」
「うんうん、あれは良かった」
 急に本で顔半分を隠して、上目遣いに俺を見るあさひちゃん。
「え、えと、あ、あたしが声…当てるとしたら、誰がいいと思いますか?」
「え?」
 うーん、誰だろう? あさひちゃんの声は可愛い系だからな…。
「敢えて言うならちびみずか?」
「えいえんはあるよ、ここにあるよっ♪」
「合ってねぇーー!!」
「えぐっ…。あ、あたしってやっぱりダメ声優だから…。和樹さんに迷惑ばっかり…」
「い、いや別にそういう」
「ごめんなさい和樹さん!」(ダッ)
「あさひちゃんちがうんだーー!!」
 ああ、行ってしまった…。後で謝っとこう…。
 時間が経つにつれ、ぼちぼち顔なじみがやって来る。
「シュン君描いた〜?」
「ギャグでよければ一応…」
「繭の出番が少ないやんか」
「すまん、描いてみると動かしにくかった」
「真琴は?」
「ONE本だっつーに!」
 この分なら昼過ぎには完売しそうだな。次もONEにするかな。
 なんてことを考えていると、場違いに健康的な奴が現れる。
「やっほー。見に来てやったわよ、バかずき」
「なんだ瑞希か。いつもこんな所までご苦労様」
「ふ、ふんだっ。売れずにピーピー泣いてるんじゃないかと思って、見物によっ」
 相変わらず素直じゃねぇなぁ…。
「なに? 今度はどんなマンが描いたの?」
「知らない奴が読んでも面白くないぞ」
「そ、そう…。そうよね、どうせあたしなんて部外者だもんね…」
 まーた、すぐわけわからん事でいじける。
 あらためて自分の本を眺めてみる。ああは言ったけど、一応そこそこは読めるかな?
永遠とかの話は入れてないし、それなりにストーリーもあるし。
「ほら、そこまで言うなら読んでくれよ」
「え、いいの?」
「そのかわり、感想聞かせろよな」
「う、うんっ! 覚悟しときなさいよ、つまんなかったら承知しないんだから!」
 瑞希は笑顔でそう言うと、大事そうに本を抱えて帰っていった。俺の同人活動はいろんな
人に支えられてるんだなぁ…感謝。
「なあに我々の仲ではないか、まいはにー」
「おまえには感謝しとらん」
125ONEの同人誌を作ろう!:2000/08/23(水) 01:46
 律儀にもその晩、瑞希が感想を言いに訪ねてきた。
「電話でもよかったのに」
「う、うん。でも直接言いたかったから。
 ゴメン…あたし、今まで和樹のマンガを誤解してた。こんなにいい話を描けるんだね…」
「み、瑞希…」
 思わず目に涙がにじむ。マンガを描いてて良かった…。そう思える瞬間だった。
「と、とにかく上がってくれよ。お茶でも入れるからさ」
「うん、それじゃお邪魔しまーす」
 台所へ行き、お湯を沸かす。部屋から瑞希の声が聞こえる。
「でもホント凄いよね。全部和樹が考えたの?」
「い、いや。元ネタのお陰だって」
「そっか、元になったのがあるんだ…」
「ああ、そこのパソコンの側に置いてあるだろ? ONEって書いてあるやつ」
 そうだな、何より原作への感謝を忘れちゃいけないな。ONE、欠点はあるけどいい
ソフトだった。
 ‥‥‥‥。
 しまったぁぁぁぁっ!
 床を蹴って部屋に戻ると、案の定、瑞希がケースを手に肩を震わせていた。
「ふーんそう…。こういうゲームだったんだ…」
 見ているのはパッケージの裏。他のソフトよりは薄いとはいえ、特に左下の絵はヤバす
ぎるー! 恨むぞTactics…。
「お、落ち着けっ! 確かにONEはエロゲーだがエロはおまけみたいなもんであって、
別になくてもっ!」
「あたし、エロゲーなんかの話に感動してたわけね…」
「ち、ちょっ…」
「和樹のバカ! サイテーー!!」
 バターーン!!
 壊れんばかりの勢いでドアを叩きつけ、視界から消える瑞希。俺はがっくりとその場に
崩れ落ちる。
「無様だな、同志和樹」
「大志…。お前がどこから入ってきたのか突っ込む気力もないよ…」
「痴れ者め! 世間の偏見などに敗れてどうする!? お前はそんな気持ちであの本を
作ったのか!」
「うっ…」
「エロゲーで何が悪い、これだって一つの文化よ! 違うか、違うか、違うかぁぁぁっ!!」
 そ、そうだ。一般人の瑞希がああいう反応なのは仕方ないが、俺がこのソフトを気に
入っていることに変わりはない。18禁だろうが何だろうが、七瀬や瑞佳が好きだ!
俺はここにいたい。俺はここにいてもいいんだ!
「目が覚めたよ、大志…」
「わかれば良いのだ。お前の偉業を称えるため、大学でも皆に宣伝してやろう。和樹は
エロゲーで同人誌を描いていると!」
「ヤメロこん畜生」
 まあ、同人は理解ある人向けに描くとして…。瑞希とはしょっちゅう顔合わせるしなぁ。
どうしたもんやら。
「なあに安心しろ。あのような潔癖人からも、理解を得るための策はある」
「そ、その策とは?」
「PS版『輝く季節へ』を買ってくるのだ」
「それはいやだぁ!!」

<END>