leaf vs key リレー仮想戦記

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83名無しさん@某T
大阪・天満の一角。
似合わないサングラスを掛けた折戸は、いら立ち加減で人を待っていた。
やがて、向こうから足音が聞こえる。
「…人を待たせるとはどういう了見だ。この場でその黄金の指を折ってもいいのだぞ」
不機嫌そうに折戸はつぶやく。
「私にも立場がある。この場を陛下に見られる訳にはいかんのでな」
足音の主は、ひょうひょうとした表情で答える。
中上和英。下川の右腕と言われる男だ。
かつては折戸の戦友でもあり、敵味方に別れた現在でも、その友情は変わらない。
「同じWeb管理者として、俺の苦労も判るだろう」
「何が言いたいのだ?」
「なぜ荒らす。信者を使ってまで」
中上の表情が一瞬、凍る。
「…何が言いたい」
「CD-Rの件だ。だれがやったか、おおよその見当はつく。フン、あの男らしい汚いやり方だ」
「お前は疲れている。人の意見を聞きすぎなのだ。無視する勇気も…」
「中上。お前のように、独善的に何でも削除するような管理は俺にはできない。
あの男に…下川にしいたげられた俺には、無視されることの苦しみが判るから…」
「折戸!」
中上が声を荒らげる。この男にしては珍しいことだ。
「…俺は陛下には逆らえん。お前のような勇気がないから」
絞り出すように、中上はそう言った。うっすらと、目に涙が浮かんでいた。
「すまない、言い過ぎたようだ」
バツが悪そうに折戸は沈黙する。
音のない時間が数刻、流れた。
84名無しさん@某T:2000/08/05(土) 02:39
「話したくなければ話さなくてもいいが、帝国の実状はどうなのだ」
口を開いたのは折戸の方だった。
「話す必要はない…と言いたいところだが」
「だが?」
意外な反応に折戸は驚く。帝国の重臣が話すとは思っていなかったからだ。
「正直苦しいのだ。ドザ・石川大将軍が帝国を離れたからだ」
「…あの歴戦の男が、帝国を見限った、か…」
「帝国は東部戦線を広げすぎたのだ。何のちゅうちょもなく西の名将を投入した。
もちろん、俺もその例外ではない」
「…」
「鳥の、生波夢、上田、閂…。勇将たちが次々と帝国を見限った。
水無月、河田、原田も、内心はどうだか…」
「…予想以上だな」
「帝国の惨状は予想以上だ。なのに、私には飛び出す勇気がない。それだけのことだ」
「中上…」
「私はお前の勇気がうらやましい。憎いと思ったことさえある。いや、今でも憎いのかもしれない」
「中上、もうそれ以上言うな。お前の気持ちは判っている」
「…すべては、陛下の独善に問題があるのだ。それを止められない私にも」
「それ以上自分を責めるな、中上! お前は…よくやっている」
「…すまない、折戸」
2人の目を、ゆっくりと、涙が伝った。
85名無しさん@某T:2000/08/05(土) 02:39
「最後に一つだけ言っておく」
「何だ、中上」
「重臣たちの中で、陛下に心酔しているのは、青紫ただ一人だ。
あの高橋さえも…内心は判ったもんじゃない」
「…どういうことだ?」
「伊丹から新大阪に遷都を強行するなど、陛下の独善には多くの重臣が不満を持っている。
場合によっては…高橋すらも、お前たちの側につく可能性があるということだ」
「…本当なのか、あの高橋が」
「あくまでうわさの域を出ないが、な。可能性の問題だ」
「あの男は知っているのか」
「そのせいで最近、高橋と口論が絶えない。陛下も…おろかなことを」
「中上…」
「…まあいい。少なくとも私は、最後の一兵になっても帝国に残る。
今の陛下には問題も多いが、拾ってくれた恩を忘れたわけではない」
「お前も…相変わらず律儀なもんだな」
「…次に会うときは、戦場かもしれんな、折戸」
「ああ、ただ…」
「ただ?」
「…中上。お前と戦うのは嫌だな」
後は無言のまま、2人は別れた。
86名無しさん@某T:2000/08/05(土) 02:47
◎筆者あとがき
…やっぱ才能ないな、俺。