お稲荷様に守ってもらうことって可能?

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31名無しさん@修行者
もんは、きょうも田んぼひとつはさんだ小高い丘のふもとを見ています。
「おっかあ。ほら。ほら。」
もんの指さす方には、夕ごはんの支度をしているのでしょうか。
あっちの家からも、こっちの家からもけむりの出ているのが見えます。
もんは五歳。おっかあに連れられて毎日田や畑で暮らしているのです。
そんなもんの楽しみは、
毎日ふもとの家々から出るけむりを見ることだったのです。
見ていると、もんはとても安心できるのです。

そんなある日、いつものように小高い丘を見ていると、
小さなともしびが三つ四つ見えました。
よくよく見ると十も二十もありました。
少し赤っぽく、とてもきれいでした。
32名無しさん@修行者:2001/07/23(月) 05:45
しばらくすると、ともしびは、何やら動いているようです。
あっちに行ったり、こっちに来たりして、もんの心はうきうきしてきました。
「おっかあ。ほら、ほら。」
「うん。また、けむかい。」
「うーんほら、ほら。」
おっかあは、夕はんの支度をやめて、もんの方に来ました。
「ああ、もん。きれいだ。きれいだ。今は六月だもの、
  田んぼの稲っこも喜んでんべな。」
もんには、なんのことだか全然わかりません。
ただきれいだと言うところだけわかるのです。
そんなもんを、おっかあはひざにだいて話してくれるのです。
33名無しさん@修行者:2001/07/23(月) 05:47
「もん。あれはな。狐のしゅうげん〈結婚式〉だ。
おめでてえことなんだよ。
狐たちが、うんまいごっそういっぺ作って、うれしいんだべな。
ほれ、ほれ、ちゃんと二列になって動き出したんべ。
あれはな、よめっこがむこのところへ今から行くんだ。
あのよめっこもきれいなんだ。」

「ふーん。おっかあ。そんでー。」

「きれいなよめっこの着物が、よごれちゃなんねー。
めでてえことに雨がふっちゃなんねえって、
狐らは、雨がふる前の日にしゅうげんをやってしまうんだ。
なあ、もん。あしたは雨だよ。雨ふっと田んぼの稲っこも
どんどんでっかくなって、いっぺ米ができるんだ。
そしたら、もんにもきれいな着物でも買ってやっかんな。

「おっかあ。狐のよめっこの着物がいいな。赤くてきれえだもの」
34名無しさん@修行者:2001/07/23(月) 05:48
もんは、おっかあのひざの上ですやすやねむってしまいました。
そして、時々顔をほころばせました。
きっと何かいい夢でも見ているのでしょう。

次の日は、雨が降りました。
田んぼには水が広がり、稲たちは、皆すじをぴーんとのばし、
元気に話し合っているようです。

やがて、大きくなったもんは、おっかあと同じ野良仕事をするようになると、
ちょいちょい小高い丘の方を見るのでした。

「ああ、きょうは狐の嫁どりがねえ。
明日は晴れだな。それじゃ明日は、いもほりでもすっか。」

「ああ、きょうは狐の嫁入りがあった。明日は雨だな。
まてや〈納屋(なや)〉で縄ないでもすっか。」