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440魔薬SS:題未定
夏とはいえもう薄暗い時間。下校時刻をとうに過ぎた、無人に近い校内を、一人の少女が歩いていた。
すれ違う者もなく渡り廊下を通過し、三階へと階段を上っていく。窓から射し込んだ残光に、丁寧に肩で切りそろえられた黒髪が映える。健康的な太股がプリーツスカートの下からわずかに覗いた。
(遅くなっちゃった・・・先生、まだ残ってるかな)
ほっそりした手首を飾る腕時計の時刻は、全生徒、全教職員に退去を告げる鐘が鳴るまでの、わずかな余裕を示している。
少女の名前は五十嵐美奈。この私立星南大学付属高校の二年生で、成績は学年トップ。全国模試でも常に上位に入る秀才である。
さらに整った目鼻だちと、均整のとれた肢体とがそこに加わるのだが、男子生徒の間で、彼女の人気はさほど無い。
それは美奈の、自分の容姿をあまり意識しない、インテリ然とした生真面目な態度によるところが大きいのだろう。
茶髪や化粧、ピアスにルーズソックスといった、今時の女子高生らしい要素は、その身なりにひとつとして見られない。清潔感あふれる制服姿は、まさに一分のスキもない優等生といった感じだ。
「五十嵐さんてさー、化粧とかしないの? モトいーんだからマジしたほうが絶対イイって」
ある時、美奈とまったく対照的な格好の女生徒に、そう言われたことがある。しかし彼女は参考書から目を離しもせずに、
「成長期における化粧は、美容の面から言えば明らかにマイナスよ。それだけ肌の老化が早く進むから、結局成人後もずっと化粧に依存することになってしまうの。・・・わたしは、化粧なんて健康な素肌を維持する努力を怠ることへの、程度の低いごまかしでしかないと思っているから」
と、こういった台詞を返すようであるから、女子の中にも親しい友人と呼べるほどの者は一人しかいない。
ありていに言って、周囲からやや敬遠されているのである。
しかし、だからこそ、こんな時間まで校内に残っていても、その名目に『彼』の実験助手という肩書きを使っていても、誰にも不審に思われることはないし、さして詮索もされないのだった。
もっとも、今日の場合は図書委員長としての職務を全うしていたために遅くなったのであるが。
三階の化学実験室の隣。そこが校内に『彼』個人が与えられた研究室だ。
化学教師、高原修司。勤続三年目の二十五歳。偶然生成に成功した対女性用ヒト・フェロモン『魔薬』を使い、美奈を含む数人の女性をコマした悪人である。
学校側の彼に対する特別の待遇は生徒も知るところであり、その知的な容姿と、柔らかな人当たりもあって、女子の間でひそかに人気が高い。
しかしながら、休み時間に彼が女生徒に囲まれたりする、といったことは今までほとんどなかった。
やはり美奈と同様、相手に一歩踏み込むのをためらわせるような雰囲気を、彼が身にまとっているからだろうか。
ともあれ、それは今の美奈にとっては望ましいことなのである。
441魔薬SS:題未定:2001/05/20(日) 21:29 ID:???
(やだ、ドキドキしてる・・・)
緊張で、胸の鼓動がすこし速くなっていた。それを押さえ込むかのように、美奈はカバンを胸元に強く抱きしめる。
自分の中に新たに芽生えた感情。彼に処女を散らされてから、次第に形を成したそれが何なのか、美奈自身にもしばらくわからなかった。
時に心地よく、時に不愉快な、容易には説明できない複雑な精神状態。
しかし最近、これはおそらく、一般的に恋愛感情と定義されるものなのではないか? そう思うようになっていた。
同時に、その可能性を反証してみてもいる。
快楽に流される言い訳に、恋や愛といった綺麗事を持ち出しているのではないか?
『魔薬』を持っていれば誰でもかまわないのではないか?
自問した。なんども、数え切れないくらいに。
(違う・・・と、思う)
彼はきっと、美奈をただ欲望を満たすためだけに利用しているのではない。
だいたい、このごろは『魔薬』をまったく使わずに身体を重ねているのだ。それもほんの数回でしかなく、真面目に実験を行うだけの日のほうが圧倒的に多い。
二人の関係の始まりは、たしかに異常なものだったけれども、今では会話や行動の端々から、彼の優しい気遣いを感じるようになっている。
美奈のいろいろな相談にも、彼は親身になって応じてくれた。
『魔薬』によって与えられる、原始的な喜びとはまったく別の心地よい感覚を、美奈はそこに見出すことができている。
肌を合わせなくても、暖かな何かが自分を満たしていく、そんな幸福感を。
(そうよ・・・だから)
だから昨日、思い切って、この想いを彼に打ち明けた。
まだ未整理なままの気持ちを、それでもなんとか伝えようと、たどたどしく、しかし一生懸命に言葉を重ねた。
今思い返すと、まったく赤面してしまうような内容。
(ううう、どんな顔して会えっていうのよ・・・)
足の運びが遅くなる。昨日、返事も聞かずに部屋を飛び出してしまったのが悔やまれた。
もっとも、なけなしの勇気をふりしぼった後、あの場にとどまるのは到底むりだったであろうけど。