糞糞 天才タダシン 新たなる旅立ち 糞糞

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208名無しさんの野望
 10月某日、生まれて初めてサイン会を行った。
『PRINCESS EYE』自費出版記念のサイン会だ。
会場は大阪府ではそこそこ名前の通った本屋さんだった。たぶん土曜日だったと思う。
会場に行ってみると、すごく人が並んでいるのでびっくりした。
「うわあ、すごいなあ。俺って人気があるんだな」
……と喜んだのも束の間だった。よく見ると、知っている人間ばかりなのだ。
会社の人や、妻の親戚が殆どである。
会社の同僚などは、行列が途切れてはまずいとばかりに、二度も並んでくれた。
一体どれぐらい売れたのかは不明だが、
とりあえずサイン会として格好はついたようである。
それでやめておけばよかったのだが、書店の社長が欲を出してしまった。
「北村さん、明日、別の支店でもう一回やりましょう」と提案してきた。
ここで断っておけば何の問題もなかったのだが、忠士は調子に乗っていた。
生まれて初めていっぱいサインをしたせいで、すっかりスター作家気取りなのだ。
「いいですねえ、やりましょう」と安請け合いしてしまった。
209名無しさんの野望:2001/06/26(火) 01:10
知り合いのおかげで本日のサイン会が辛うじて成り立ったということを、
すっかり忘れていたのだ。好天に恵まれた翌日、本屋の社長と忠士は、
某駅前の書店に机を出し、
「北村忠士(タダシン=レイ)サイン会」というのぼりを立てて、
客がどっと押し寄せるのを待ち構えていた。
社長は売る気満々、忠士はサインする気満々である。
しかし待てど暮らせど客は来なかった。いや、書店に客は来るのだが、
こっちに目を向ける人は殆どいないのだ。
「何だこいつ」という冷たい視線をたまに投げられるだけである。
三十分ほどそうしていたが、どうやらこれは失敗らしいと気づいた我々は、
どちらからともなく、今日はもうやめましょうといいだした。
210名無しさんの野望:2001/06/26(火) 01:10
それで机を片づけようとすると、小学生ぐらいのガキが近づいてきて、
「サインしてくれるの?」と訊いた。
そうだよと答えるとガキはどこからか新聞のチラシを持ってきた。
それを裏返し、「ここに書いて」というのだった。
半ばヤケになっていた忠士はそこにサインをし、ガキと握手までした。
サイン会二日目に書いたサインはそれだけである。
その時に忠士は決意したのだった。この先売れることがあっても、
絶対にサイン会だけはしないぞ、と。
そして、一生をオンラインゲーム開発に捧げるぞ、と。