ロベリアだけどアタシを称えるスレはないのかい?

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 大神に言われ、ロベリアは準備運動をはじめる。じっくりと、入念に準備運動をする
ロベリアを見て、大神はなんとなく違和感を感じていた。
(おかしいな? 普段だったら『バカかお前? あたしゃコクリコみたいなガキじゃないん
だから、そんなもの必要ないよ』とか言ってくると思ったのに)などと思ってはみたものの、
それ以上のことは思い浮かばない。やがて、ロベリアが準備運動を終えた。
「よしッ! じゃあ、軽く競争でもしてみるかい?」軽い冗談のつもりで大神が言うと、ロベ
リアは複雑な面持ちで「ま、待ちなよ。まずは、あっちの方で身体を慣らしとかないかい?」
と言って、とあるプールを指差した。その指先には……。
「い、良いけど、あれって子供用プールだよ」
「わ、判ってるよ! そ、それぐらい!」いつになく狼狽するロベリア。そんな彼女の様子を
見て、大神の脳裏に一つの疑念が浮かんできた。
(――まさかね。いくらなんでも、そんな事は無いだろう)頭の中で自問自答してみたが、
結局、大神はその疑念をロベリアにぶつけてみる事にした。
「あのさ……ちょっと訊きたいんだけど」
「な、なにさ」
「ロベリアって……ひょっとして……」大神がそこまで言いかけたとき……。
「そ、そうだよッ! 悪かったねッ! ……その……カナヅチで……」と、ロベリアの口から
意外な告白が発された。あまりにも恥ずかしかったのか、ロベリアは耳まで真っ赤に紅潮
させている。
「意外だなぁ……。ロベリアがまさかカナヅ(ンーーッ!!)」途中まで言いかけた言葉を、
ロベリアの手が塞ぐ。「しー、しー。そんな大声で言うなっ!」辺りをキョロキョロと見回す。
「ンーーッ! ン、ンーーッ!! ンーーーー!!」大神の顔が、徐々に紫色になっていく。
「あッ! わ、悪い……」苦しそうな大神の様子を見て、ロベリアは慌てて手を放す。
「はぁーー、はぁーー……し、死ぬかと思った」大きく息をする大神。
「あ、アンタが悪いんだからね……。あんな大声で言おうとするから……」手を胸の前で
もじもじとさせながら、ロベリアが言った。懲役千年の大悪党にも、なかなか可愛い所が
あったものである。
「ゴメン……。今のは確かに俺が悪かったよ」神妙な面持ちで大神が言うと、ロベリアが
口を開いた。
「わ、判ったのなら良いさ。許してやるよ……。そ、その代わり……」

つづく
572542:2001/04/06(金) 03:44

「じゃあ、水面に顔を浸けて」
「わ、判った……」
チャプ……ジャパッ!
「おいおい。そんなに早く顔を出したらダメだって」
「判ってるけど……こ、怖いんだよ」
 ロベリアが出した条件。それは『泳げるようになるまでコーチをしろ』というものだった。
しかし、特訓をはじめてから一時間半が経過していたが、いまだにロベリアは水面に顔を
浸けるのがやっとという有様であった。
「うーん、そんなに水を怖がっていたらダメだよ。まずは、水に慣れないと……」
「わ、判ってるって! でも……やっぱり怖いんだよ」力無く俯くロベリア。そんなロベリアを
見て大神は、
「よしっ! 一旦休憩しようか。水の中に浸かりっぱなしじゃ、身体も冷えすぎるからね」と
言ってプールから揚がり、ロベリアと一緒にプールサイドのカフェに向かった。
 カフェに着くと大神は、ホットレモネードを二つ注文した。まずは冷えた身体を温めようと
思ったからだ。ロベリアを見ると、長い間水に浸かっていたためか、唇が紫色になっている。
「さあ、これを飲んで温まろう。泳げるようになりたいってのは判るけど、ちょっと無理をし過
ぎだよ」心配そうに大神が言う。
「……悪いね、隊長。……自分でも、こんなに水を怖がってるなんて、思いもしなかったよ」
 ロベリアは俯いたまま顔を上げようとしない。寒さからか、それとも悔しさからなのか、ロベ
リアの身体は小刻みに震えていた。
「ロベリア……。一体何があったのかは判らないけど、君の水に対する恐怖心は相当な物
だよ。泳げないのなら、泳げなくてもいいじゃないか」そう大神が言うと、
「そいつは泳げるやつの言う台詞だよっ! アタシはねっ、もうあんな思いはしたくないんだ!」
テーブルを両手で叩き、きわめて強い口調でロベリアが言い放った。
(あんな思い?)大神は、ロベリアの言ったその部分が妙に気に掛かった。
「わ、悪い。……ちょっとイラついてるみたいだ……」
「なあ、ロベリア。聞いてくれるかい?」大神は、真剣な表情でロベリアに語りかけた。

つづく