妻や子供たちを引き連れ冒険の旅に世界をさすらった日々も今は遠く、僕はグランバニア国王として多忙な日常を過ごしながら、通り過ぎた思い出を時折振り返る。
身を割くほどの悲しみ、涙を伴う大切な人との別れ……。決して幸せだったとは言えないけれど、その中にも幾つかの、そう満天の星々の中で一際輝く明星のような出会いがあった。
その中で今なお最も大切なもの。更なる出会い、幸せをもたらしてくれる僕の輝ける星。世界で一番愛してやまない麗しの君。
──フローラ!
彼女のことを考えるだけで僕は年甲斐もなく、早まる鼓動を押さえられなくなるのだ。
旅の最中彼女と結ばれてから日を置かない内に数奇な運命が二人を引き裂いた為に、僕らは十年の月日が過ぎた今日になって遅い蜜月を楽しんでいた。
夜更けから朝日が昇るまで、毎夜欠かさず愛し合い、二人が今ここにいることを確かめ合う。彼女こそは僕の幸せ、僕の楽しみ、僕の安らぎ、僕の全て。
もしも彼女が僕の前から姿を消してしまったら、僕は何ら迷うことなく国を捨て、僕たちの子供を連れて、彼女を捜し世界中を旅するだろう。
そう、かつて父さんがしたように──。
僕はアレフ。この名前は母さんがつけてくれたのだと父さんが言っていた。由来はわからないけれど、母さんは僕が産まれる前からこの名前を考えていてくれたそうだ。子供の頃、同じ名前を昔話に聞いた気もするけれど、母さんがそこからとったのかどうかははっきりしない。
父さんはトンヌラという名前を考えていたらしいけれど……アレフで良かった。
子供たちは男の子と女の子の双児で、男の子には昔話にある勇者の名前からロトと名付けた。その時はまさか僕の子供が本当に勇者になるなんて思いも寄らなかったけれど。
女の子には、お母さんと同じように綺麗で優しくていつも微笑みを絶やさない強い娘になって欲しいという願いを込めて、愛するフローラの名前から、ローラと名付けた。これはまた別の昔話に出てくる、とある国の王女の名前でもある。
子供たちは既に齢、十を数えるわんぱく盛りだけど僕たちはまだ父親と母親と言うよりは夫と妻であり、実際そんな年齢の子供がいるとは信じられないくらいに若々しかった。
これからもっと時間を重ねて家族の絆を育てていかなきゃ、と思う。その為にはやはり夫婦円満じゃないとね。
王として一日の責務を終えた僕はやがて来る二人の時間を、そわそわしながら心待ちにしていた。今日はどんな手順でどんな体位でしようかな、なんて恥ずかしいことを考えてしまうのも、僕の奥さんがあまりに可愛すぎるせいなのだ。