オヴェリアがアグリアスの顎に、指で触れた。
アグリアスは目を閉じたままその指に頬を摺り寄せる。そして唇でその指をくわえた。
猫たちが鼻先を合わせるように、二人で頬と頬を合わせた。
オヴェリアの手がアグリアスの耳に触れ、首筋へと降りていく。暖かな血の温もりがオヴェリアの指先から伝わり、今度はそこに頬を当てた。
すると指の触れる場所がなくなる。
だからアグリアスの襟の袷を解いた。
少しずつ、だが確かに触れ合う場所を求めて指が降りていく。
そして白い鎖骨が露になった。
唇をそこに当てた。
「………っ……」
アグリアスの顎が上がった。
壁に凭れたアグリアスの膝の上に跨って、身体を寄せる。ことあれば身体をひきかけるアグリアスに、オヴェリアがぴったりと寄り添って素肌を探す。
「……ぅ…………ん」
唇を重ねて、舌を入れた。
鎖骨に沿わせた指に力を込めると、アグリアスの舌がひくりと震えた。
唇を何度も離し、また合わせた。絡まった舌は離れない。
「……………ぁ……っ…」
アグリアスの滑る口内を舌で探る。堅い歯の並びとその下の歯茎。唇の内側をなぞると、小さなしこりがあった。
「あ……ここ………私のせい……?」
「……い、え」
アグリアスは喉の奥に溜まっていた唾を飲み下しながら答えた。
「嘘つき」
オヴェリアはアグリアスの喉に歯を立てた。少しずつ力を加えて、薄い歯型がつくほどに。
「…………ん……っ」
アグリアスの全身が揺れた。
。
彼女の髪の香りを胸一杯に吸い込んで、オヴェリアもアグリアスと同じような吐息を彼女の耳に吹きかけた。
「ア…グリアス………」
もっと深く触れ合おうと、身体を押し付ける。
はだけたアグリアスの胸に頬を当て、首に自分の首を摺り寄せた。それでも重なり合う場所が狭すぎて足りない。自分で自分の襟を開け、そこを押し当てた。
それだけのことなのに、身体が火照る。
触れた場所から溶けてしまいそうになる。
「………っ…………ん……」
次第に増えていく素肌。
鎖骨からまっすぐ伸びた肩の骨。緩やかな二の腕。青白い胸の間とふっくらとした胸の膨らみ。
アグリアスが胸につけていた下着を外す。
赤い頂は固く尖り、アグリアスは同じほどに赤い唇を噛んで、顔を背けた。
オヴェリアはアグリアスの膝に跨ったその姿勢のまま、自分の着ていた衣を脱ごうとした。だがボタンを外す指が震えて巧くいかない。
「…………っ……!」
何度も同じことを繰り返す。アグリアスはそんなオヴェリアの様子を、肩で息をしながら眺めていた。
「……っく………」
幾度かの失敗の後、アグリアスがオヴェリアに手を伸ばした。
「…………アグ………リアス…」
オヴェリアの指を押しのけたアグリアス。そしてオヴェリアの衣の前のボタンを外す。
ゆっくりとオヴェリアの前がはだけられ、アグリアスと同じように上半身が炎に照らされた。
自分の胸など、見慣れている。
だが、いつもは柔らかなままの胸の先が、冬の朝のように小さく堅く、勃っている。
全身の感覚が鋭敏に冴えていた。
視線を真っ向から交える。
もうアグリアスはオヴェリアに何も言わせなかった。
「……っあ…ぁ……………っ」
初めてオヴェリアが上げた声が、書庫に響いて消えていった。