アレクサンドリア許さない×2〔DISC5〕

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480名無しさん@LV5
特殊合金のシャッターを紙のように易々と切り裂き、まさに無人の野を行くが如き進行を続けていた
ジークフリードの足がピタリと止まった。殺気に満ちた射るような視線が、前方に立つ二つの人影に
注がれた。派手なローブを身にまとった壮年の男と、ほとんど裸も同然のきわどい衣装の若い女。
一見して魔術師と分かる二人が現われた訳だが、本来、その程度の異変ででジークフリードの進行は
止まらない。ジークフリードの進行を制止したものは、二人の魔術師の放つ、凄まじい力を予感させる
妖気であった。
「ジークフリード殿とお見受けしたが?」
落ち着いた声で問いかける壮年の男に、ジークフリードは頷いてみせた。
「いかにも…俺がジークフリードだ」
「やはり…。我が名はアポカリョープス。それなるは、同じ主人に仕えし朋友カロフィステリ。
我ら両名、主エヌオーの命により、貴殿のこれ以上の進行を阻止させていただく」
もとより、出会う全てを皆殺しにせよとの指令に従っているジークフリードが、ただ黙って口上を
聞いている筈もない。皆まで言わさず、ハイパードライブの一撃を放っていた。風に舞う木の葉の
如く吹き飛ばされる二人の魔術師。しかし、ジークフリードは手応えに違和感を覚えていた。
「…これは?」
違和感を裏付けるように、涼しい顔で起き上がってくる二人を見て、ジークフリードの口から
思わず疑問の声が漏れた。
「フ…これぞ、青魔法に伝わる究極防御魔法マイティガード。貴殿の技、確かに恐るべき必殺剣では
あるが、我が防御術の前では児戯に等しい…。加えて、我らの肉体にはカロフィステリが最前に使った
リジェネの効果も働いておる。如何な貴殿と言えども、我らに打ち勝つ事は不可能と知れ」
「やるな、貴様ら…」
アポカリョープスとカロフィステリ、そしてジークフリードの三人の魔人の間に、常人ならその場に
居合わせただけで意識を失いかねない、およそ人ではあり得ぬ壮絶な殺気が凝縮していた。
481名無しさん@LV5:2000/12/30(土) 01:11
『たった今…部下達…が…ジークフリードに……接触…した』
疾走するジタンの脳裏に、エヌオーの『声』が響いた。ミコトとのそれとははまた違った、
『連結』による別回線の精神感応である。
「そうか…。それで、どのくらい持つ?」
『初めから…時間…稼ぎが…目的だ……防御に長けた者達を派遣した……だが…それでも…
そう長くは持つまい……恐らく…十分程度が……限界だろう…』
「十分か。少しきついが、まあやってみるさ」
思念波による会話を打ち切ったジタンは、再び音の無い疾走に戻った。常人なら優に二十分はかかる
距離を僅か五分足らずで走破し、ジタンは目的地に到着した。第2レクリエーションデッキである。
ミコト、そしてジタンと二人のゾディアックブレイブとの激戦、更にジークフリードによる徹底的な
無差別破壊によって、かつての乗組員憩いの場は、面影すらも残らぬ無残な姿に変貌していた。
荒涼とした風景の中に、心臓を貫かれ苦痛と驚愕に目を見開いたシナと、首の無い胴体と怨嗟に満ちた
表情の生首に分かれたルビィの亡骸が、打ち捨てられた人形のように転がっているのを見て、ジタンは
疲れたような表情になった。体中の血液が流れ尽くし、死斑までもが浮かび上がった変わり果てた姿を
見て、二度とは戻らぬ日々を思い出し、一抹の寂しさを感じたのかも知れなかった。
「許せよ、ルビィ、シナ…。いずれは俺も、お前たちと同じ運命を辿る。『向こう』に行ったら、
存分に恨みを雪ぐといいさ…」
低く呟きながら歩いていたジタンは、目的のものを発見し足を止めた。
482名無しさん@LV5:2000/12/30(土) 01:12
「やはりこいつか…」
部屋の片隅で淡い魔法光を放つ斬鉄剣を、ジタンはそっと持ち上げた。
「文字通りこの世ならざる、異次元の武器…。どのような経緯でルビィの手に渡ったのかは知らんが、
本来、召喚獣オーディンが持つこの剣…恐らくオーディンが幻獣界の次元の門を潜り抜けこの世界に
出現した時、次元の狭間に漂っていたジークフリードと、魔法的同調を果たしていたのだろう…。
そしてこの剣がガイアに残った事により、ジークフリードはこの世界に結び付けられたという訳か…」
ジタンは懐から金属の函を取り出すと、蓋を開けて斬鉄剣を中に収めた。するとたちまち、斬鉄剣の
魔法光が薄れ、ほとんど視認できない明るさにまでなった。ジタンは満足げに頷き、函の蓋を閉めた。
蓋を閉じてすぐ、エヌオーから連絡が入った。
『…ジタン……部下達から連絡だ……ジークフリードは…突然…霞みのように…消えた……そうだ』
「分かった。現時点を持って艦内の戦闘態勢を解除し、事後処理にあたるようエリンに伝えてくれ」
『了解…した…』
取りあえずの危機を脱した事で、ジタンはほっと息をついた。
『俺には斬鉄剣を破壊するだけの力は無い…。魔法実験に使う為に作らせた、あらゆる魔力の伝播を
遮断する特殊金属製の函…ジークフリードの魔法的同調にまで効果があるか分からなかったが、
なんとかうまく行ってくれたな…』
軽く伸びをして、ゆっくりと歩き出したジタンは、突然耳元に響く空烈音を聞き、立ち止まった。
いや、ジタンが立ち止まったのは、音ではなく息苦しさが原因だったのかも知れない。何かが、
ジタンの首をきりきりと締め上げていた。
『…これは……血管鞭!?』
何とか振り返ったジタンが見たものは、自らの首を右手に持ってゆっくりと立ち上がりつつある
ルビィと、首の痕から伸びてジタンの首に絡みついた無数の血管鞭であった。