アレクサンドリア許さない×2〔DISC5〕

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469名無しさん@LV5
「な…な……」
嘲笑する悪魔の口のような真紅の傷口が、ルビィの喉笛でパックリと開いていた。ルビィは
『何故?』と問いたかったのだが、いくら努力しても、その口からは言葉の代わりに血泡が
溢れ出るだけだった。しかし努力の甲斐があったのか、ルビィの疑問は十分に伝わったらしく、
ジタンは軽く肩をすくめると、ゆっくりと語り始めた。
「メイジマッシャーも、ルパインアタックも、さっきの無謀な突撃も、すべてはお前を油断させ、
決定的な隙を作らせる為の予備行動に過ぎなかったのさ。実を言えば、暗黒のガスが炸裂した時に
この勝負は八割方決まっていた。お前が視力を失っていた僅かな時間に、俺はある行動をしていた。
メイジマッシャーを投げる前にな」
ジタンはそう言って懐から何か液体の入った、ごく小さな瓶を取り出した。
「これはドラゴンシールドと言ってな。炎、冷気、そして電撃を一定時間完全に無効化する秘薬だ。
そう、俺はこれを飲んでいたのさ。暗黒のガス──あれはお前の視力を奪う事が主眼ではなく、俺が
この薬を嚥下した事を知られない為に使った、単なる目眩ましだったんだよ、ルビィ」
一呼吸おいて、ジタンは無造作にルビィの心臓を刺し貫いた。全身が痺れるように激しく痙攣し、
口から鮮血が滴り落ちる。実はルビィは最後の手段として、ゾディアックブレイブとしての真の姿に
変身しようと試みていたのだが、全身に脱力感と途方も無い寒さが広がるのみで、いっこうに変身は
発動しなかった。シナとは異なり、心臓を貫かれても即死しなかった以上、何らかの効果は出ている
のかも知れなかったが、刻一刻と己が確実な死に向かいつつあるのはルビィにも分かっていたし、
それは恩恵と言うよりも、むしろ苦しみが長引いただけとも言えた。
470名無しさん@LV5:2000/12/22(金) 00:37
「何故、そんな回りくどい事をしたと思う? お前が言った通り、正面からまともに戦ったら、
俺の力ではお前に勝てないからさ。魔法戦は勿論、武器を取っての戦いでもな。だからこそ、
俺は自分に魔法が効かない事を悟られないように行動した。それだけが俺の唯一の利点だったし、
俺に魔法は無効と知って、剣を取って襲っててこられでもしたら、それまでだった…」
血の一滴が流れるたびに、命の一片が欠けていくのをルビィは感じていた。視界は
どんどん薄暗くなり、ジタンの声はまるで夢の中の会話のようにしか聞こえなくなっていた。
「そして俺は、敢えて破られるであろう作戦を実行し、最後には無謀な突撃までして見せた。
案の定、お前は油断した。いくら魔法で俺を怯まされると思っていたとは言え、魔法をかけた後に
生じる隙をまるで考慮せず、次の攻撃ばかりに意識を集中していたくらいだからな。そして俺には、
その隙だけで十分だったという訳さ」
「お…の……れ…ジ…タン…」
掠れるような声を搾り出したルビィは、ジタンに掴みかかるように両腕を突き出したが、そこで
力が抜けたのか、両腕はすぐにガクンと垂れ下がった。
「よせ、ルビィ。お前はもう助からない。今、楽にしてやるから、おとなしくしていろ」
そう言ってジタンは猫の爪を構えたが、ルビィは更に言葉を続けた。
「わ…たし…ひとりでは…死なない…」
猫の爪が一閃するのと同時に、ルビィの背後の空間が歪み始めた。
「ど…どいつもこいつも…皆殺しに……何も…かも…ぶち壊すのよ……ジークフリード!」
「委細承知」
歪んだ空間がガラスのように砕けた。異国風のマントに身を包み、巨剣を構えた逞しい巨人が
実体化するのと同時に、ルビィの首は胴体から転げ落ちた。