…が、「ぐはっ」
予想よりはるかにはやい時点でラニの背に衝撃が襲う。
息もできぬほどに背中を強く打ちつけた。後頭部も打つことになり、目を見開いても
視界が狭く暗闇と化していた。
それでもしばしの時間と共に徐々に…視界が戻ってくる、
揺れる頭で状況を見ると、地へ激突したわけではなく
ほんのわずかに突き出た「テラス」(4階)だった。
ガーネットはラニの体をクッションにして、ダメージを軽減した。
ラニを一瞥して悠然と立ちあがる。
ガーネット「まだ生きてるか、たいしたものだな。」
そう言い残しテラスのドアから通路へと姿を消す。
ラニ「こんの野郎っ…」
気力を振り絞って立ちあがり、
わずかに遅れてガーネットの後を追った。
ラニ「くそっ…折れたか。」
右足を引きずる。階段を上ろうとして、手すりに頼ることになる。
ここは…日が差さないな、暗がりの階段を歩く。「……?」
なんだ、何か・・・音が・・・
ラニ「ひっ…!」折れた足をじくに飛びのく、
背後から胴体に纏わりついた粘着性のある「何か」。
振り向き…その正体を確かめる。
アンデット兵の生き残り「たち」だった。
ラニ「寄るなあああ!」
ラニ「やっとやっと綺麗な肌に戻ったのに…!!!」
手に持った武器を無我夢中で振り下ろした。アンデット時の屈辱的な記憶が蘇り、
恐怖がラニを支配する。
一撃目が肩から入って斜めに臓腑を切り裂き、
横に払う二撃目がドス黒く腐った腸を周囲に散らす…
目の前にアンデットどもが存在し続ける限り、数え切れぬ程に武器を振り続けた。
ラニ「はあはあ…。」呼吸…を整える…。
ズタズタになった数体のアンデット兵の体を眺め、もう大丈夫だと自分に言い聞かせ、
背を向けた。そしてガーネットを追うことを考える。……そのとき
ぐじゅるっ…何かの音。
振り向くとぐにゅぐにゅと散らされたアンデットの肉片が動き体内に戻ろうとする
ラニ「そ…ん…な…」
自分自身に静かに問う…今手にしている武器の属性はなんだったか…?
ラニが手にしている「ポイズンアクス」こそが呪われしアンデットの体に活力をもたらした。
それは…切り裂くホラーシーンを巻き戻しで見るかのような光景だった。
肩先から割れた体…それがバチンっとつながる
上半身と下半身が互いに求め合ってつながり、むくリと身体を起こす。
戻る勢いで体液を散らしながらも傷口が泡をたてて塞がれてゆく…
それ以上は見なかった。
ラニは通路を駆けぬけ、階段を駆け登る
それでも背後で「音」がし続ける。
ラニ「いきど…まり…」
階段を駆け登った時点で鉄扉に出くわす…手をかけるも施錠された強固な
鉄扉は開くことはない。
……アンデットに血を吸われた人間も…アンデットに…
そして、それを治すことができる唯一の方法は……。シド大公…そして魔技師らの顔が浮かんで一瞬で消えた。
肩に手が置かれ力づくで振り向かされる
ぐじゅりと腐敗しところどころ骨が剥き出しにされた人の手だった。体液が垂れ糸をひく…
ラニ「いやああああああ!!!」
叫び声が響き渡った。