アレクサンドリア許さない×2〔DISC5〕

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381>106の続き
『分からないのかしら? それとも答えたくないの? まあいいわ、私が教えてあげる。貴女は
結局、ジタンに従っていたいだけなのよ。何故だと思う? 巨視的にはジタンの行動が正しいから?
それとも貴女がジタンに対して個人的に好意を持っているから? それも間違いじゃないけど、
真相の本質とは少し違うわね』
『…それなら…どうして?』
「本物」のミコトは、搾り出すようにしてやっとそれだけ言った。
『あら、本当に分かっていなかったの? 貴女って、私たちの一部にしては少し察しが悪いわね。
さっき、ブラン・バル最後の日を思い出させてあげたのは何故だと思うの?』
『…あれは貴女が…』
『そういう事よ』
「もうひとり」のミコトがいかにも得意そうに言った。
『あの日貴女は、生きる目的を失って、そのまま死ぬつもりだった。でも、それは間違いだって
ジタンが教えてくれたのよね。生きる目的は誰かに与えられるものではなく、自分で見つけるものだって』
『…そうよ。だから私は、このガイアで新たな人生を生きる決意をした…』
それを聞き、「もうひとり」のミコトの口元に悪意ある微笑が浮かんだ。
『見つけたの?』
『…え?』
虚を疲れたのか、「本物」のミコトは珍しくうろたえた。
『見つけたのか聞いているのよ。生きる目的を』
『…それは……』
「本物」のミコトが口篭もったのを見て、「もうひとり」の悪意が明白に強まった。
『そう、貴女は見つけてない。ジタンは言ったわよね。「何のために生を受け、そして生きるのか…」
それを見つけろって。でも貴女はそれを見つけなかった。いえ、見つけられなかったと言った方が、
多分正しいわね。貴女は、ブラン・バルにいた頃から何も変わっていない。自分というものが、
なにひとつ存在しない空虚な人形──それが私たちなのよ。貴女がジタンに従っているのは、貴女が
自分で選んだからじゃない。彼をガーランドの代わりにしているだけ…何も無い空っぽな私たちに、
生きる目的を与えてもらっているだけなのよ…』
382名無しさん@LV4:2000/10/30(月) 01:12
一気にまくし立てた反動か、少し疲れたような声で「もうひとり」のミコトが言った。
『そう、貴女は生きる目的を見つけていない。そしてこれからもずっと…永遠に見つける事ができない。
心の底ではそれが分かっているから、貴女はジタンが死ぬ事を極端に恐れているのよ。ジタンの意思に
従う事を何より優先するのもそのせい…。ガーランドが死んだ今、ジタンが命令してくれなければ
どうにもならないものね、私たちは』
『…違う…私は……自分の意志で…』
そうは言ったものの、「本物」のミコトの瞳は、急速に虚ろな色に染まりつつあった。
『まだ抵抗するの? 抵抗すれば、それだけ貴女の苦しみが増えるのよ? 私たちには、生きる意味が
何も無いんだから、黙って死を受け入れるべきなのに。…いいわ、もうひとつ教えてあげる』
「もうひとり」のミコトは「本物」の背後からそっと首に腕を回し、顔を近づけて耳元に囁いた。
『あの刺客たちの人質になった時、私たちは抵抗したわよね? 何故?』
『…ジタンの…足手まといにはなりたくなかった…だからよ』
『そうね。あの刺客たちの言葉を聞いて、確かにそんな心配もしたわ。でも、それが無くても、貴女は
同じように無謀な抵抗をしたはず。だって「ミコト」は死にたかったんだもの』
『…嘘よ…私は死にたくなんか…』
「本物」の言葉を最後まで聞かず、「もうひとり」は話を続けた。
『私たちは言ったわよね。合理的な判断をするジタンに、人質なんて無意味だって。それはつまり、
ジタンが私たちを見捨てるだろうって事でしょ? 「ミコト」が死ぬより恐れていたのは、ジタンに
見捨てられ、不必要だと切り捨てられる事…。だから私は──「ミコト」は、そんな現実を眼前に
つきつけられる前に、いっそ自分から死んでしまった方がいいと思ったのよ…。どう? 私の考えは
間違っているかしら?』
「本物」のミコトがぺたりと座り込んだ。その瞳からは、本人も知らぬうちに涙が溢れていた。
無意識のうちに、「もうひとり」が言った事が正しいのだと認めていたのからかも知れなかった。