ーアレクサンドリア城門ー
「門番」の役わりを命じられた男がいる。その横を一人のリンド兵が通りすぎた。
ちょっとした違和感を感じて振り向くと、細身の体格から「女」であることに気づく。
リンドブルム陸軍の中ではめずらしいことだった。
「どこへ行くんだ?」呼びとめる。
「……。」
「しかし…ひどい血だな、大丈夫なのか?」
「これは敵兵の返り血です。ご心配なく。」
懐から、布袋を取り出す。
「敵兵が持っていたものです、私にはよくわかりませんが、バハムートという
召喚獣に関わる原石ですとか…。その中でも特殊なものだそうです。
エーコ様に直接献上致したく、上官の許可を得て参りました。」
「なんだと…褒美でも欲しかったか?」
「はい…そうです。献上する際に嘆願したき事があります」心痛な女の声。
「そなたも女だてらに兵士の身。余程の事情あってのことだろう
話してみよ。内容によってはつないでやる。」
「…私はわけあって国境を挟んで別々に暮らす弟がいました。
私はリンドブルム兵に、弟はアレクサンドリア兵に…。その弟が捕虜として捕らえられました。
弟の命を助けていただきたいのです。」
「…ふむ。」
口元に手をあてて、しばし考え込む。
「わかった、掛け合ってみよう。」
ーアレクサンドリア城内ー
1歩城内に踏み込むと、アンデット兵の処理に追われているものも目についたが、
ほとんどは敵国を落とした喜びに沸き立っている。門番はある男の姿を見つける。
「ここで待っておれ。」
門番はそういって、大尉の元に駆け寄る。いくらか二人が会話をしたあと、
女兵士のところに大尉一人が歩いてくる。
「話しは聞いた。ついて来い」
「……はい。」
ー会議室ー
「ここ…ですか?」
会議室としるされた場所。ドアを開けても人の気配はない。
大尉だという男は椅子を引き座るように勧める。
「…エーコ様はどちらにおいでるのですか?」
「わからぬ。城内にはいらっしゃるはずなのだが…、まあ、
捕虜一人の身ぐらいならば俺の権限でどうにかしてやろう。」
「……」
「整った顔立ちだ。兵にしておくには惜しいな。」
「ありがとうございます。」
「弟とやらの事はまかせよ…その代わりに」
そう言いながら男の手は女兵の肩に置かれる。
「……やめて下さい。」
毅然とした声。その頑なな表情にこそ食指を動かされた。
アレクサンドリアを攻め落とした興奮も手伝った…。
「いい女だ」
横顔を覗く。
「しかしそなたの顔…どこかで…?」
女の肩を強く掴んで正面を向けさせ、顔を覗く。
弟思いの健気な女兵は、一瞬口元に笑みを浮かべたかと思うと眼光が鋭い
目付きに変わる、その顔がゆっくりと威厳に満ちたものに変わって行く。
「……敵将の顔もわからんのか……」
そう言った。
(ガーネット…!)しかし、そう叫ぶことも許されない。
一瞬のうちにガーネットの剣が男の気道を切り裂く。
男は喉元に手をあて見る間に赤く染まる己の手を眺めることになった。
「う…く…」
「の…話…も嘘…というわけか…」
まったくの嘘というわけではない。「逆」ではあったが。