生命活動が著しく低下したアンデットの体は
麻酔薬によって、さらに脈を低下させていった。助手が数値をのぞく。
助手「脈拍は一分に6回、体温は26℃です」
アンデットの禁術の魔力を相殺させるAの魔導レーザー
そして、体力の回復を促すヒーリング型のBの魔導レーザーを微調整しながら照射する。
ヒーリングの力はアンデットの体にダメージを与えるし、
体の回復を待たずにアンデットの禁術を解けば遺体にもどるだけである。
損傷した体が復元し身が盛り返したと思うと、プシュッと音をたてて身の一部がはじけた。
手元が狂うだけで、わずかな生命の灯が消えてしまう。技師と助手に緊張の時間が続いた。
それでもやがて…肌に人間らしい血色が徐々に戻りはじめる、
技師「なんとか、うまくいったようだな。」
時間にすると2時間足らずであったが、かなり神経を費やした。額の汗をぬぐった。
助手「?どうしましたか。」
技師「……」
まだ眠りから覚めぬガーネットに毛布をかけようとして、ふと技師の手が止まった…
「冗談じゃないよ」
ラニはトレノの街を眺めた。忘れられない日々の記憶が頭に張りついたままだ。
ガーネットの手により無理やり蘇らされてアンデットの姿でトレノの街をさまよった。
今のガーネットのように生前の姿や理性を残したアンデットでなく、
体からはウジが沸いて、顔が崩れ、脳が朽ちたせいか思考力も低下した。
意識朦朧とするなか、食べれるものなら何だって食った、そうドブネズミさえも…。
……堅い体毛に震える歯をたてて生肉を食いちぎった。
まだ息のあったネズミはヂヂヂと声をあげて指先に噛みついた。
もはや人間の尊厳も何もない行為だ。それでも喉が乾き腹が減る。
死にたくないと言う感情だけがそのときのラニを支配した。
口の中にまとわりつく毛皮の不快感に苦戦しながらも肉を飲みこみ、
再びネズミの肉を食いちぎった。生血が口元を汚した。
それはとても惨めで、悔しく…腐った体液の涙が目からあふれでた。
ラニ「……」
あの女が嫌いだ。理由はそれだけで十分だ。
ガーネットに荷担する魔技師たちにももう義理はない。
ほんのひととき目を閉じて、
再び目を開ける。「気持ちの切り替え」の儀式はそれで終わった。
極悪非道とうたわれた賞金稼ぎのラニへと戻る。
ポイズンアクスを強く握り締めた。賞金を前にした高揚感だけがラニを包んでいた。