『…とどめ? どういう事なの?』
『私たちがパラメキアに侵入した敵と戦って、重傷を負ったのは覚えているわよね? 今見ている
この夢は、そうやって意識を失った状態の中で見ているものなのよ。普通の眠りの中ではなくてね』
言われてミコトは思い出した。ジタンを滅却すべく、パラメキアに侵入してきた二人組の男女…。
ミコトは彼らと戦い、そして敗れたのだ。
『…それと何の関係が?』
『私たちの肉体は、本来ならば最後の攻撃を受けた時に死んでいたはずだったのよ。けれども貴女は、
魔法の力、そして意思そのものの力で、消え行く命を無理矢理現世に繋ぎ止めた…』
ミコトは、彼女をジタンへの人質にしようとした二人組に抵抗し、彼らの攻撃を受けて意識を失った。
「もうひとり」の言う事が正しいのなら、その時ミコトは死ぬ筈だったらしい。確かにその時には、
少し前に使ったリジェネの効果が持続していたし、「死にたくない」と強く思った記憶もあった。
そのおかげで死を免れたと「もうひとり」のミコトは言いたいのだろうか?
『う〜ん、惜しい! だいたい正解なんだけど、少〜し違うわね』
「もうひとり」がひどく軽薄な調子で喋るのを、「本物」は幾分複雑な思いで聞いていた。
『違ってるのは「死を免れた」ってトコね。実際には、まだそう言いきれる状態じゃないのよ。
私たちの肉体は今、生死の境ってヤツを彷徨ってる真っ最中だわ』
『…それなれば何故、貴女は私の心にとどめを刺そうとするの? 貴女の言う事が事実だとするなら、
私の意思があるからこそ、私の肉体はまだ死んでいないという事になる…』
『決まってるじゃない、死んで欲しいからよ』
「もうひとり」はあっけらかんと言った。
それを聞いて「本物」のミコトは困惑した。
『…何故? 貴女も私の意識の一部…私が死んだら貴女も一緒に消えてしまうのに…』
『う〜ん…どうやって説明したらいいのかしら?』
「もうひとり」のミコトは少し困ったような顔になった。
『そうね…私は「ミコト」という存在の意識の一部ではあるけれど、貴女の意識という訳じゃない。
貴女も私と同じ「ミコト」の意識の一部であって、「ミコト」そのものじゃないんだから』
しばらく考えてから「もうひとり」のミコトは語り始めた。
『「ミコト」という人格は、貴女や私を含めた、多くの意識の集合体というのが、一番正解に近い
表現になるのかしらね。で、その意識たちの中には、このまま死んでしまう事を望むものもいる…
例えば苦痛を司る意識の一部には、生と死の狭間で地獄の苦痛を感じ続けるよりは、さっさと死んで
楽になりたいという考えもある訳よ。で、私は死を望む意識たちの代弁者であって、生にしがみつく
意識の代表である貴女を殺しに来た…うん、うまく説明できたわね』
そう言うと「もうひとり」は満足そうに頷いた。