古本屋で入手した「うちゅう戦艦矢的」の本。「熱血小説」という冠のついたコレ
は同人誌ではなく、20年以上前に発行された小説なのですが、コバ●ト文庫等
で発行された数々の矢的小説とはまったく毛色の違うシロモノです。
装丁もハードカバー衣装ケース付きと非常に凝っているのですが、ケース表の
矢的のイラストはともかく、裏にはレンブラントの版画の出来そこないのよう
な、中途半端なカゲのついたデすらー総統の上半身が、椅子噛んだる星と蛾見
らす星をバックに無表情なカメラ目線で左腕を上げており、手はぐーという、
どう見ても中途半端なガッツポーズをお取りになっております。もうこれだけ
でへの香りが立ち込めてきます。
内容は矢的TVシリーズ第一作目を、著者独自の解釈でアレンジなさっておられ
るのですが、このアレンジが超クセモノ。何せ20年前の本、しかも著者はこの
当時、すでに相当ご高齢だったようで(70代?)、もう全編にわたってお年よ
りテイストが蔓延しておりまして、地文による異様なまでの起き田艦長マンセ
ーぶり(例・「病苦もなんのその、起き田艦長はあらゆる処置を果断に命令す
る。なんという偉大な精神力の持ち主だろう」)だとか、凄まじく江戸っ子口
調でしゃべる誇大(例・「何をバカな。二人で来たのに一人で帰れますかってえ
ーんだ(略)さあ、僕の背中におぶさりなさいよ」(原文ママ))などは日常茶
飯事。都心ではなく伊豆七島から落ちる遊星爆弾、「地球に運んだらバイキンの
獲物になって腐敗するから」を理由に、サーシャを埋葬もせんと不時着した宇宙
船にほっぽらかしにしてきた誇大と縞など、もう数行ごとにツッコまずにいら
れません。
それらを取り上げるとキリがないので、中でも最高に私をモニョらせてくれた章を
語らせて下さい。矢的をまったく知らない方には申し訳ないのですが…。
コスモ栗ー奈ーを物乞いしに行くという椅子噛んだるでのお使いも済み、意気揚
揚と地球に帰還する矢的一行。しかし、もうちょっとで地球というそのとき、復
讐に燃える出すらー総統と部下の皆さんが矢的に乗り込み、放射性毒ガスをばら
まきまくります。このままじゃ誇大クンが死んじゃうとばかりに、コスモ栗ー奈
ーを動かす盛り逝き嬢。彼女のお陰で放射能ガスは一掃、出すらーも追っ払いま
すが、それと引き換えに、ガスを吸い込みまくった逝きは哀れ帰らぬ人に。
…と、ここまではTVシリーズにある通り。ここからが肝心です。
逝きの死体を目前に、なぜ一人で死んだッと叫びまくる誇大。骨も砕けよと遺体
を抱きしめ、男泣きに泣いた後、遺体を抱き上げフラフラと艦長室に行ってしま
います。かなりキてます。つーか何故艦長室?
艦長室には当然起き田艦長の姿。早く地球に帰還報告をせいと、のんきに誇大に
話しかけます。逝きの屍に対するコメントはなにもありません。
すると誇大「できません。盛り逝きが死にました。もう何もかもおしまいです」
動揺しているのは分かりますが、いくらなんでも短絡すぎです誇大クン。
当然艦長に怒られますが、そのとき佐努先生がやってきて逝きの屍を診察。
すると、万に一つ効くかも知れんと誇大に人工呼吸をかますよう命令します。
しかし、「童貞のススムは恋人盛り逝きの体に跨ることは、なんとなく性交の体
位(「ラーゲ」のルビ付き)に似た気がして面映く〜」(原文より)
と照れちゃいます誇大クン。そんな場合か。つーか、まがりなりにも子供がター
ゲットである小説で主人公が童貞などと書いていいのでしょうか。
なんだかんだで逝きにまたがった誇大クン。まず逝きの心臓マッサージをします
が反応はありません。ベソをかいてしまう誇大に、差怒先生はそれなら口で思い
切り肺の中の毒ガスを吸い出せと申します。人前でそんなちゅーなんかとぐずる
誇大に、早くやれエと差怒先生。佐灘・縞の両名もそばで見ていますが、「いさ
さかも猥褻感を抱く気持ちではなかった」だそうで、しかしそんなそんな言われ
方されると、読んでるこっちの方が猥褻感を抱いてしまいそうです。
純情な仲だったのに…と心の中でグチりながら必死の人工呼吸に取り組む誇大。
そして、…嗚呼、まさしく愛の奇跡!(挿絵の文章より)逝きはめでたく甦りま
す…が、目を覚ました彼女、誇大に人前でちゅーされそうになってることに気が
つき、びっくりして誇大を突き飛ばします。あわてる誇大。その様子に艦長その
他いつの間にか増えていたギャラリー全員吹き出し、一同ワッハッハ。艦長室に
春風が吹き通ります。
一件落着かと思いきや、収まりのつかない逝き。まだうら若い処女である彼女は
人前でちゅーされたことと、「あられもないラーゲ」を見られたことが恥かしくっ
てたまらないのです。だからあれは人工呼吸だっちゅーに。
いつまでも膨れている逝きに、誇大もさすがに逆ギレし、測距儀室なる場所で痴
話ゲンカをおっぱじめます。
「ふん、それが命の恩人へのご挨拶かい。お前さんあン時や、死んでたんだぜ、
毒ガスを吸い込んでよ。おれの人工呼吸のおかげで生き返ったくせに、その態
度はなんだ、あばずれ」
おエドでご猿の脚本でも読んでるのかと錯覚するような口調もさることながら、
罵り言葉はボギャブラリー不足丸出しです誇大クン。あばずれ発言にキレたのか
逝きは誇大を「処女の唇を盗んだ痴漢」と罵ります。恥かしがりやのうら若い乙女
が、処女だなんて口にするのはどうかと思われ。
「僕を痴漢だと言うのは、僕がこうしたからか、コラ逝きッ」
そう言って、逝きにちゅーする誇大。
「ム、ク、ククッ、ああッ……」という逝きの声からも、その激しさが伝わってく
るようです。そして長い長いせっぷんの後、
「バカ、ススムのおバカさん、愛してるのよッ」
「おれも、おれだって逝きが好きだッ」
そう言って、も一回ちゅーする二人。気になるのが、ここで「四つの唇が一つに合
わさった」と書かれていることです。四つ…四つか……モニョ
宇宙空間なんのその、また吹いてきた春風に包まれてラブラブな誇大と逝き。そ
の頃艦長室では、起き田さんがご臨終だったのですが言うだけヤボでしょうか。
以上、「57 復活の盛り逝き 愛の人工呼吸」(本当)でした。長文スマソ。