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>>227より続き)
『…”鬨の声をあげよ。主はあなたたちにこの町を与えられた。町とその中に
あるものは、ことごとく滅ぼし尽くして主にささげよ”』
マレイヤは目線を宙に泳がせながら、唐突に呟く。
「ハァ? いきなり何言い出してんだァ?」
『Case White…いや、”作戦名:聖絶”と言った方がいいかしら? その前文よ。
あなたも読んでたはずよ、同志インコンパラブル』
「どうして俺様の上の方々は、あんたも含めて小難しい言い回しをしたがるん
かねェ? 要は”カッタの信者はまとめて逝ってヨシ!”っつーこったろ?」
『要約のしすぎね。まぁ、確かにその通りなんだけど』
旧約聖書ヨシュア記第6章−神の啓示を受けた預言者ヨシュアが御心のままに
ふたつの街の住民を悉く殺戮していく様が描かれている−から引用された前文
より始まるその作戦書は、”聖絶”の名が示す通り一方的な正義の行使による
他者−ここでは徹夜・悪臭・行列・転売・暴動…その他諸々の不祥事の殆どを
担っていたカッタ列の者達を指す−の殲滅を究極目的としていた。
”古き良きコミケを我等の手に取り戻すために”
こうしたスローガンのもと彩られた美麗字句を散りばめながら、普通ならば
妄想の産物として一笑に付されるような類の殺戮計画が延々と綴られていた。
だが、その計画が妄想ではないことを嫌がおうにも確信させられる”ブツ”を
彼等はお互いに所持していた。
『ところで、あんた”例の物”持ってきてるんでしょ? さっさと交換するわよ』
「おいおい、俺達のデートはまだまだこれからだぜ? ベイベー」
言い終わらぬうちに、マレイヤの鋭い眼光がインコンパラブルを射抜く。
「…躍進めざましい新任幹部様はジョークがお気に召されないようで、ヒャヒャヒャ」
マレイヤはその皮肉を聞き流し、小脇に抱えていた紙袋を前に突き出した。
その様子に観念したように、インコンパラブルも自らの紙袋を持ち直す。