今日のお風呂は一時間で切り上げた。桃子にしては短い入浴時間だ。今
は大きな鏡の前で、バスタオルを使って熱心に体を拭いている。鏡には、
肌の白い、均整のとれた肢体の女の子が写っている。
お湯を吸って重くなったバスタオルを洗濯籠に入れると、桃子はショー
ツを履いてパジャマを取り、しばらく考えたあと、またショーツを脱いで、
パジャマと一緒に脱衣籠にいれた。そして、さっきまで使っていたものと
は別の、新しいバスタオルを体に巻きつけた。
どうせ部屋にもどったらすぐに脱いでしまうからだ。
早いから今のうちに慣らしとくのさ。
自分の部屋に戻ると、桃子はそのまま、柔らかく大きなベッドの上に、
ぽすんと倒れこんだ。清潔な綿のシーツの感触が、肌に心地よい。これか
ら始めることに高揚感を感じながら、桃子は目をつぶったまま、くすぐっ
たそうな笑みをもらした。
いつのまにバスタオルがはだけていた。すっかり桜色に染まった手足から、
背中から、濡れたうなじから、おしりから、ほこほこと湯気が立ち
昇っている。湯上りの桃子のおしりは、室内灯の光を浴びてまるで白桃
のようだったが、本人はそれを知るすべもない。
全裸でベッドにうつぶせたま、ゆっくりと深呼吸をしてみる。洗いざらし
のシーツの洗剤の香りにまじる、布団に残った自分自身の匂い。
ここが確かに自分の領域なんだと五感で納得した桃子は、ようやく安堵
できたような気がした。
「ここでなら、いくらでもすることができる。誰も邪魔しにこない」
そう確信できた瞬間、今まで抑えていた劣情がとめどなく溢れてくる。
桃子はゆっくりと起き上がると、部屋の電気を消した。カーテンごし
の月光が、桃子の小さな裸を青く照らす。
しばらくの間、カーテンごしの窓をながめて、自分を監視する者などいな
い事を確かめると、桃子はもう一度、自分の匂いのするベッドに身を預
けた。
午後の授業時間から、ずっとこの事だけを考えていた。自宅に帰ってから
は、食事中も、お風呂の中でも、頭に浮かぶのはこの瞬間のことだけだった。
お風呂では、あわや湯船の中で始めてしまうところだった。シャワーを股
間にあてようとするのを脅威的な忍耐力で抑えつけ、我慢した。でも、も
う我慢する必要はない。
桃子は、手始めに、端によけてあった毛布と掛け布団を引き寄せ、横に
なったまま抱きしめた。こうすると落ち着くのだ。毛布のすこしちくちく
した感触が、ようやくふくらみ出した胸にちょこんと突き出た乳輪を刺激
する。
掛け布団が抱きやすい形になると、桃子は腕を離し、上半身を起こして
バスタオルを手にとった。そして掛け布団と体の間に差し入れるように敷
くと、もう一度抱きしめた。今度は同時に、肉付きの薄い太ももでも挟み
こんだ。
「ふうぅぅぅ…(はぁと)」
今日はじめて漏れる、満足気な吐息。布団を胸におしつけるように、下に
なってる左手で抱きしめると、次は、上側の右手を胸のほうに這わせる。
その間も、太股は、掛け布団をしっかりと絞めあげ、おなかにすりつけた。
掛け布団と、自分の体の間に差し入れた右手で胸の位置を探り当てると、
桃子は自分の左の乳首を乳輪ごとひねるようにいじりはじめた。
やや乱暴に扱うのがコツだ。親指と人差し指で擦るように、揉み続けると、
すぐに小さな乳首が起ち上がる。
「ぁ…」
思わず声がもれる。桃子は慌てて、抱きしめていた布団に顔をうずめる。
「んん…」
いったん右手を離すと、今度は、手のひら全体を使い、乳首を転がすよう
に胸を撫ではじめる。
撫でるように蠢く手のひらの下では、左の乳首が形を変えながら健気に起
ち上がっている。その感触に満足を覚えると、今度は右の乳首にも同じ事
を繰り返した。
胸への刺激はあまり快感を与えてくれないけれども、気持ちを昂ぶらせる
のには良い行為だった。自分にとっては。
桃子はそれを、身をもって習得していたのだった。
しばらく胸を弄んで、ようやくその行為に飽きると、今度はゆっくりと右
手を下にずらしていった。指がぷっくりしたおなかをなで、臍をくすぐり、
そして下腹部を目指していく。その間も腰をゆすり掛け布団にすりつける。
期待が高まり、桃子の呼吸は自然に荒くなった。
「ふぅふぅふぅふぅ…」
規則的な呼吸音が、布団ごしにもれる。綿のつまった布ごしの呼吸は正直
いって苦しかったが、やめれば声が漏れてしまう。となりの部屋にはママ
が寝ているのだ。いや、まだ起きているのかも。
それに、苦しい呼吸は桃子を興奮させた。それも自分も昂ぶらせるため
の桃子なりの儀式なのだ。
桃子のかわいらしい指が、臍を越えて、まるく小さく割れた丘まで達し
たとき、快感への期待の高まりは最高潮に達し、体がうち震えた。
それは、プレゼントをもらった時、包み紙をあける瞬間の喜びにも似てい
る。手に入れる直前の、未知への期待と、我が物に出来る確信の喜びだ。
その喜びをもう少し味わいたくなった桃子は、丘の直前でいったん手を
休めた。そして人差し指と中指を離すように広げ、丘を避けるようにして
ゆっくりと手を進め直した。
人差し指と中指が、ぷっくり割れた二つの丘の頂上を通りすぎておしりの
穴の前で揃ったとき、手の甲に湿った感触を感じた。さきほど敷いたバス
タオルに、桃子の悦びの証が染み込んだのだ。
始めてすぐでこれとは、と、桃子は我が事ながら飽きれてしまった。と
いっても、他の女の子がどれ程のものなのか、桃子は知らない。
こうなることを察して予めバスタオルを用意した手回しの良さを自賛する
ことなく、桃子の指は二つの丘の頂きを忙しくなでる。指でなでながら、
手のひらのところでは包むように、ソフトに刺激する。
その感触にじれったさを感じ始めた時、二つの指の間の開きが自然に狭ま
った。二本の指がぴったりと揃ったときには、いつのまにか薬指も加わり、
ぬめる三本の指がスリットの上を往復していた。
溝にそって三本の指を大きく滑らせる。滑らせながら、中指に圧力を加え
ると、肉の丘は二つに開いて中指をくわえ、水っぽい音をたてた。指が包
皮ごしにクリトリスの上をなでるたびに、快感が高まっていく。
「ちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっ…」
桃子のすべらす指の動きにそって、規則正しく小さな水音が響く。中指
は、あっというまにぬるぬるになってしまった。それに負けない速さで、
桃子のあたまの中も真っ白になっていく。
「ああぁ…!」
いつのまにか顔が布団から離れてしまい、声がもれてしまった。桃子は
また掛け布団に顔をうずめたが、今度は口を大きくあけてそれに噛みついた。
その様子は、布団から顔を離さない為というよりも、まるで溺れた人間が、
空気を求めて水面に向かって必死に首をのばす様子に似ていた。
「ふぅ…ふぅ…ふぅ…!」
それが合図だったかのように、指の使い方にも変化が現れた。人差し指と
中指で小陰唇の付け根のあたりを押さえ、左右に開く。そして、中指の先
の腹の部分を使い、熱くほてったクリトリスを包皮ごしに転がす。
桃子は膣口はあまり刺激しない。男と女がセックスするとき、そこにお
ちんちん入れるということは知っていた。何度か指を入れて試してはみた
けど、ちっとも気持ち良くなれなかったし、下手に動かすと痛かったので
それ以来やめにした。今はもっぱら中指で潤滑油をすくう時に撫でる程度
だ。
桃子は、快楽を求めて必死に中指を動かした。クールでマイペースと自
他ともに認める桃子が、熱く必死になっている。
中指を動かすたびにクリトリスはジンジンとしびれ、頭の中も真っ白になっ
ていく。くちゅくちゅという音は大きくなり、桃子の呼吸もどんどん早
く荒くなった。
「気持ちいい!気持ちいい!気持ちいいよぅ!!」
頭の中で、桃子はそのことばだけを繰り返えしていた。いつのまにか、
中指の動きにあわせ腰も揺すっている。今や全身を使って快感をむさぼっ
ているのだ。ゴールを目指してスパートするかのように。
足の指が、なにかをつかむかのように開いたり閉じたりを繰り返しはじめ
た。腰を揺すりながらも股の付け根に力がはいり、細かく震える。その直
後、桃子の頭の中で火花のようなものがはじけた。
「ふあああぁぁぁぁ…!!」
「…ふぅ…ふぅ…ふぅ…」
「はじめの」ゴールを迎えたあとも、桃子はゆるゆると自分の性器を慰
めつづけた。燻りはじめた性感に火を付け直してまたたくまに、もう一度
絶頂に達し、それを何度も何度も繰り返したあと、桃子は失神した。
あれからどれくらい時間がたったのかわからない。いつのまにか仰向けに
寝ており、小さな胸が上下する。呼吸は落ち着いていた。失神から覚めて
放心している桃子だが、それでも指は性器を慰めている。
ぷりぷりした小陰唇に指を添え、戯れになぶっていると、昼間のトイレの
なかでふと浮かんだビジョンを思い出した。
裸のさつきちゃん。
柔らかく膨らむ丘をふたつに割る裂け目。
ぴったりと閉じて奥まっている、さつきちゃんの大事なところ。
「わたし、なんでさつきちゃんのことを考えているんだろう?」
しかし、その疑問は疲労による眠気によってたちまち曖昧になってしまっ
た。急に寒さを感じた桃子は、毛布と掛け布団を引き寄せてくるまると、
丸くなって寝てしまった。続きは夢の中で考えようとでも言うように。