日垣 隆・総合スレ★18

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432無名草子さん
 商品の美味そうなソーセージが、ずらりと並んでいる。
その手前には、細かく輪切りにされた、そのソーセージに爪楊枝が刺された
試食品が置かれていて、その横にはこう書いてあった。
「どうぞ御自由にお取り下さい。」
 
 普通のまともな人間ならば、爪楊枝が刺された物を取って、買うかどうかの
参考にしていたであろう。ところが、そこに現れたチワワは違った。
外見こそチビで、老いぼれてみすぼらしい哀れな小動物だったが、中身は
この世に生れ落ちてから、まともな躾がされたことのない野獣だったのだ。
腹をすかせた野獣は、いきなり売り物のほうのソーセージを、口一杯に頬張る
やいなや、猛然と金も払わずに入り口に向かって、ダッシュしだした。

 呆気にとられて、周囲の人間は見ていたが、やがてすぐに騒ぎ出す。
それを聞きつけて、駆け付けた警備員が、勢いはあったが悲しいかな、足が
短くて逃げ足の遅かったチワワを、取り押さえることに見事に成功する。
その途端、浅ましくも悲痛な小動物の咆哮が、店中に響き渡った。

「どうぞ御自由にお取り下さいと、書いてあっただろうがッ!舐めんなよキャンキャン」

 その一部始終を偶然見ていた通りすがりの子供が、手を握って連れ立っていた
母親に、こう呟いた。「ねえマミー、あのチワワは可愛くないし、悪いドロボーのチワワ
だよね。あのチワワこそ、小間切れにして、カナディアンロッキーの熊さんの餌に
しちゃえばいいのに。」