619 :
美麗島の名無桑:
台湾で蛇に包囲された(上)
昭和10年代、幼少年時代に台湾にいたが、そのときのヘビとの遭遇の
思い出を…。
台湾には台湾コブラや台湾ハブなど、いろいろな毒蛇がいた。
ヘビに噛まれても新聞には載らないが、かまれた箇所を自分の蕃刀で
抉り出して助かった「勇敢」な
高砂族(原住民)の青年の記事を見たことがある。
当時の台南の官舎が草ぼうぼうの原っぱにあったため、
たびたびこれらのヘビに出会った。
なかでも官舎がヘビに囲まれたことは、いまでも忘れらない。
日本内地から呉服のセールスマンが我が家に来たとき、
玄関の溝にオトナの腕ほどの太さの
大きなヘビを見つけて、棒でつついが動かない。
私は玄関のそばの出窓からその様子を見ていた。
和服を着て足袋をはいたセールスマンが、腰をかがめて棒を使っていた。
男のくせに、白い「腰巻き」をしていた。
とにかく大きなヘビだったが、種類は分からなかった。
そのとき、裏の庭につないでいた愛犬が突然吠え出しした。
台湾では「犬が吼えると、きっとヘビがいる」といわれていた。
縁側に出てみたら案の定、かなりの大きさのタイワンハブがのんびり
這い回っていた。
ふと廊下の下の床下の空気孔を見下ろしたら、なんとここにもヘビがいた。
タイワンコブラで、
孔から50cmほど這い出してきた。
棒を持ってきて叩いたところ、鎌首をもたげてプシュップシュッという
声を上げて向かってくる。
頭の付け根が、杓文字のように平たくなって、黒い舌をチョロチョロ出していた。
そのとき、母が台所から「ここにもいるよっ!」と叫んだので駆けつけら、
台所の勝手口のそばのフロの焚き口に
、タイワンコブラが這いこもうとしていた。
持っていた棒で追い出した。
玄関と裏庭に勝手口と、我が家はヘビに囲まれてしまった。
家の中には幼稚園から帰った私と母の二人だけ。
姉はまだ小学校から帰っておらず、父も連隊から帰っていない。
二人だけで、戸締りをしてじっとしていた。
心細かったが、スリルもあった。
1時間ほどして、当番の兵隊さんが数人官舎の掃除のためにやってきた。
勝手口を開けて「奥さんただいま参りました」という声にびっくりした。
扉を開けるとヘビが入ってくるかもしれないからだ。
そこで母があわてて「そこにヘビがいるから気をつけて…。家の周りに
ヘビがいますよ」といった。
ところが兵隊さんから「ヘビなんていませんよ」の返事が返ってきた。
ほっとした。我が家を包囲したヘビどもは退散したのだ。
安心して外へ出たところ、たしかにヘビはいなかった。
ところが、兵隊さんたちが風呂の排水口のなかに棒を突っ込んでいる。
「ここにヘビが入っていったようです」という。
なんだ、ヘビのヤツまだいたのか。
でも姿が見えないので怖くはない。(つづく)
620 :
美麗島の名無桑:2006/08/12(土) 12:04:11
621 :
美麗島の名無桑:2006/08/12(土) 12:33:29
台湾で蛇に包囲された(下)
(承前)兵隊さんが、蛇がもぐりこんだ浴室の排水口に棒を突っ込んでいるとき、
父が帰ってきた。
母から蛇の事を聞いて、父は下着姿になって兵隊さんと排水口の「ヘビ退治」に
取り掛かった。
日本陸軍の「ヘビ退治作戦」開始だ。
棒でつついても出る気配はなく、奥のほうで唸り声のようなものが
聞こえるだけ。
そこで熱湯を風呂場から流してみた。
それでも出てこない。きっとコブラだろう、根性がある。
次に、食用油を沸騰するほどに加熱して流すことにした。
こんどこそは出てくるだろうと、排水口にロープを輪にして吊り下げて待機。
頭を出したところで、一気に締め上げようというわけだ。
作戦成功!。
コブラの頭が出てきたところを、ロープで締め上げて引っ張り出した。
ズルズルと引っ張り出された台湾コブラは、幼稚園の私の背丈よりも長い。
大物だ。
ここから「捕虜の処分」で凄惨なシーンが展開さる。
兵隊さんが靴でコブラの頭をつぶして、そばのタイワン松の枝にぶら下げて、
一気に皮を剥ぐ。
それでもコブラは、びゅんビュンとのた打ち回っている。
内臓が見える。
次にその内臓を抜き、背骨までとってしまった。
筋肉だけになったが、それでもくねくねとうごめいている。
「筋肉」だけのコブラを丸めて、草履の空き箱に入れた。
蓋をさわるとなかでうごめいているのが分かる。
父は「さすがコブラだ。あとは任せる」といって家に入ってしまった。
そこへ隣のY中隊長が、騒ぎを聞きつけてやってきて、箱の蓋を開けたりして
しばらく見ていたが「これいただこう」
といってコブラを持って帰ってしまった。
兵隊さんは残念そうにしていた。
コブラは精力がつくといって食べることがあるからで
よその中隊長に「獲物」を取られたのだ。
これで我が家の「対ヘビ作戦」は終結した。
いま振り返ってみて、なんと残酷なことをしたものかと思う。
私がいた頃の台湾は、ヘビは珍しいものではなかった。
遊びに行ってもヘビに出会うことがあり、犬がヘビをくわえて
くることもある。
だのに、母からヘビについての「注意」を受けた記憶はまったくない。
いまの台湾では日常生活でへビ出会うことはほとんどないそうだ。
現地の人の中には「大陸から逃げてきた国民党のものが、ヘビを捕まえて
食べてしまったのでいなくなつた」という人がいる。
同様に、高雄の忠烈祠がある「寿山」のサルも、日本時代にはサルがいたが、
彼らが食べつくしてしまったという。(おわり)