*愛の手紙*3通目 遠いあなたへ

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649名無し@メアド公開チャット誘導厳禁
231 :そら ◆t4PtJ2UP8zgq :2009/11/21(土) 02:48:04 ID:5sYfFyfw0
「…すごかったねえ…」
まだ空を見上げたままで、しずくは言った。
「俺、あんなの初めて見た」
「私も」
それから、そらが不意にいつもの調子に戻って言う。
「でも俺、やったぜ!」
「…なにを?」
「願い事!3回、ちゃんと言えた」
「へえっ…すごい。なんてお願いしたの?」
そらは胸を張る仕草をしながら、しずくをビッと指差す。
「来月の運動会、しずくに駆けっこで勝つ!」
しずくは、ぽかんとしてしまった。それって50m競争のことか。
やがて愉快な笑いがお腹からこみ上げて、しずくはぷっと噴き出す。
「あははっ!あはは…そらって、ホントに子どもなんだから」
「な、なんだよ、何がおかしいんだよ」
「…無理だってば。私に勝つなんて」
「そんなことねーぞ!」
「ふぅん…じゃあ、追いついてごらん!」
しずくはそう言うとそらの手を離し、川原の畦道を八分の力で駆け出した。
「…あ、あっ、ずるいぞ、しずく!」
そらが慌ててしずくの背中を追いかけ始める。
しずくは走りながら思う。そらはまだまだ頼りないなあ、と。
──── でもいつか。
(ちょっとは、しっかりした男の子になってくれますように。)
流星の消える前に3回そう唱えていたことを、そらに教えるつもりはない。

そらとしずくの願いは、どちらもこの秋に叶うことはない。
願いが届くまでには、もういくつかの夏と秋が、ふたりを待っている。

(おしまい)