228 :そら ◆t4PtJ2UP8zgq :2009/11/21(土) 02:23:11 ID:5sYfFyfw0
「…なあー、しずく」
茣蓙の上に仰向けに寝ている少年が話し掛けてきた。
幼馴染で、弟のような存在だ。
これからもずっとそうなんだろうな…と、時々しずくは思ったりする。
「…なに?」
「もう帰らね?」
「…眠いんでしょ?そら」
しずくは笑った。私はまだ全然平気だよ。
「眠くないけど…もう退屈だしさ」
「いいよ、帰ろ。おじさんに言ってくる。一人じゃ怖いんだよね」
「…ち、違うぞっ」
ムキになる少年を尻目に、しずくは大人たちが集っている場所へ向かう。
そらの父親に先に帰ることを告げると、
頼むわしずくちゃん、と陽気な答えが返ってきた。
提灯と祭囃子の境内を離れ、階段を下り始めると世界は一転して闇に包まれる。
「…つなぐ?」
しずくが手を伸ばすと、少年は黙ってその手を握り返してくる。
階段の両脇には背の高い木々が生い茂り、月や星の光を遮って暗い。
時折、がさり…と闇が動く音がする。
そのたびに、しずくの手がギュッと握られる。
あれは狸だろうか、鼬だろうか。
──── それとも、もっと別の何か、だろうか。
階段を下りきると、この町を東西に貫く幅広い川が目の前に広がる。
夏のあいだは、子供たちの最高の遊び場になる。
深い木々の被いから解放されて見上げる空は満天の星だった。
闇から解放された二人の耳に、川のせせらぎが聞こえだす。
川向こうの田圃からは、蛙の声が響いている。
のどかな田園の町の、秋の夜がそこに広がっていた。