227 :そら ◆t4PtJ2UP8zgq :2009/11/21(土) 02:13:07 ID:5sYfFyfw0
星の季節がやってくる。
そう思うと、しずくは夏が過ぎるのを許せるような気になる。
大好きな夏が終わるのは、もったいない。
抜けるような青い空。輝くまっしろな入道雲。
耳が痛いほどの蝉たちの合唱。夏草が生い茂った畦道。
真っ黒い木々の陰から、光り輝く夏の砂利道へ飛び出す一瞬の躊躇。
そして、弟のような少年の麦藁帽子と、袖なしのシャツ。
また来年まで会えなくなる。
そのことがいつも残念だった。
でも、秋の星は好きだ。
夏の間は、少し燻って見えた夜空が、9月の声を聞くと日に日に澄んでゆく。
(…夏は、ちょっとだけ星が見えにくいから。)
それが、都会に住む人たちから見たら贅沢な感想だと、しずくはまだ知らない。
この小さな町の夜空は一年じゅう、宝石箱を億の数ほどひっくり返したようだったから。
秋祭りの晩は、子供たちも遅くまで起きていることが許される。
寺の境内ではひと晩じゅう祭囃子が鳴り響いて、
明るい提灯の下で大人たちは酒宴に興じる。
その酒席から少し離れたところに敷かれた茣蓙の上で
子供たちは仲間と語らいながら、非日常の夜の不思議さに浸ることが出来た。