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先般、汽車に乗り遅れる所で慌てふためき、切符を落としてしまうという愚を犯してしまった。
車内で、はたと気づいたのではあるが、これはキセルとも取られてしまうと思い、あれこれと
いい訳を考える始末である。診察後の心和みである車窓の景色も堪能できずじまいであった。
そうこうしているうちに、気持ちの良い汽笛とともに下車駅にたどりついてしまい、
いい訳の算段もつかぬうちに、改札を前にしたところ、女学生と思われる婦人から、
切符を落とされましたでしょう。と声をかけられたのである。
問えば、落としたところを見たものの、ついに声をかけられずにいたと言う。
当方、ほっと気を持ちを治すと同時に感謝の念であったその時、手渡してくださる婦人の甲が目に入ったのである。
その手、ひどく赤く腫れ、浸出液が茶に乾いて何とも痛々しい。
婦人が語るところによれば、日々痛がゆく眠れぬ事もあるというのだ。
不躾とは感じたが湯茶で甲を拭い清潔を保ち、葛湯を日に三回、腹の空いている時に服用されたしと
告げ、この場を後にした次第である。
しばらくの後、偶然にも婦人に再会するが、半信半疑ではあったが、どこの医者にも見せて治らぬ故、
当方の言を試してみたというのである。後、数週間できれいな肌にもどり家族共々、感嘆したという。
ぜひ、お礼にと駅舎を待ち、再会を果たしたというわけである。
(清庵師寓話説法・第三巻二の十)