家政婦の暴露本1
魔家族花田家の不思議な人々 森下よしこ
若乃花があるイベントで賞を与えられることになり、その打診が二子山部屋に
ありました。
賞品は着物か現金のどちらかを選んで欲しいという申し出に、憲子さんは迷わず
「着物はたくさんありますからねえ、現金で・・」と答えていました。
さて、当日です。イベントに出席して帰ってきた若乃花が、いきなり憲子さんを
怒鳴りつけました。
「オイ、何でこのオレが五十万円なんだよ。オレなら百万だろ、この野郎!」
「そんなこと言ったって、私の責任じゃありませんから」
「冗談じゃねぇ、謝れ!土下座しろ!」
結局、憲子さんが土下座して謝ると若乃花の腹の虫は納まったようですが、
納まらないのは憲子さんです。
「私、勝にあんなひどいことされた初めてですわ」
そういうとボロボロ泣き出して、これから軽井沢に行くとわめき出しました。
すると、若乃花はこう言うのです。
「雨降ってるぜ、大変じゃねえか。もし途中で事故でも起こしたらグレース・ケリーに
なっちゃうよ」
その言葉を聞いた途端、憲子さんはピタッと泣き止みました。
「森下さん、聞いた?勝が私のことグレース・ケリーって言ってくれたのよ」
家政婦の暴露本2
要するに、若乃花という男は実にいい加減な男なのです。それが証拠に、離婚話
までしておきながら、その後、美恵子さんにまた一人子どもを産ませています。
父親である二子山親方に「あいつは虚言癖がある」とまで言われる若乃花ですが、
下半身だけは嘘をつかないようです。
さて、美恵子さんとの離婚は回避できたものの、若乃花の女癖の悪さは収まるどころか、
ますますエスカレートする一方でした。テレビ朝日のアナウンサーやクラブのホステス、
キャンペーンガールやモデルなど数え切れません。
若乃花が得意げにその話をするたびに、憲子さんは「アンタ、やめて、その話」と
耳をふさいでいたことがあります。
また、美容師の女性のアパートにも足しげく通っていたことがあり、若乃花は私が
いる前でも嬉しそうに話していたものです。
「あの子たちは、一生懸命仕事して遅くに帰ってくるだろ。休みの日なんか疲れて
グッタリしてるんだ。そんな時、オレが部屋の掃除をしてやったり洗濯してやるんだよ。
そういうことしてやるのが好きなんだ」
それを聞いた時は、私は思わず心の中でこう叫んでいたものです。
《そんなこと他の女にしないで、自分の女房にしてやれ!》
家政婦の暴露本3
若乃花という男性は、一途に相撲に精進する弟・貴乃花関のような純粋さは、
かけらも持ち合わせていない人でした。現役の時も引退してからも相変わらず
「気のいいお兄ちゃん」のイメージがありますが、若乃花の素顔はテレビなど
で見るイメージとはまったくの正反対なのです。特に下半身においては・・・・。
若乃花のスキャンダルのほとんどが女性問題です。美恵子さんとの離婚騒動の時は、
九州の女子大生に入れ込んでいて、それが発覚したことから離婚にまで発展しそうに
なったものです。それでいながら、マスコミは美恵子さんバッシングに走りました。
美恵子さんのおっとりとしたキャラクターがそうさせたこともありますが、ほとんどは、
゛気のいいお兄ちゃん゛という若乃花のイメージに騙された結果なのです。
若乃花の多くの女性問題については、よく憲子さんに聞かされたものですが、まさに
゛懲りない下半身゛のレッテルに恥じないものでした。
若乃花の恋人として一時噂になった女性アナウンサーがいました。若乃花が彼女と
交際していたことは事実ですが、ある時、憲子さんが若乃花にこう話していました。
「あなた、良い加減にしなさいよ!結婚してるんだし、週刊誌がうるさいわよ」
すると、若乃花はこう言うのです。
「いいんだ、いつだって離婚できるから。俺、本気だから」
若乃花の゛本気゛は口癖です。相手が誰であっても、お遊びの恋の相手には゛本気゛
なのです。それを聞いても、憲子さんはたしなめるどころか、笑いながらこう言うのです。
「ま、いいけど、見つからないようにしてね」
「うん、彼女はね、小さなマンションに住んでるんだよ。アナウンサーって、ああ見えても
貧乏でね。洋服一つ買えないってさ。お袋、何かいらなくなった洋服ないかな」
そう言われて、憲子さんはタンスの中から着古した洋服を引っ張り出してきては、
若乃花に渡していました。後日、「彼女、喜んでいたよ」そう言われて、憲子さんも
また喜んでいましたが、果たして女子アナウンサーが本当に喜んでいたかどうか、私は
首を傾げるばかりでした。テレビなどで見る限り、その二十代の女性のセンスは、憲子さん
のセンスとはとてもかけ離れていたものだったからです
家政婦の暴露本4
でも、このアナウンサーにはかなりのお熱だったようで、さすがに度が過ぎてくるとたし
なめる憲子さんに対しても、
「とにかく好きとか嫌いとかじゃないんだ。俺と彼女はそんなのを超越して分かり合える
仲なんだから」
と訳の分からない言い訳をしていました。そして、二人でいるところを何度か週刊誌に
尾けられたりもしたのですが、その度に「俺はまくのが上手」と嘘ぶいていたのです。
(中略)
若乃花は、憲子さんと私がいる所にでも、時々、違う女性を連れてやってきました。
時にはこの『S』のママであったり、ビールのキャンペーンガールだったりしました。
その度に若乃花は、お手伝いの私に自分の連れてきた女性についての感想を求めるの
でした。
「森下さん、どうだった?あの子」
私が言い淀んでいると、側から憲子さんが引き取って、こう言うのです。
「勝ったら、味のある顔の子が好きなのよ。笑い顔に特徴がある子が好きなんでしょ。
美恵子さんは顔に表情がないものね」
そう言って母と子は笑いあうのです。そう言えば、『S』のママは工藤静香さんを
クシャクシャにしたような顔で、言われて見れば、゛味のある顔゛かもしれません。
家政婦の暴露本5
このように若乃花の性格は、母親の憲子さんに似ていると言えるでしょう。
表面的には人のいいお兄ちゃんを標榜しながら、陰では他人の悪口言い放題。
その言い方もヤクザ顔負けの汚さで、とてもテレビで見るようなイメージとは
ほど遠いものでした。
「テメェ、この野郎」は当たり前。女性に対しても口説いてしまった女性に対しては
まるで亭主気取りの口のききかたでした。
母親の憲子さんが極妻なら、倅の若乃花はチンピラヤクザといったところでしょうか。
その点、貴乃花関は父親の二子山親方に似ていると言えるでしょう。もっとも性癖に
おいては別人格ですが、親方が現役であった頃の相撲にたいする真摯でひたむきな姿勢は、
そのまま貴乃花関に受け継がれているようでした。そのいい例が、兄・若乃花に
たいする批判だったのでしょう。しかし、あの事件の前後あたりから、花田家の中での
親子兄弟の絆がじょじょに崩れつつあったのです。当然、あの頃は憲子さんのM医師との
不倫が始まっていた頃で、親方と憲子さんの夫婦仲は完全に冷えきっていました。
家政婦の暴露本6
ある時のことでした。私と憲子さんが三階の部屋にいる時、一階から知り合いの人が
血相を変えて上がってきました。若乃花と貴乃花関が喧嘩をしているというのです。
一階の稽古場に行くと、土俵の真ん中で若乃花と貴乃花関が今にも掴みかからん
ばかりの形相でにらみ合っていました。その二人を取り囲むように、お弟子さんたちも
一触触発の空気です。
「テメェ、この野郎、こっちがおとなしくしてりゃいい気になりやがって」
若乃花が例の調子で息巻いていました。貴乃花関も黙っていません。
「でたらめやってんのはそっちじゃねぇか!」
それを見た憲子さんが、こう叫びました。
「あんたたち、何してんの!こんなバカたちが見てる前で!」
その瞬間です。若・貴兄弟も、それを取り囲んでいたお相撲さんたちの表情が一変しました。
それでも、その場は憲子さんの一言で収まったのですが、収まらないのは貴乃花関でした。
その時は黙っていた貴乃花関でしたが、しばらくして私と外出した憲子さんのもとに電話が
掛かってきました。憲子さんは携帯電話でさかんに言い訳をしていました。そして、電話を
切るとこういうのです。
「もう光司ったら、私のことを絶対に許さないっていうのよ。みんなは血の出るような稽古を
して相撲を取ってるというのに、部屋のおかみさんともあろう人が、弟子たちをバカと
言うのは許せないって。私に謝れってきかないのよ。ほんとに光司ったらわけがわからないん
だから、もう」
ぶつぶつと文句を言う憲子さんを見ながら、花田家が崩壊していくのは当たり前だと思った
ものです。
家政婦の暴露本7
そして、若乃花の女性遍歴は必ずしも同時に進行していたわけではありませんでした。
一人の女性に夢中になると他の女性は全く目に入らなくなるタイプなのです。
付き合っている期間はほんのわずかですが、その度に「あの世でも一緒になりたいほどの仲なんだ」
と吹聴していました。ところが、その女性と別れると、すぐ、他の女に惚れこんでしまう。
若乃花は何度“あの世”に行ったことかと呆れるばかりです。
良妻賢母であった憲子さんは、こと我が子のことになると甘い母親でした。
貴乃花関が二〇〇一年の夏場所で、足の怪我をおして出場し、千秋楽に壮絶な優勝決定戦で
横綱・武蔵丸関を破り優勝したことがありました。表彰式の時、小泉総理が「よく頑張った。
感動した!」と絶叫して腸杯を渡したことを覚えている人も多いでしょう。
それをテレビで見ていた憲子さんは、こう言ったものです。
「光司のお蔭で小泉総理も有名になれるわね」
あの時、あのシーンを見て、こんなことを思っていたのは日本中でも憲子さんただ一人でしょう。
花田家では、特に憲子さんと若乃花は、何事も自分たちを中心に世界は回っていると思っている
人なのでした。