東浩紀 その214

このエントリーをはてなブックマークに追加
489名無しさん@お腹いっぱい。
■日本の難点 宮台真司 著 シニカルな態度揺るがず

本書は、「ブルセラ社会学者」として一世を風靡した論客、宮台真司の初の新書である。
タイトルどおり日本社会の困難を横断無尽に論じた書物であるとともに、この10年間の
宮台の思想が凝縮された一冊でもある。

 宮台の思想を一言で表現すれば、「すべてをネタとして見ろ、そのうえで戦略的に動け」
とのメッセージだということができる。本書でその立場がもっとも明確になるのは、国防や
環境問題に触れるときである。宮台は憲法改正に賛成だが愛国や反米にこだわるのは
くだらないと言う。また環境対策には積極的に乗り出すべきだがそれは地球温暖化の
真の原因とは関係ないと言う。

 そこで宮台が説くのは、在日米軍や排出権というカードを外交上いかに有効に使うか、
その戦略「だけ」が重要だ、といういささかシニカルな態度である。その態度が揺るがない
からこそ、彼は横断無尽に話題を切り換えることができる。

 さて、本書はすでにベストセラーであり、実際に内容は充実している。個別の主題で
教えられることは多いので、ぜひ宮台の名になじみがない読者も手に取ってほしい。
しかしそのうえで、書評者が思ったのは、これが現代の論客の終着点なのだな、という
一種独特の感慨だった。

 前述のように、宮台はいかなる理念も信じていない。あらゆる理念は相対化されてしまった、
したがってどうせなら自分たちの幸せのために理念を道具のように使いこなそう、宮台は
そう考えており、この本自体がその哲学の実践でもある。

 その態度は確かに、保守革新、憲法護憲といった空虚なゲームに興じている凡百の論客より
はるかに誠実である。だからこそ彼は、この15年のあいだ若い世代に支持され続けてきた。

 けれども、それは同時に論壇の本格的な死も意味している。論壇誌の休刊が話題のいま、
本書が公刊されたことは時代の必然かもしれない。〈東 浩紀=東工大特任教授〉